エピローグ
一通の手紙が少女の元へと届く。差出人は王立図書館。
降りしきる雪を窓の外に見ながら、三人は小さなテーブルを囲んでいた。粗末な木のテーブルの上には立派な封書と、無残に煤け、ひしゃげた指輪があった。
「あら、これって……」
「先に渡しておこうと思って。ちょっと気持ち悪かったけど、あの怪物の死骸の中から見つけてきたんだ。きっと大切な物だと思って」
おもむろに指輪と手に取ると、エリーはそれを懐に仕舞った。
「ありがとう。実の所これ、誕生日に姉さんからもらった物なの。随分と昔の事だけどね」
「そんな大事な物を……!」
「人の命には代えられないし、それにこうして戻って来たのなら、何も問題無いわ」
ミーナに微笑み掛けたエリーは封書に手を伸ばした。
「さあ、今日の本題へと進みましょう?」
そして、封書を少女へと渡そうとするが、ミーナは両の手の平をエリーに向けて、それを断った。
「難しい内容だったら嫌だから、エリーが読んでよ!」
「あらそう? 構わないけど、折角ミーナ宛になっているのに最初に読むなんて何だか申し訳無いわ」
「どうでも良いですけど、なんで二人ともそんなに親しげな口調なんですか?」
手にした封書を開くエリーに、ジェフは何とも怪訝そうな表情で尋ねた。
「あら、一つ屋根の下で寝食を共にする仲なのよ。言ってしまえば家族も同然。敬称なんてよそよそしいじゃない」
「わたしも最初はちょっと違和感あったんだけどね、もう慣れたよ」
「じゃあ俺もエリーさんじゃなくて、エリーって呼んでも……」
「ちょっと黙っててくれるかしら、気が散るわ」
便乗しようとした少年は一蹴され口を尖らせるが、そんな幼馴染を見る少女は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「…………そうだったのね」
しばし沈黙が訪れた後、手紙を読み終えたエリーはおもむろに口を開いた。
「なんて書いてあったんですか? 宝の在処とか書いてませんでしたか?」
「そんな物書いてあるわけないでしょ、ジェフくんはしばらく黙ってて。それで本の内容だけど、おおよそ予想通りよ。二冊目の本に書かれていたのは魂を感応石に移す術についてだったようね。それと、その移した魂を如何するか、という術についても書かれていたようよ。もっともそちらについては、私たちにも詳細を伝える事は出来ないそうよ」
少女は不意に、古城での最後の出来事を思い出した。
「それで、あのブローチの、あの声の女の子がどうしてあんな風になっていたかは分かった?」
「さあ? そこまでは書いていなかったようね。けれど彼女の魂があのブローチに収められていた事は確かなようね」
ミーナはブローチの少女と交わした、僅かな言葉たちを思い返す。その言葉に込められた両親への恋慕は、彼女が受けた愛情と、そして彼女が抱く愛情を感じずには居られなかった。
「もっとも、あんな禁術ですもの。あまり良い事が起こったとは考えにくいわ。魂を弄ぶなど、道理から外れた邪な行為よ」
「……そんな事は、ないかも、ね」
僅かに嫌悪にも似た表情を浮かべるエリーとは対照的に、物悲しげな顔つきで窓の外を見つめるミーナ。
雪は未だ、音も無く降り続けていた。