《プロローグ:悪役貴公子》
夜闇に紛れながら、アルフレッド王子は王宮の廊下を歩いていた。月明かりが窓から差し込んでいる。足取りは慎重で、静かに歩を進めている。
彼は、駆とエレアノールの関係に疑念を抱いていた。
『エレアノール様はとても物知りですね。勉強になります』
エレアノールはアルフレッドの母であり、王妃。彼女は五二歳という年齢にもかかわらず、その美貌は国中の女性を嫉妬させるほどであった。
銀髪は艶やかに波打ち、碧眼は澄んだ水のように潤っていた。彼女の胸は、どんなドレスを着ても隠しきれないほどの豊満さで、その谷間に目を奪われる者は少なくなかった。
『いいえ駆。わたくしこそ、楽しい時間を過ごせましたわ。とても聞き上手だから。ありがとう、貴方はわたくしにとって理想の生徒です』
駆は大魔王討伐を目指す傭兵団の魔法使いであった。団長の息子でもある。彼は二二歳の青年で、黒髪に茶色の眼を持ち、顔立ちは整っていた。
その瞳は、深く知的でありながら、時折子供のような無邪気さや好奇心を見せる。
そんな彼に、女性たちは様々な感情を抱いた。ある者は、彼を慰めてあげたいと思い、またある者は、彼のものになりたいと思った。
「(母上、一体何を考えておいでなのです……)」
駆は、アルフレッドの母親であるエレアノールに対して、敬意や親愛の情を超えた感情を持っているのではないか。
エレアノールもまた、駆に対して、母性本能を超えた愛情を抱いているのではないか。
「(そんなことがあってはならない! それは、倫理に反しているだけでなく、公になれば王家の名誉に傷をつけることになってしまう!)」
アルフレッドは、そんなことを考えながら、エレアノールの部屋に近づいていた。彼は、エレアノールが駆と密会している可能性があると思っていた。
彼は部屋の前までくると立ち止まり、扉にそっと耳を当てた。
中から聞こえてきたのは、甘い声と吐息だった。
「はぁはぁ……駆……わたくし、あなたが好きよ……」
「エレアノール様……ふぅ……僕も……んぁ……あなたが好きです……」
アルフレッドは、激しい嫉妬と怒りを覚えた。ドアを蹴破って中に乗り込んでやろうかと思った。文字通り頭が沸騰した。
しかし、彼はその場で感情を爆発させることはしなかった。彼は冷静に考えた。
「(今ここで騒ぎを起こせば、王宮中に駆と母上の不倫が知れ渡ってしまう。それでは駄目だ。王家の尊厳に関わる)」
もっと巧妙な手段を使わなければならない。あくまで紳士的に事を為さなければならない。
「(そう……少なくとも、表面上は)」
アルフレッドは、扉から離れた。彼は、深呼吸して怒りを抑えた。
彼の髪は茶色、瞳は緑色。顔立ちは特別端正というわけではなかいが、どことなく意志の強さを感じさせる。その微笑みは不思議と人を惹きつける力があった。
アルフレッドは王国の後継者たる二六歳の青年王太子として、しかるべき自制心を身に着けていた。彼は、自室へと帰っていった。
復讐の計画を練り上げるために。
・あとがき
初めまして。作者の北条 ゆうです。
今回は転移後ファンタジー世界のお話でしたが、次回は転移前の現実世界でのお話になります。
毎日更新の予定です!
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それでは、またお会いしましょう。