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《第二章 エピローグ:王として》

 ネヴァースプリング伯爵の間。朝の光が高窓から(ほの)かに差し込む。

 ホノリア国王エドアルトは、重厚な椅子に腰掛け、彼の前に立つアルフレッド=ヴァレンタインは、王太子として、側近たる監察官として、言葉を選びながら進言する。


「『御身(おんみ)一つで前線の砦へと参られたし』などと……父上、アリアドネの申し出は、罠かもしれません。どうか、思いとどまっていただけませんか?」


 しかし、エドアルトの緑色の瞳は、決意に満ちていた。彼はゆっくりと立ち上がり、ヴァレンタインの肩に手を置いた。


()は国王だ。王たるもの、民を、国を守るためには、時に自らの身を危険に晒さなくてはならぬ時もある」


 そして静かに言い放つ。


「今がその時」


 春遠城(ネヴァースプリング)居城の長い廊下を歩きながら、エドアルトは自らの決断を振り返り思索する。しかし王としての重責を背負う彼の足取りは堅固で、その心に揺らぎはなかった。

 エドアルトの茶色の髪が朝日に照らされて輝き、蓄えられた長髭(ながひげ)は経験と知恵の証として威厳を放っていた。


「では行こうか、我が友よ」


 城門近くの(うまや)。そこでエドアルトは自らの愛馬たる美しき白馬に(また)がろうとして――


「グハッ!」


 何者かに背中を蹴とばされた。

 地面に倒れ込む。

 怒りの感情を込め、エドアルトが振り向くと、


「たくっ! どういうことだい?」


 そこには鳥を彷彿とさせる頭に人間の体、そして巨大な翼を生やした亜人の姿。

 鳥人間(アーヴィス)だ。


「これから死地に(おもむ)こうってんだ。相棒たるあたしメリダ様を置いてこうだなんて、どういう了見さ?」


 メリダは怒り心頭といった具合で、地面に倒れ込んだエドアルトを見下げている。


「メリダよ。我が親愛ある友よ……ではこちらからも問わせてもらうが」


 エドアルトは(うら)みがましい眼差しと共に、


「出会い頭に蹴飛ばすのが、相棒のすることか?」


 恨み言を漏らす。

 メリダは手を差し伸べ、エドアルトはそれを掴んで立ち上がった。


「時には拳を交わしあうのが、相棒ってもんじゃぁないか。だろう、《ネルウァ》?」


 ニヤリと笑うメリダにエドアルトは、いやエドアルト=ネルウァは一際大きなため息をつき、やれやれといった様子で首を振る。


「ほらお乗りよ。姉さんのいる砦まで、あたしの翼ならひとっ飛びさ」


 親指で自身の背中に生える羽を指さしメリダ。

 (くちばし)のような鼻を始め、頭部がさながら鳥のようであることと、背中に巨大な翼があることを除けば、アーヴィスは人とさして変わることない魔物、すなわち魔人である。人語を容易(たやす)く解し、話すことも出来る。

 ちなみに、オークやリザードマンも同じ魔物であるが、魔人と区別されていて、魔獣と呼称されている。


「……安全運転で頼むぞ」


「ヤワだねぇ」


 二人は城壁を越え、広大な空へと飛び立った。メリダの羽は力強く、しかし穏やかに空を切り、彼女の背中に掴まるエドアルトは安堵の息をついた。

 平野を越え、山々を眼下に見下ろす。霧峰山脈。山脈の最高高度は雲を突き抜けるほどであり、それほどの上空であればアーヴィスはともかく気圧気温始め様々な要因で、エドアルトにはとても耐えられない。今彼らが飛ぶのはもっと低空だ。

 彼らは山脈に築かれた砦の一つへと舞い降りる。メリダは慎重に降下している。彼女は、砦群を繋ぐ長城に沿って飛び、目的の砦の門前へとエドアルトを運んだ。


「エドアルト陛下、メリダ《聖魔司令(スチュワーデス)》。ようこそいらっしゃいました」


 彼らの到着は、砦の衛兵たるミノタウロスによって静かに迎えられた。


「アリアドネ聖魔司令がお二人をお待ちです」


 エドアルトとメリダは顔を見合わせた。

 『御身一つ』との要請であったが、二人で来ることがアリアドネにはお見通しであったらしい。


「ご案内いたします」


 砦の門が開く。

 朝露(あさつゆ)に濡れた土の匂いが漂う早朝。砦壁に沿って咲き誇る野花が、冷たい空気をほのかに甘く染め上げる。


「(あれは母上の好きだった花では?)」


 ふと遠き日の記憶が思い起こされ、エドアルトは思索に耽る。彼の緑瞳は、(そび)える山脈の遥か上空を見据(みす)える。茶髪が風に静かに揺れていた。


「陛下、お待ちしておりました」


 砦の司令室に入ると、アリアドネが静かに声をかける。彼女の声は、戦いの疲れを一切感じさせず、むしろ研ぎ澄まされた剣のように、鋭く、冷静であった。

 彼女の羽毛は、夜空を思わせる深い紺色で、光に当たると星のようにきらめく。その姿はまるで神話から飛び出してきた伝説の生き物のように、神秘的な美しさに満ち溢れていた。


「マスター・ヴァレンティヌスは、クーデターを通じて、陛下の《王としての資質を問う試験》を行っていたのです」


「どういうことだい、姉さん」


 ゲオルギオス・マクシミアヌス・ヴァレンティヌス・ド・ホノリア。それが辺境伯の本名である。

 アリアドネはメリダと同じく鳥人間(アーヴィス)であり、メリダの姉、そしてゲオルギオス=ヴァレンティヌスの相棒。すなわち《聖魔の近侍(ホーリーセイバー)》であった。


「マスターは、もし陛下がクーデターの企みに気づかず、兄に遠慮し続けるようならば、王として不適格だと考えていました」


 彼女の声は、穏やかでありながらも力強い。部屋に満ちる暖炉(だんろ)の炎のように。


「民を(いつく)しみ、温厚な政策で貴族に相対し国をまとめるのは素晴らしいことです。しかし、それだけでは昨今の厳しい世界情勢に対応できないと、マスターは考えていたのです」


 エドアルトは深くため息をつき、窓の外に広がる山々を見つめた。その先に広がるのは、大魔王の治める暗黒帝国。

 兄にも考えがあってのことと理解はするものの、弟を信じず、国を二分するような行動に出、弟を残し、一人この世を去ったことに、悲しみとともに怒りを感じていた。


「しかし陛下、あなたは企みに見事気づき、歴戦の傭兵団を伴わせた王太子殿下を差し向けた」


 アリアドネは続ける。


「もとよりマスターは、自身の判断が杞憂(きゆう)によるものであったと分かれば、その生を終える覚悟でした。マスターは戦いには負けましたが、勝負には勝った。本心では喜んでいたと、わたしは思います」


 メリダは、エドアルトの隣で静かに頷いた。彼女のオレンジ色の瞳は、姉の言葉に深い理解を示していた。


「……確かにそうであったかもしれない」


 エドアルトも沈黙の後、彼の近侍と同じく認める。


「もしネヴァースプリングにそなたが配置されていたのなら、ヴァレンタインの聖魔の助力なしには、さしもの傭兵団といえど勝ち目は薄かったであろう。聖魔達の大半は砦を守るそなたに預け、精鋭とはいえリザードマン四体のみで交戦したのは、そなたの発言を、兄上の御心(みこころ)を裏付けるものだ」


 王としての資質。エドアルトは考える。『果たして自分はそれを持ち合わせているのだろうか?』と。


「わたしは、陛下がこの厳しい情勢をも乗り切る資質を有していると信じています」


 堂々としたアリアドネの声は、部屋中に響き渡り、エドアルトの心にも響いた。


「マスター・ヴァレンティヌスも同じく。陛下、あなたはこの国を、どんな困難からも守り抜くことが出来るはずです!」


 アリアドネは微笑みを浮かべる。

 エドアルトは決意を固めた。


「アリアドネ、兄上のおっしゃった通り我らがホノリアは遠からず未曾有(みぞう)の危機に直面することになるだろう」


 エドアルトはアリアドネに(おごそ)かに語りかける。


「余は、この国を守り抜くという重責を負っている。それにはより多くの者の助けが必要だ」


 彼の声は、温かでありながら力強かった。部屋を満たす暖炉の炎のように。


「アリアドネ、余の近侍となり姉妹で王国を支えてはくれまいか?」


 アリアドネは静かにエドアルトの言葉に耳を傾けていた。

 そして頷き、


「わたしはあなたのため、亡きあの人のため、全てを捧げる覚悟です。ホノリアの平和のために、あなたに仕えます、《マスター・ネルウァ》」


「姉さんの知恵、そしてあたしの力があれば百人力さ! ネルウァ、しっかり使いこなしておくれよ」


 部屋に満ちる空気が変わった。互いの目を見つめ合う三人。信頼に満ち溢れている。

 彼ら彼女ら三人が、王国の未来を明るく照らし出す光となることだろう。

・あとがき


 著者の北条 ゆうです。

 《第二章 エピローグ》お読み頂き、本当に有難うございます。お楽しみ頂けましたでしょうか?


 さて、前話の《第二章 最終話》でこの小説のタグにも入れている《因果応報》のテーマについて《第一章 プロローグ》と合わせてお読みいただくことで、物語として少し形にすることが出来たかな、と思っているところなのですが……


 ここでお話のストックを貯めるため、毎日更新を終わりにしたいと考えております。

 キリの良いところまで書き上げ、準備が整いましたら、再び毎日更新を再開する予定です。


 そして最終話のあとがきでも告知させて頂いていたのですが、クドイことは承知の上で、もう一度告知させてください(≧Д≦)


 昨日Amazonでオリジナルのライトノベルを出版させて頂きました!


 『きっとあなたは運命の人だと思うから 《歴史オペラ ふぁんたじー×たいむ》』というタイトルで、ファンタジー世界に存在する、近未来の日本が舞台の小説です。


 総ページ数は一般的なライトノベルの倍に当たる、およそ六〇〇ページ。

 イラストは七一枚。すべてカラーイラストで、見開きイラストも八枚あり、イラスト集としてもお楽しみ頂ける作品となっております。

 試し読みも、五〇ページ以上ございますので、もしよろしければ一度お手に取って頂ければ幸いです。


【作品ページ(アマゾンで『歴史オペラ』と検索して頂いても、ヒット致します)】

→https://www.amazon.co.jp/%E3%81%8D%E3%81%A3%E3%81%A8%E3%81%82%E3%81%AA%E3%81%9F%E3%81%AF%E9%81%8B%E5%91%BD%E3%81%AE%E4%BA%BA%E3%81%A0%E3%81%A8%E6%80%9D%E3%81%86%E3%81%8B%E3%82%89-%E3%80%8A%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%82%AA%E3%83%9A%E3%83%A9-%E3%81%B5%E3%81%81%E3%82%93%E3%81%9F%E3%81%98%E3%83%BC%C3%97%E3%81%9F%E3%81%84%E3%82%80%E3%80%8B-%E3%81%82%E3%81%8A%E3%81%84%E3%81%A8%E3%82%8ABOOKS-%E5%8C%97%E6%9D%A1-ebook/dp/B0F31JP74S/ref=sr_1_3?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=1RYUHD8X5FGGQ&dib=eyJ2IjoiMSJ9.86d5JgjZbDghZPd8llw6t6q2iy4OdLJ5ZBz9zKDxgSTmuR3kJ7EKodA8zcDwZmmLCTHBJObjhtgiGj2ka4Re6121VEUtybs7q4XpdSr4RvMU9cWpgsDyriZN61sQLykeG5ypZS-i5gEjXrdXYZwCdmlrW1Kx1A3ptQ2aKHH6SQ_QI0uYTVG1WU5H4TRx1zyPL2xUp4A6APKWenJurX39ehWFMtS-e7GH4cF1hO1Hsr1JUj9wRvvE-ffpAsqjwalVPY_-EexG0xwvp0AM8W8l_saMePTvVA3bQu5wYEkgSmw.Zwp4CR-eBxRnphPGJJDzNzEa-L12CY1z24Net5gZGTw&dib_tag=se&keywords=%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%82%AA%E3%83%9A%E3%83%A9&qid=1743416823&s=digital-text&sprefix=%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%82%AA%E3%83%9A%E3%83%A9%2Cdigital-text%2C198&sr=1-3


 自信作です!

 よろしくお願いします。


 それでは! またお会い出来ると願って!

 読者の皆様、有難うございました(^^)




※追記


 【小説家になろう】様の創作物に対する姿勢に思うところがあり、こちらでの『異世界かぞく!』の更新は当分見合わせることと致しました。

 改善が見受けられましたら更新を再開する予定です。


 『異世界かぞく!』最新話は【ハーメルン】様あるいは【カクヨム】様でお読みいただけます。

 読者の皆様には御足労おかけいたしますが、ご理解賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。


ハーメルン作品ページ

→https://syosetu.org/novel/354096/


カクヨム作品ページ

→https://kakuyomu.jp/works/16818093094556758762



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