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第二話 幼馴染

 山間の街に木枯らしが吹き抜け、秋の終わりと冬の始まりを人々に感じさせる。

 朝日の温もりをかき消すように吹きすさぶ寒風の中、ミーナは家を後にした。


「いってきます!」


 路地裏に快活な声が響き、少女は早歩きで飛び出すように家を後にする。

ひっそりとしたその通りから抜け出せば、そこは石畳の敷かれた立派な街道。そこは忙しなく行き交う人々にあふれ、さらには馬車や荷車も往来していた。

 そんな中を少女は縫うように足早に進んでいく。

 やがて目抜き通りに差し掛かり、両脇に朝市の露店が並び始めると怒号にも似た声が響き渡り、道は人で埋め尽くされる。地元の人間のみならず行商の露店も並び、ここが王都からは遠く離れた山間の町である事を忘れさせるほどの盛況であった。

 その人ごみの中をかき分けながらミーナは歩いていたが、ふと視線を露店で買い物をする一人の少年の方に向けた。

 少女にとって良く見覚えのある少年。その彼に近づき、少年が背負った鞄を少々乱暴に叩きながらミーナは声を掛ける。


「ジェフっ! おはよっ!」


 不意を突かれは、彼は思わず手にした紙袋を落としそうになる。


「なんだよミーナか、驚かせやがって!」


 振返りながら眉間にしわを寄せたジェフという少年をよそに、少女はクスクスと屈託のない笑みを浮かべる。


「驚き過ぎだよ!」

「うっせーな! 笑ってないでさっさと行けよ、遅刻するぞ!」

「ごめんって、もしかして怒った?」


 ふてくされたまま歩き出すジェフをからかいながらミーナは後を追う。

 そんな他愛もない、いつも通りのじゃれ合いをしながら、二人は町の東の外れまで共に歩みを進めた。




 十数分後、彼女らが到着した先にあったのは二人の通う学校であった。

 石造りの重厚な校門が、年季の入った校舎と共に学校の歴史と権威を感じさせるようだったが、二人は何を思うわけでもなく、いつも通りに各々の教室へと向かう。


「また後でね、昼休みにいつもの場所で」

「ああ」


 別れ際にそんなやり取りをしていると予鈴が辺りに響く。普段通りの、昨日とも一昨日とも変わらない光景。

 そして、二人は駆け足で教室へと向かっていった。




「えー、その為にこのラドフォードという町は山間にありながらも……」


 授業で習う、自分の街の歴史に興味が無いわけではなかったが、少女はもっと気になる事があるのか、教師の言葉など耳に入らないかのように外を眺めていた。ミーナは秋晴れの高い空をぼんやりと眺め、そして小さくため息をつく。

 そんな風に彼女がうわの空でいると、終業の鐘が鳴り、周囲の生徒たちは一斉に席を立った。


「明日は試験も行うので皆しっかりと……」


 教師の言葉を最後まで聞かないのは彼女も例外ではなく、椅子から立ち上がりざまに鞄の肩ひもを握りしめると、幼馴染との約束の場所へ駆けて行った。




 校舎の階段を駆け上がったその先、木製の扉を開けるとそこは町を一望出来る屋上だった。頭上に輝く太陽は少し眩しく、ミーナは目を細めながらジェフの姿を探す。

 すると唐突な大声と共に、少女は背中に衝撃を受けた。


「おっせえぞ!」


 朝、ジェフにした事をそっくりそのまま返されたミーナ。少女は苦虫を噛みつぶしたような顔で少年に批難の眼差しを向ける。


「もうっ! なにするのさ!」

「よく言うぜ。これでおあいこだろ?」


 手にした紙袋から取り出したパンをかじりながら、目を細めて笑顔を浮かべる少年を見た彼女は肩をすくめた。


「なんかジェフと精神年齢が一緒みたいで嫌だな」

「実際、同い年なんだから気にするなよ」


 けれども彼は少女の嫌味も大して気に留めない様子で、パンを頬張りながら屋上の縁へと歩き出した。


「ところでさ、森の中の古城って覚えてる?」


 そんな彼を追いながら、ミーナも鞄からパンを取り出しつつも少年に尋ねた。


「覚えてるぞ、昔探検したよな。それこそ端から端まで」

「良かった、覚えててくれて! それでさ、確かに隅々まで探検したと思ってたんだけど、実はまだ隠し部屋みたいなのがあったんだよ!」


 縁に腰を下ろしながらミーナは早口に続けた。


「塔があったのは覚えてる? その塔の上り口がある小部屋?の片隅に穴が開いてて、穴を覗き込んだ先に見覚えの無い扉を見つけたの!」

「まだあんな所に行ってるのか……、いい加減に飽きろよ」


 二つ目のパンを頬張りながらジェフがあきれた様に答える。


「ねえ、一緒にその扉までの通路を探してくれない?」


 手にしたパンを握りつぶさんとばかりに握りしめながらミーナは語気を強めたが、そんな彼女を見ながら少年は大きくため息をついた。


「どうせ『手伝うよ』って言うまで付き纏うんだろ? 手伝ってやるよ。まあタダとは言わねーけどな」

「そう言うと思ったよ。で、何して欲しいの?」

「昼飯一回おごりで良いぜ。それか、お宝があったら山分けでも良いぞ」


――ジェフらしいな。そんな風に思ったかのようにミーナは肩をすくめて苦笑すると、少年の要求を承諾した。


「良いよ。あんまり高い物はおごれないけどね」

「出来たらお宝が見つかると良いんだけどな。ちょうど今日は暇だから、放課後に付き合ってやるよ」


 白い歯を見せてジェフが笑うと、ミーナも顔を綻ばせる。


「ありがと、じゃあまたあとで。場所は分かるよね? 現地集合で!」


 幼馴染の二人が互いの手を叩き、パチンと言う乾いた音が鳴ると同時に昼休みの終わりを告げる予鈴が響いた。

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