十一章 一年後 01
ヴァルトルーデへの魔力供給を終え、艦橋から私室に戻ってきたディートハルトは、左袖口のカフスに視線を落とした。
(今日も反応はない、か)
当然だ。自分は何を期待しているのだろう。
自嘲の笑みを浮かべ、執務机の椅子に深く腰を掛けた。
乗艦任務中は、自身の魔力を存分に使えないのが歯がゆい。人脈を使った捜索が中心となる。
(後、調べていない離宮と別荘は三か所か……)
王家が所有する建物は、強固な結界が敷かれており、どうしても自分が直接出向かなければ細部までは調べられない。せいぜい人や金の動きを確認する程度だ。そのため、数少ない休暇は、王家が所有する物件を順番に捜索することにしていた。
父が絡んでいるのだから王族にゆかりのある場所が怪しいが、こちらの推測の裏をかいて別の場所にいるのかもしれない。各地を転々としていた場合はいたちごっこだ。
裏の裏を考え出すとキリがなく、ディートハルトは眉間に皺を寄せた。
気が付いたら早いもので、アリサが逃げ出して一年が経過していた。
彼女に対する怒りはまだ燻ってはいるが、一時期ほどの激しさはおさまっていた。
(逃げた理由を聞いても意味が無い)
テラ・レイスであるアリサには肉体に直接作用する魔術は効かない。したがって心を読み取れないから回答の真偽を判定できない。それに気付いたら、すうっと頭が冷えた。
それでもまだ彼女を探し続けているのは、主人としての面子を守るためで、正式な結婚をしない権利を勝ち取るためでもある。
実際に本人を目の前にしたら、この感情は変わるかもしれない。彼女の処遇はその時に決めるつもりだった。
もし、相変わらず何の感情も湧かなかったら――。
(性処理用の穴として使ってやる)
そして思い知ればいいのだ。自分が一体何をしたのかを。
当然二回目の逃亡を許すつもりはない。既に彼女を閉じ込めるための鳥籠は準備済だ。場合によっては足の腱を切っても――。
そんな不穏な考えに耽っていた時だった。
突如警報音が響き渡った。
《ヴィナラント機の接近を確認、当艦はこれより追跡体制に入る。総員、第一種戦闘配置》
(また来たのか)
領空に入らないギリギリの空域に戦闘機を飛ばし、威嚇し合う。
こちらもやっているのでお互い様ではあるが、その度に対応しなければいけないのでいい迷惑である。
眉を顰めたら、懐中時計型の通信魔道具が鳴った。ロイド艦長からだった。
《先程の艦内放送はお聞きになりましたか?》
「ああ」
《いつもと様子が違うので一応ご連絡を》
「どう違うんだ?」
《四機編隊で飛行していたうちの、一機だけが突然離れ、こちらに突っ込んできていまして……》
ディートハルトは眉をひそめた。
《艦長! 侵入してきました! 威嚇行動ではなく、明らかにどこかを目指しています!》
通信機越しに別の将校の声が聞こえてきた。
艦橋に移動した方が良さそうだ。そう判断すると、ディートハルトは立ち上がった。




