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プロローグ
無機質な石造りの壁に囲われた、息苦しい程に静かな場所だった。
そこに置かれた祭壇とも思える台の上には、雪のように白い肌の幼い少女が薄布だけを纏い横たわる。
「お父様……」
生気の感じられない薄紫色の唇が僅かに動き、傍に立つ初老の男がその大きな手で少女の頭を慈しむかの様に撫でると、もう一方の手に持った繊細な金細工に紺碧色の宝玉をしつらえたブローチを彼女の胸元に置いた。
すると、少女を見つめていた男の瞳から一筋の涙が流れ落ちる。彼が大きく息を吐き、ゆっくりと瞼を閉じると、少女の体は眩いばかりの光に包みこまれた。
僅かな灯りしかなかったその場所は一瞬、まるで昼間の様に明るくなったが、その一瞬の輝きがやんだ時、その色を深紅へと変えたブローチだけが彼女の居た台上に取り残されていた。
男はそれを手に取って懐に大切そうに仕舞うと、その場を後にする。
鉄扉が閉まる重々しい音が一度響くと、そこには再び静寂が訪れた。