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《第二章 プロローグ:ある麗(うら)らかな春の日に》

 駆はホノリア王宮の庭園で、王妃エレアノールとお茶をしていた。季節は春。庭園は、色とりどりの花々や木々に囲まれている。咲くのは、桜やチューリップや水仙。美しい。

 庭園の中央には、噴水(ふんすい)。水しぶきが太陽の光を反射して虹色に輝く。

 そして噴水の周りには、白いテーブルと椅子が置かれており、そこで駆とエレアノールはお茶を楽しんでいた。テーブルの上には、紅茶やケーキやサンドイッチなどが並んでおり、甘く華やかな香りが(ただよ)っていた。


「エレアノール様、この王宮はいつ建てられたのですか?」


 エレアノールは駆の向かいに座り、紅茶を優雅にすすっている。駆は彼女の美しさに見とれながら、歴史に関する話題を振った。


「この王宮は三百年ほど前、ルイス王の治世に建てられましたわ。それまで王家は、山の上にある古城に住んでいましたの。戦の多い時代でしたから。でも、古城は狭い上に、交通の面を始めとして様々な点で不便でしたわ。ですから平和な時代になり、新しい王宮が交通の要衝(ようしょう)であるこの地に建てられたのです」


 エレアノールは、ゴージャスな水色のドレスを身にまとっていた。ドレスは胸元が大きく開き、エレアノールの白く(やわ)らかそうな肌と豊かな谷間を(あら)わにしていた。

 彼女のウェーブのかかった銀色の髪は太陽の光を反射し、まるで月のように輝いていた。彼女の瞳は青い海のように()み切り、心を奪われるほどの深さも秘めていた。


「なるほど……その古城は今どうなっているのですか?」


 駆は、エレアノールの美しい容姿と豊満な胸に見惚(みと)れていた。


「今でも残っていますわ。(とりで)として、整備されているのです。(ふもと)に小さな街があって、観光客が訪れるので今でもそれなりに(にぎ)わっていますわ。わたくしも《エドアルト国王()》と何度か訪れたことがあります」


 駆はエレアノールを切なげに見つめがらも、興味深く話を聞いていた。エレアノールは駆の反応に喜びながら、ホノリア王国の歴史を続けて語っていく。




『あなたは、この国の歴史に興味があるのですか?』


 あの日エレアノールは、駆の目を見つめながら、優しく微笑(ほほえ)んだ。


『は、はい! 僕は、色々なことを学びたいと思っています。歴史には特に関心があります!』


 駆はエレアノールの微笑みに応えながら、真剣に答えた。

 それが二人の交流の始まりであった。




「ホノリア王国は、一八〇〇年程前に建国されましたわ。その頃、この大陸には多くの勢力が乱立割拠(らんりつかっきょ)していて、争いが絶えませんでした」


 駆は、上質な紺色のローブを身に着けていた。他に身にまとっているものも、普段より格式高く見える。


「そんな時代に、一人の英雄が現れました。《モンスターマスター》であった彼は、強力な魔物を従えて戦場を駆け巡り、次々と敵対者を滅ぼしていきましたわ」


 それら一式は、エルダリオン魔法学院の制服であった。


「そして彼が、初代ホノリア国王:アウグストゥスとなったのです」


 エレアノールは国王の妃であり、駆はただの冒険者。


「彼は、争いのない平和な世を作るため、ある法律を制定しました」


 《エルフの魔法学校を卒業した》というのは人間社会でそれなりに権威あることであった。


「モンスターマスターになれるのは、《国王や貴族のみ》という法律を」


 だが身分違いの恋は許されないだろう。


「こうして野心や叛心(はんしん)を抱くものもなくなり、平和な時代が訪れたのです」


「……でも、それは不公平ではありませんか?」


 思わず駆の口から、そんな言葉が飛び出した。

 エレアノールは国王の妃。身分の違いや社会の不条理。駆は色々なことを今の自分に重ね合わせてしまっていた。

 なぜエレアノールは、王族なのか。

 なぜエレアノールは、既に他の男の妻なのか。


「ええ、不公平ですわ……」


 エレアノールはそう言って、(さび)し気に微笑んだ。

 駆はその笑顔に、心臓が激しく鼓動(こどう)するのを感じた。

 二人の間に沈黙が訪れる。


「……駆、わたくしはあなたとお話するのが好きですわ。あなたはとても聡明で好奇心旺盛(おうせい)な学生。そしてわたくしに色々なことを教えてくれる教師でもあります」


 沈黙の壁を破る勇気を持っていたのは、エレアノールだった。


「駆……」


 エレアノールは駆の名前を呼んだ。駆はエレアノールを見つめる。


「はい、エレアノール様?」


「わたくし……わたくしは……」


 エレアノールは言葉に()まる。そして――


「……わたくしはあなたが好きですわ……」


 エレアノールはそう言って、駆の手を握った。

 駆の心は彼女の言葉と行動にまず驚き、そして直ぐに嬉しさに満ち(あふ)れた。

 エレアノールも駆に()かれていたのだ。


「エレアノール様……僕もあなたが好きです……」


 駆も出会ったその時よりずっと、エレアノールに心を寄せて来た。

 その想いを伝えたい。


「あなたのことが、大好きです。初めて会った時から、ずっと……」


 エレアノールの手を握り返し、言葉を重ねた。

 見つめ合う二人。


「駆……」


 互いの瞳に映る、その想いを確かめ合う。


「エレアノール様……」


 そして二人は互いに身を寄せ合い、顔を近づけて行くのであった……


挿絵(By みてみん)

・あとがき


 という訳で、第二章スタートです。お楽しみいただけていたら幸いです(^^)


 高評価、ブックマーク、リアクション、感想など頂けると、嬉しいです(≧▽≦)

 それでは、またお会いしましょう。

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