1話 星空が示す選択
『星はいつも迷える者を導く』
窓の外から車のクラクションが響く。
白羽寧——ごく普通の高校生は、その不意の喧噪にしぶしぶベッドから起き上がった。
「んー」慣れない時間の目覚めか、脳裏にまだ残る夢の名残り。その余韻を振り払うように、寧はベランダへ歩み寄る。
次の瞬間、彼は完全に覚醒する衝撃を受けた。
視界に広がったのは紺碧の空——渦を巻く雲の間から、あたかも名画の如く、無数の星がきらめいていた。
「……美しい」思考に先立って、言葉が零れた。
中でも二つの星が異様な輝きを放ち、寧は目を細めた。だがそれらは不思議と離れ離れに光り、互いを拒むように位置している。
ふと我に返り時計を確認すると、思考が停止した。
午前七時。
「いや、待て。これは……」現代日本でこの光景はまずあり得ない。ましてや夜明け前の空が、まるで深夜のような深藍に染まるなど。慌てて振り返ると、さっきまでの奇跡は消え、どこにでもある灰青色の朝空が広がっていた。
「夢……か」寧は首を振り、洗面所へ向かった。
学校では休み時間の教室が賑わう中、寧が席に着くと、明るい栗色の髪をした男子が近寄ってきた。
「おい寧、朝からどんよりしてんじゃねえよ」宮本祐——茶髪の同級生が肩を叩く。
「元気ないっていうか……衝撃を受けたというか」
「どうしたんだよ」
「……いや、なんでもない。気にしないで」
祐があの光景を見ていないことは明らかだった。もし見ていたら、とっくに騒ぎ立てているはずだ。寧は「頭がおかしくなった」と思われるのを避けるため、黙っておくことにした。
その時、後方の女子グループの会話が耳に飛び込んできた。盗み聞きするつもりはないが、声が大きすぎて仕方ない。
「今朝すごい光景見たんだよね~」
予期せぬ言葉に反射的に振り向くと、淡い茶色の長髪が揺れる女生徒が目に入った。
「……えっ?」思わず声が漏れる。