十二章 再会 01
ディートハルトが私室から艦橋に移動すると、探知魔道具の前に人だかりができていた。
「殿下!」
ロイド艦長がこちらに気付いて駆け寄ってきた。
「大変です! 敵機は現在聖エーデル女子修道院上空を旋回しています。どうやら爆撃を加えているようで……」
「殿下の転移魔術で飛べませんか⁉ あそこにはクラウディア殿下が……!」
艦長に続いて声を掛けてきたのはバルツァーだ。
「結界の強化で対応されているようですが、クラウディア殿下の魔力ではいつまで持つか……」
「わかった。すぐに行く」
ディートハルトは承諾した。
何かと突っかかってくる姉は苦手だが、それどころではない緊急事態である。
ディートハルトは転移の魔術式の構築を始めた。
その時である。
左袖のカフスが反応し、赤い光が溢れ出した。
(こんな時に!)
舌打ちをしかけたディートハルトは、カフスの光がヴァルトルーデの進行方向を指したので目を見張った。
(まさか、聖エーデルにいるのか……?)
――そこも、王家ゆかりの場所として、捜索の対象には入っていた。だが、苦手な姉がいる場所だから、意図的に後回しにしていた。
同時にエルンストらしい隠し場所だと思った。
ディートハルトが休暇の度に離宮や別荘を探っているのは、おそらく父には筒抜けになっているはずだ。
ここを探られそうになった時に、アリサを移動させて別の場所に移動させれば、それだけで賭けの勝率は跳ね上がる。
「殿下、その光は……?」
尋ねてきたバルツァーを無視し、ディートハルトは『首輪』の正確な場所を探った。
そして、予想通りだったので目を細めて嗤う。
(可哀想に)
こんな状況で見つかるなんて。
ディートハルトは心の中でつぶやくと、改めて転移の魔術式を組みなおし――空間を跳躍した。
◆ ◆ ◆
久しぶりにアリサを目にした瞬間、ディートハルトの中に湧き上がったのは、愛憎が入り交じった自分でもどう形容していいかわからない感情だった。
可愛い。でも憎たらしい。
なぜ逃げた。父にそそのかされた以外の理由だったら許さない。
閉じ込めて自分だけを求めるように作り替えてやりたい。
ぐずぐすに甘やかして。いや、滅茶苦茶にして壊す方がいいかもしれない。甘やかした結果逃げられたのだから。
瞳の色が変わっているのも気に入らなかった。
(クラウディアの魔術か)
堰を切ったように湧き上がった感情に突き動かされ、気が付いたらディートハルトは彼女の顎を掴んでいた。
靴に何かが当たった。ちらりと視線を下に向けると、腕輪が落ちていた。
ヴェルマーの記憶を覗いた時に見たのと同じものだ。
(父上が渡した魔道具……!)
ディートハルトは、眉間に皺を寄せると腕輪を踏み付けた。
そして、アリサに向き直り、瞳の色を変えている魔術を解除するべく魔力の流れを読む。
左手中指の指輪が原因だった。
指輪は確か、テラでは深い意味を持つアクセサリーだったはずだ。怒りが深くなった。
「その指輪、外せ」
命じると、アリサはガタガタと震えながら指輪を外した。すると、瞳が本来の漆黒に戻る。
この方がずっといい。ようやく満足して、ディートハルトは指輪を有紗から奪い取ると、口元に笑みを浮かべた。
その時だった。
頭上から爆発音が聞こえた。
上空を見上げると、飛行する隣国の羽虫が視界に入ってきた。
ディートハルトは舌打ちすると、アリサに尋ねた。
「クラウディアは?」
「あちらに……」
アリサは青ざめながらも、結界の中心点と思われる場所を指さした。
ディートハルトはアリサを解放すると、替わって腕を掴み、彼女を連れてそちらを目指した。
クラウディアは地面に這いつくばり、必死に修道院を守る結界を強化して支えていた。
ディートハルトは姉の目の前に立つと、魔力を放出して魔術式に流し込む。
「ディート……?」
ようやくクラウディアがこちらに気付いた。ディートハルトは彼女に向かって冷たく告げる。
「無様ですね、姉上。まさかここまで衰えていらっしゃるとは……」
「あんたみたいな魔力の塊とは違うのよ。でも、助かったわ。正直に言うと限界だった。ありがとう、ディート」
姉は顔をしかめながらも、こちらに向かって頭を下げた。
「あまり気は進まなかったんですが、来てよかったです。探し物が見つかりましたから」
ディートハルトは、居心地悪そうにその場に立つアリサに視線を向けた。
すると、クラウディアは目を見開く。
「アリーセ! どうして腕輪を外したの!」
「皆が死んでしまうと思って……。外せばディート様が助けてくれるかもと思いました……」
アリサが震えながら答えると、クラウディアは悔しげに唇を噛んだ。
「その子に酷い事をしないで」
ディートハルトにそう告げた姉の声は震えていた。
「それはアリサ次第かな。わかってると思うけど、逃げたら今度は承知しない」
「はい。承知しております」
ディートハルトの宣告に、アリサは消え入りそうな声で答えた。




