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第十六話 帰郷

「まともな客船って言うのは良いもんだな。雑用させられることも無いし」

「誰のおかげだと思ってるの?」

「そうね。本を見つけたミーナちゃんと、その本を引き取る代わりに帰りの旅費を、しかも三人分出してくれた館長には、感謝してもしきれないわね」


 事を終えた三人は、既にラドフォードへと帰るための船に乗っていた。秋は足早に駆け抜け、吹きすさぶ寒風が冬の到来を告げていた。


「それにしてもさ、このパチンコって道具は中々難しいね。もうちょっと上手く飛ばないかな?」


 そんな寒空の下の甲板で椅子に腰掛けてくつろぐエリーとジェフを尻目に、ミーナは以前に手に入れた道具の練習をしていた。やる事が無いというのは、彼女のような快活な若者にとって何よりも苦痛だったのだろう。

 先ほどまではエリーに術の指南を受けていたが、いい加減疲れた様子を見せ始めた彼女に気をつかい、一人でも出来る他ごとを始めたところだった。


「ホント不器用だな、貸してみろよ」


 あまりに無様な扱いにしびれを切らしたジェフは、パチンコと弾代わりの小石を受け取ると、たまたま目にした流木を指さした。


「あれを狙うぞ」


 そして狙いを定め、引き絞った弦から指を離すと、緩い弧を描いて飛んだ小石は見事に流木に命中した。


「うーん、もうちょっと練習する……」

「せいぜい頑張れよ。にしてもこんなおもちゃで何しようってんだか」

「まあ良いんじゃないかしら? 何かの役に立つかもしれないわ」


 少年は呆れた表情を浮かべたが、それとは対照的にまるで幼子を見守るかのような優しい視線を向けるエリー。


「うーん、何だか悔しいなぁ……」


 納得いかないとばかりに眉間にしわを寄せるミーナ。再び手にしたパチンコから放った小石は、流木のよりも遥かに下流へと着水し、虚しく水音を立てた。

 それでも少女は諦めずに、時折現れる漂流物やらを狙って練習を続けた。




 やがて日が暮れ、ミーナとジェフは客室のベッドに寝転んでいた。


「ねえジェフ?」

「ん?」


 何をするでもなく、暇そうに天井を見つめていた少年に少女が話しかける。


「ブローチだけどさ……」

「返す。お宝はまた今度で良いよ」


 少女が言葉を終える前に返事をしたジェフは、直ぐにブローチを懐から取り出した。

 そして鮮血のような深紅の宝玉を抱いたそれをまじまじと見つめながら、おもむろに口を開いた。


「結局この宝石の事は館長たちには言わなかったけどさ、ミーナとエリーさんが言うように、その……幽霊って言うか、例の女の子の……魂が本当に入ってるんじゃないかって思って」


  一度言葉を切ると、いつに無く神妙な面持ちで少年は言葉を続けた。


「死んだら魂は体を抜けて自然に還るって、俺もそう思ってる。それなのにこの子の魂は、こんなに小さな石に閉じ込められるんじゃないかと思ったら、お前とおんなじで何とかしなきゃいけない、って気分になってさ」

「……ありがとう」


 ミーナはただ一言礼を言うと、差し出されたブローチを手に取った。


「あっ、でもよ、今の流れからいくともう一回あの城に行くと思うんだけど、もしその時にお宝があったら、それは俺のだからな!」

「はいはい、もし見つかったら全部あげるよ」


 普段のおどけた表情に戻ったジェフを見たミーナは少し呆れながらも、安心したように笑みを浮かべた。




 数日の後、船はラドフォード最寄りの港に到着した。最寄りと言っても、ここから徒歩だと三日は掛かるのだが、帰りの旅費にはまだ余裕があったのでミーナたちは馬車に乗って故郷を目指した。

 港街を遠望する丘をひた走る馬車。そこから見える景色を眺めながら、ミーナは小さくため息をついた。


「もう冒険もおしまいだね」

「冷静に考えたらさ、家に帰るって事は親父にぶん殴られるかもしれない、って事だよな……」


 感傷に浸る雰囲気を台無しにするかのようなジェフの発言に、少女は肩をすくめた。


「大丈夫よ、お父さんにぶん殴られる前にもう一仕事があるから」


 何が大丈夫なのか、エリーの発言は二人には良く分からなかったが、まだやり残したことがあるのは確かだった。

 こうして三人を乗せた馬車は冒険の佳境へと向かうべく、石畳の街道を駆け抜けていった。

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