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【全年齢版】軍人殿下と異世界奴隷【コミカライズ原作】  作者: 森川茉里


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十一章 一年後 02

 同時刻――。


 有紗は、クラウディアと一緒に日課の散歩のために庭に出ていた。

 貴族寮の庭の向こう側には、麦畑が広がっている。

 秋口に差しかかろうというこの時期は、既に収穫を終え、物寂しくなっている。

 日本の感覚では実りの季節はこれからだが、こちらでは穀物の収穫期は夏の盛りなのだ。


「今年は久しぶりのに豊作になって良かったわ。去年までは大変だったのよ。二年前の蝕の影響がなかなか抜けなくて……」

「ショク?」

「月蝕よ。まだ教えてなかったかしら? 月が欠けると、魔力の流れが乱れて大きな災害が起こるの」

「ディートハルト殿下の所で教えてもらった事があります。地形が変わるとか……」


 もしかして、奴隷商人の所で出会ったウルスラは、その不作のせいで売られたのだろうか。

 彼女のガリガリに痩せた姿を思い出した。


「テラには存在しないのよね。羨ましいわ」

「そうですね。月食はありましたが、ただの天体現象でした」


 有紗は上を見上げた。

 昼間なので存在感は薄いが、空にはうっすらと赤い月が浮かんでいる。

 こちらの月を好きになれる時は来そうにない。

 有紗は目をそらそうとした。だが、月の傍に小さな影が見え、思い止まる。


(鳥……?)


 ――ではない。形が違う。


「クラウディア殿下、あれ、飛行機じゃないですか?」


 有紗は少しずつ近付いてくる飛行物体を指さして尋ねた。


「……本当ね。どこの基地の飛行機かしら。あまりこの辺りを飛ぶ事なんて無いんだけど……」

「ヴァルトルーデの戦闘機なんじゃ……?」


 有紗の何気ない呟きに、クラウディアの表情が曇る。


「まさか。飛行計画は毎月送って貰っているし、ディートがこちらに気付いた形跡があれば、父からすぐ連絡が来るわ」


 そのまま上空を観察していたクラウディアの表情が、サッと変わった。


「あれ、うちの飛行機じゃないわ。色も形も違う」

「えっ……」

「ヴィナラント機……?」

「ヴィナラントって……」


 隣の国の名前だ。内乱がきっかけでこの国から独立し、その経緯から今も仲が悪いと色々な人が有紗に教えてくれた。

 戸惑っている間にも、飛行機はこちらに迫ってくる。

 そして、こちらに向かって何か光るものが放たれた。


「アリーセ!!」


 クラウディアが有紗を抱き込んだ。

 その直後、爆音が響き渡った。地面が振動する。


(なに……?)


 周囲が薄暗くなった。上を見上げると、透明なドームが修道院全体を包み込んでおり、その向こう側は黒い煙が立ち込めている。

 かと思ったら――。


 ドォン!


 再度大きな音が聞こえ、ドームの向こう側で火柱が立ち上った。

 攻撃を受けている。たぶんあの飛行機に。


「まずいわ。何度もあんな威力の攻撃をされたら結界が持たない」


 クラウディアはその場にしゃがみ込むと、手を地面について魔術式を展開した。

 複雑な文様が円形に広がっていく。


「修道院全体を守るつもりですか⁉」


 この広大な敷地を、彼女一人で守るなんて可能なのだろうか。

 つい不安を覚えて尋ねると、クラウディアは苦笑いを浮かべた。


「今の私の魔力ではあまり長くは持たないわ。でも修道女を死なせる訳にはいかないのよ。だから、アリーセ、サビーネ達の力を借りて全員を聖堂に集めて。それと、父と軍に連絡を」

「はい!」


 切羽詰まった表情に、有紗は承諾すると貴族寮に向かって駆け出した。

 有紗には『首輪』の防御魔術がある。だから、もしかしたら助かるかもしれない。でも、他の皆は。

 何もできない有紗の生活を支えてくれたのは、修道院の面々だ。貴族棟の住人だけではない。有紗の口に入る食事を作ってくれたのは一般棟の修道女達だ。彼女達が死ぬかもしれない。大怪我をするかもしれないと思うと恐ろしくてたまらなかった。

 不安で押し潰されそうになった有紗の視界に、左腕にはめた腕輪が入ってきた。


(これを外せば)


 ディートハルトがここに来てくれるかもしれない。

 そんな考えが天啓のように閃いた。

 その直後、再び大きな爆発音が聞こえた。

 迷っている暇はない。

 有紗は腕輪に手をかけ、一気にむしり取った。

 だが、何も起こらない。


(……そうよね。そんなに都合よく助けに来てくれる訳がない)


 エルンストからは、ディートハルトは有紗探しをやめていないが、一時ほどの必死さは無くなっていると聞いている。

 有紗は苦笑いを浮かべると腕輪をはめ直そうとした。その時である。空から一条の赤い光が自分に向かって降り注いだ。


(なに、これ……)


 有紗は驚きのあまり腕輪を取り落とす。

 次の瞬間、目の前の地面に魔術式が浮かび上がり、そこから立ち昇った光が人の像をかたどった。

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