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エゼキエルに送り出されたはいいものの
私とヒースクリフのお使いの道のりは終始無言だった。
といっても不機嫌な様子のヒースクリフが前を歩いて行ってしまうため
私がその背を見失わないように追いかけるのに必死だったからだ。
ヒースクリフは高身長ながらも人を避けて歩くのが上手いらしく
ぶつかることなくすいすいと前を行ってしまう。
対する私といえば少しは街歩きになれたとはいえ
彼のように上手く人を避けて歩く技術など持ち合わせていない。
ましてや足の長さが違うためどれだけ頑張っても
距離は開くばかりだ。
「あ、あの!待って!」
ヒースクリフの背中に向かって声をかけても距離があって聞こえないせいか
彼が振り返ることはない。
「あ!すみません。」
気を取られていると向かいから歩いてきた人にぶつかってしまった。
謝って改めて彼の姿を探すが、どこにも見当たらない。
(ど、どうしよう。)
完全に見失ってしまった。
場所が場所なだけに1人で行くわけにはいかない。
一旦戻るしかないだろうか、とそう考えたとき目の前に人影が立ちはだかった。
見上げるとそこには無表情で私を見下ろすヒースクリフがいた。
怒っているのだろうか。
「ごめんなさい。」
思わず謝るとヒースクリフはいや、と呟いた。
申し訳なさでうつむくと自分の影に何かが重なった。
頭からかけられたのは彼がかぶっていたローブだ。
驚いて顔を上げるとヒースクリフはどこか決まりが悪そうな顔をしていた。
「これからさきは闇市場だ。目立たないようにこれをかぶっておけ。
それから・・・・置いていくつもりはなかった。悪かった。」
ポツリと謝る彼の姿に思わずフッと笑ってしまった。
まさか笑われると思わなかったのだろう、ヒースクリフは驚いたように目を見開いたあと
居心地が悪そうな顔をする。
「なぜ笑う。」
「だって・・。」
きっと彼は驚いただろう。
ついて来ていると思って振り返ったら姿がなかったことに。
そして焦って戻ってきてくれたのだ。
彼の少し乱れた髪を見ればわかった。
その不器用さが回帰前のヒースクリフの姿と重なってなんだかうれしかった。
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「おう!珍しい組み合わせだな。なんか用か?」
「エゼキエルの注文の品を取りに来たのです。」
「あれか!もう準備はできてるぜ。ちょっと待ってな。」
そう言ってガリオスは店の奥へと入っていった。
しばらくして戻ってくるとその手には掌に収まるほどの小さな箱を持っていた。
「待たせたな。しっかしお前たちが2人で来るなんてな。
てっきりそっちの兄ちゃん1人で来るかと思ったが。」
「え?」
ガリオスの発言に疑問が浮かぶ。
ヒースクリフも同じように疑問に思ったのか、ガリオスへと問いかける。
「どういうことだ?」
「なんだ?聞いてないのか?
わざわざあいつががそっちの兄ちゃんに
取りに来させるって名指ししてったんだけどな。」
「・・・あいつ。」
エゼキエルの声が一段低くなった。
恐らく私とヒースクリフが少しでも話せる時間を作れるようにと
気を聞かせて嘘をついてくれたに違いない。
「あの!そういえばこの箱はなんですか?」
気まずい雰囲気を流すように私はガリオスが手にしている小箱へと無理やり話題を逸らした。
「それも聞いてなかったのか。まぁ、いい。現物確認ついでに見ていきな。」
そう言って開けられた箱の中に入っていたのは
ガラスのような透明な石だ。
「これはな、魔石だよ。それも高純度かつ魔力のこもっていない上等品だ。
なかなかお目にかかれるものじゃねぇぞ。」
「魔石、ですか?」
「あぁ。はら、嬢ちゃんの腕輪にはたっぷり使われてるじゃねぇか。」
ガリオスは私の右腕につけている腕輪を指さして言う。
色とりどりの宝石かと思ったが、どうやら魔石だったらしい。
「魔石はな、この国でも1つの鉱山からしか取れない貴重な品だ。
とはいっても使うのは魔法使いかよほど高位の貴族、王族くらいなもんだ。
魔石に込められた魔力を使って、魔法使いじゃなくても魔法を使うことができる。
まぁ、せいぜい1回くらいだろうけどな。
魔力のこもった魔石が採掘されることは稀だ。
大体は魔力が空っぽのガラクタな魔石ばかりだ。
だがそのガラクタの中のほんの少し、高純度の魔石が存在する。
そいつがこれだ。」
「?」
ガリオスは熱弁するがいまいちその使い道がわからず首を傾げてしまう。
「つまりな、魔法使いはこいつに自分の魔法を保存できるってことだ。
普通の魔石はもう魔力が入ってるからな、それを幾通りも組み合わせて
自分の望む魔法に合わせて組み立ててつなぎ合わせるしかない。
ピースが無限にあるパズルみたいなもんだ。
だからこそ手間と技術が必要になるし、その分価値も上がる。
それが嬢ちゃんの腕輪。
それに対してこれははじめから自分の望む魔法を組み込むことができる。
どうだ、便利だろう。」
「魔力のない魔石はたくさん採れるのですよね?
それは使えないのですか?」
「それが問題なんだ。空の魔石は魔力の器だからな。
そこらへんの魔石に魔力を込めたところで力に耐え切れずにすぐ砕ける。
だからこそこういう高純度の空の魔石は重宝される。
ある程度の魔力には耐えられるからな。
これ1個で王都のど真ん中に家が買えるくらいには値段がするな。」
「たったこれだけで、ですか。」
それほど価値のあるものだったとは。
エゼキエルはこれほど高価なものを何に使うつもりなのだろうか。
「もういいだろ。戻るぞ。」
考えこんでいた私はヒースクリフの声かけではっと我に返る。
代金はすでに支払っているらしく
品物を受け取った私たちはガリオスの店を後にした。
読んでいただきありがとうございます。




