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《第八話:おとぎ話》

「なるほど……」


 レオンの告白を受けて、信彦は(つぶや)く。少年の瞳には、深い悔恨(かいこん)苦悩(くのう)が浮かんでいた。

 その瞳を見つめ、信彦は続ける。


「つまり、君は《妖精を名乗る魔物(ゴブリン)》と商取引をするために、オークの一団を村に引き入れた」


 設営された野営地で、信彦は


「だが、ゴブリンは君たちグリーンヒルズ村の人々を(だま)し、オーク達を使って村人を皆殺しにした……しかしどういう訳か、毎日毎日、村人は復活し、その度にオーク達による虐殺(ぎゃくさつ)が繰り返されている。そういうことだね?」


 今まで聞いたレオンの話を自分なりにまとめてみた。

 しかしレオンは浮かない様子。顔色は暗い。


「おらも最初……そう思ったずら。それで、近くの街に行って、冒険者ギルドに討伐依頼を出したずら」


 依頼費用は村に戻った際に、村長の家から拝借(はいしゃく)したとのことであった。

 火事場泥棒だが、緊急事態。仕方のないことだろう。


「《時間が巻き戻っている》とか、そんなバカみたいなことを考えていたずら……もしかしたら……もしかしたら、おらがこの村を救う勇者で、その悲劇を救うために、何度も何度も同じ時を繰り返しとる、とか……」


「でも……違った」


 駆が受ける。


「そうずら」


 レオンは沈痛(ちんつう)の面持ち。


「……最初に来た傭兵団の人たちは、オーク達を撃退してくれたずら。だけど、やっぱり次の日には再び村は襲撃されて……そのあと何度倒しても、やっぱりオーク達は次の日には襲撃してきて……それで、傭兵団の人たちは街に帰ってしまったずら」


「苦しかったでしょう。可哀(かわい)そうに……」


 美香子が涙ぐんだ声で。


「でも……それで気づけたずら」


 レオンは覚悟(かくご)を決めた顔で続けた。


「グリーンヒルズの村の皆は、ゴブリンに《騙されたんじゃない》……たぶん《(ばつ)を受けとる》んだって」




「罰?」


 レオンの発言の意味が分からない信彦。聞き返す。


「そうずら……お金に目が(くら)んでしまった、その罰を受けているのずら……」


 (うつむ)くレオン。

 再びレオンの言葉の意味が分からないという様相の信彦。ただ、今回はニュアンスが異なる。


「レオン君、それは違う。悲劇が起きたとき、人は自分に非があったのではないかと、何か出来ることがあったのではないかと、そう自らを責めてしまうものだ……だがそれは違う。君は、君たちグリーンヒルズ村の人達はゴブリン達によって騙された被害者。悪いのは、騙してきたゴブリン達。そこを取り違えてはいけない」


 信彦は力強く言った。彼は少年の心の傷を癒そうとした。


「……」


 だが、レオンは納得がいった風ではなく、(だま)って首を横に振り、それきり俯いている。


「……ゴブリンは妖精の一種。容姿はオークの子供に似ているが、知能は高く、高度な魔法を使いこなす。オークの群れを導くことを使命とし、ゴブリンに率いられられたオークの一団は次第に温厚な性格へと変化してい――」


「駆、何をぶつぶつと呟いているんだ?」


 魔動機片手にそんなことを呟いていた駆に、苛立(いらだ)ちを帯びた声色で信彦。


「アルカナ大百科――《魔動機に搭載(とうさい)されてる辞書》の記述だよ。ゴブリンがどんな生物なのかと思って」


「駆……お前ももう二〇歳を超えているんだぞ?」


 信彦は呆れた声色で、


「ゴブリンや妖精は、おとぎ話の世界の生き物だ。そんなもの、現実にはいないんだ」


 そう(さと)すように続けた。

 場を沈黙(ちんもく)が支配する。


「……どうして罰だと思うの?」


 美香子がレオンに問いかけた。

 彼女は心配そうに見つめていた。


「……違ったずら……」


「えっ?」


 呟くレオン。聞き取れなかった美香子。

 顔をあげるレオン。覚悟を決めた表情。


「広場にいたのは、村の人達じゃなかったずら……見た目はそうでも、中身が……」


「どういうこと?」


「たぶん……広場で磔にされているのは……《エルミン様の仲間達》ずら……」


「? ゴブリンの仲間はオークだと聞いていたが?」


「村の人達は、おらと同じで訛っているずら……村長はそうでもないけど……でも広場にいた人達は皆流暢にルーサ語を喋っていたずら……」


「でも見た目は、君の村の人達だったんだよね?」


 頷くレオン。


「そう……ずら。おらも良く分からないずら……実際、前に来てくれた傭兵団の人達には、話せなかったずら。確信を持てなくて……」


 そして続ける。


「もちろん今も確信はないずら。間違っているかもしれないずら……でも、もしこれが《エルミン様の村人への罰》で、その贖罪(しょくざい)をすることで、この悪夢を終わらせる事が出来るんなら……ほんのちょっとでも、その可能性があるんなら、()けてみたい……エルミン様達に謝って、この呪いを解いてもらいたい……そう思っているずら」


 言い終えると、レオンは自分が何故今の村の状態がエルミンの罰だと思うのか、その根拠(こんきょ)をより具体的に話し出した。


「……信じられない話だ」


 信彦は呟く。

 信彦は呆然とした表情で言った。彼はレオンの話を疑う気持ちを拭い去ることは出来なかった。

 だが同時に彼の話に真剣さも感じていた。


「そうね。まさしく、おとぎ話」


 美香子はレオンの手を握りしめ、頭を優しく撫でながら。

 レオンの手は冷たくて震えていた。美香子はレオンの苦しみを感じ取る。


「だけど、僕はレオンの提案に乗ってみたいな。どうにもならないかもしれないけど、もしそれで解決出来たとしたら『めでたしめでたし』だもん。パパ、ママ、やってみようよ。レオンの作戦、乗ろうよ」


 自信に満ちた声。若者らしい、楽観的な駆。


「……」


 レオンの瞳から涙がこぼれた。彼は駆に自分の気持ちを伝えようとしたが、言葉にならなかった。

 それは《感謝の言葉》。

 年の頃で言えば、駆の方が大分年上ではあったが、通じる所があったのかもしれない。


「信彦さん」


「……あぁ。そうだな」


 信彦と美香子は駆とレオンに心動かされた。未来を、善意を信じる二人の若者の姿に。

 彼らはレオンの作戦を実行することを決めた。

 危険な策。だがそれでも、彼らは希望の光を見る。

 ハッピーエンドのおとぎ話のような幸せな結末を。

・あとがき


 高評価、ブックマーク、リアクション、感想など頂けると、嬉しいです(^^)

 それでは、次話でまたお会いできると信じて!

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