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二章 浮遊戦艦 01

 引き渡しは、金銭の支払いと引き換えに、首輪の魔術に込められた主人の名前を書き換える事で完了するらしい。この首輪には、有紗の名前や年齢といった情報も組み込まれているそうだ。


 手続きが終わると、有紗はバルツァーに連れられ奴隷商人の店を出た。

 外に広がっていたのは、ヨーロッパの古都のような街並みだ。アンナ達と出会った農村とは、また雰囲気が違う。


 店の前にはレトロな車が停まっていて、有紗は大きく目を見開いた。

 第一次世界大戦のあたりを扱った映画に出てきそうなクラッシックカーで、幌のような屋根が付いている。


「魔道四輪車を見るのは初めてかな? 百年ほど前に隣国に落ちてきたテラ・レイスからの聞き取りを元に作られたと聞いているんだけど」

「えっと、見た事は、あります」


 昔の写真や映像で。


「動力は違うけどね。こちらの車はオイルではなく魔力で動く。なので、上流階級専用の乗り物だね」


(魔法で動くんだ……)


 よく観察すると、運転席の形状が地球の車とは少し違う。

 車をこの世界に伝えたのは外国人だったのだろうか。左ハンドルだった。


 バルツァーはハイヤーの運転手のような優雅な所作で有紗を助手席に乗せると、自身は運転席側に回り、車を発進させた。

 魔力を動力としているためか、エンジン音は全くしない。ハイブリッドカーよりも静かだ。

 また、車の中は空調が効いていて快適だった。

 道を行き交うのは、馬車や荷車がほとんどで、車は全く見られなかった。選ばれし者の乗り物だからか、通行人の視線を感じる。


「動物は目が黒いんですね……」


 すれ違った馬車の馬の目は黒だったので尋ねると、肯定が返ってきた。


「そうだね。馬や犬は目が黒い。猫は色々な目の色をしているかな? 青を基本色として、そこに月の恵みの要素が入るのは、神の現身である人間だけだ」

「へえ……」


 動物はもしかしたら、地球と同じような姿をしているのかもしれない。

 大きな町なのか、交通量はそれなりに多く、道には信号機らしきものがあった。

 また、右側通行が徹底されている。


「随分ゆっくりと走るんですね」


 馬車も自動車も徐行に近い速度だ。


「町の中はこれ以上の速度は出せないと法律で決まっているんだ。あまり速度を出すと危ないだろう?」


 確かにバルツァーの言う通りだ。

 日本の交通ルールに通じるものが異世界にもあるのは何だか不思議だった。

 漠然と中世あたりのヨーロッパをイメージしていたが、有紗は認識を改める。

 自動車があるということは、この世界の文明は二十世紀の初頭あたりと考えた方が良さそうだ。


(魔法があるから、実際はもっと進んだ世界なのかも……)


 有紗は少しでもこの世界を把握するために、食い入るように窓の外の景色を見つめた。

 そして、店舗の看板の文字に目を留める。


 ――図形にしか見えなかった。


「話し言葉は通じるのに、文字は読めない。不思議ですね」


 ぽつりとつぶやくと、バルツァーが理由を教えてくれた。


「あなたが元いた世界とは(ことわり)が違うようだね。魔力のない世界と聞いているからその影響だと思う。声として発せられる言葉には魔力が宿ると言われてるんだ。だから、こちらの世界では、どんなに遠国の人間とでも会話は通じる。文字は別だ」


 言われてみれば、吹き替えの洋画を見ているように、口の動きと聞こえてくる言葉が時々合っていない気がする。

 少し違和感はあるが、言葉が通じないよりもずっといい。

 有紗はそう結論付けると窓の外に視線を戻した。

 すると、バルツァーがぽつりとつぶやいた。


「あなたには、私の上官に侍ってもらう」

「上官……? バルツァーさんじゃなくて……?」

「ああ。私があなたを買い求めたのは、その方のためなんだ」

「どんな人ですか……?」

「二十四歳の青年で、おそらく大抵の女性は好ましいと感じる見た目だと思う。……だけど、少し気難しいところがあるから、苦労するかもしれない」


 いくら格好よくてもおじさまに体を許すのはちょっと嫌だなと思っていたから、歳の近い人が相手なのは幸運と思うべきだろうか。


 だが、『気難しい』という表現が気になって、有紗は顔を曇らせた。




   ◆ ◆ ◆




 市街地を抜けると草原が広がっていた。

 人通りがまばらになると、バルツァーは車の速度を上げる。

 街中と違って、土がむき出しになっている。にもかかわらず特に揺れを感じないのは、魔法の力が働いているのだろうか。不思議な乗り心地だった。

 やがて、一面の緑の中に人工的な構造物があるのが見えてきた。


「あそこに行くんですか?」

「そうだよ」


 有紗の疑問にバルツァーは頷いた。


「飛行船……?」


 近付くと、構造物は、そうとしか思えない形をしているのがわかった。


「あれは浮遊戦艦ヴァルトルーデ。我が国、フレンスベルクが誇る最新鋭の飛行母艦だ」


 そう告げるバルツァーの表情は誇らしげだった。


「君には、あちらにいらっしゃるディートハルト殿下に仕えてもらう」

「えっ……」

「光栄に思いなさい。殿下はこの国の第二王子で、この国で最も尊い血を持つお方だ。こちらの女性でもなかなか得られない栄誉なんだよ」


 その発言に、有紗は大きく目を見開いた。




 飛行船の前まで車を寄せ、地面に降り立つと、乗組員らしい軍服姿の青年が駆け寄ってきた。


「バルツァー大佐、お帰りなさいませ! その女性が例の?」

「ああ」

「車はこちらでお預かりします。収容しておきますね」

「頼む」


 バルツァーは車をその軍人に託すと、有紗を飛行船の中へと誘った。

 いくら王子様でも、見知らぬ相手の夜の相手をさせられるなんて嫌だし怖い。

 だが、飛行船に乗るという事には少しワクワクした。

 板張りの床に白い壁、レトロな照明――飛行船の内部は古い洋館のような作りになっていた。また、車の中と同じで適温に保たれている。


「こちらへ」


 バルツァーに付いて行くと、何人かの軍人とすれ違う。

 着用している軍服に大差はないが、全員がこちらに向かって敬礼するところを見ると、バルツァーはかなり偉い人のようだ。


「ここが殿下の部屋だ」


 バルツァーは、一際立派なドアの前で立ち止まった。

 その時だった。

 ドォン!

 重い衝撃音が内部から聞こえてきた。


「暴れていらっしゃるのかな……」


 バルツァーのつぶやきに、有紗は青ざめた。

昨日1/31よりコミカライズの配信が始まっております。


有紗やこれから出てくるヒーローだけでなく、一回限りの登場の脇役も魅力的に描いて頂いておりますので、よろしければ読んで頂けますと嬉しいです。


現在期間限定で1話全部無料で読んで頂けます。

(※こちらの連載、実はまだ1話の範囲に到達していないです)


◆配信サイト◆

コミックシーモア

https://www.cmoa.jp/title/313582/


ブックライブ

https://booklive.jp/product/index/title_id/1786134/vol_no/001


ブッコミ

https://sp.handycomic.jp/product/index/title_id/1786134


よろしくお願いいたします。

※こちらにはリンクが貼れないようなので、後ほど活動報告にリンクを付けた記事を投稿させていただきます。

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