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「こんにちは。」
エゼキエルからの呼び出しで魔塔を訪れていた。
最上階にあるエゼキエルの部屋をノックすると
少しの間のあとに中から声がした。
「アリスか。すまないがちょっと今手が離せなくてな。入ってくれ。」
「失礼します。」
扉を開けて目に飛び込んできたのは
半裸のヒースクリフと彼の左胸に手を当てている
エゼキエルという光景だった。
「え!?」
見てはいけない光景を見てしまったと
とっさに両手で顔を覆う。
きっと今の私は情けないほど顔が
赤くなってしまっている。
「あ、あの・・これはどういう状況・・?」
「あぁ、すまないアリス。ヒースクリフ
もう大丈夫だ。解析は済んだ。」
動揺している私に気づいたのか
エゼキエルが声をかけると
ヒースクリフは無言のまま
ソファにかけてあったシャツを手に取る。
エゼキエルは闇市場でヒースクリフと会ったあとも
何度か会っているのだろうか。
2人の様子は初めて会ったときのような緊張感はなく
幾分か気安いものになっている。
「呪いの解析をしていたんだ。
まぁ、平たく言えば魔力の回路を辿って
外部から呪いを解除することができるかを確認していた。」
「え?」
そんなことができるのかとエゼキエルの顔を見上げると彼は苦笑いを浮かべながら
ソファに座るようにと促される。
私が来ることを想定してか、テーブルにはすでにカップが3つと茶菓子が用意されている。
「期待させてしまってすまない。結論から言うと外部からの解除は不可能だ。」
「呪いを持続させるには使用者の魔力が必要不可欠だと言っただろう?
つまり魔力の回路を切断することができれば
強制的に魔力を途絶えさせて
解呪することができないかと思ったんだが・・。」
エゼキエルはそう言いながら
空のカップにお茶を注いでいく。
あまり嗅いだことのないすっきりとした花の香りが
辺りに漂う。
「問題は彼の媒介だ。
髪や爪などのまだ身体から切り離せるものなら
どうにかできたが、彼の媒介はその血だ。
血に宿る魔力が心臓に作用して呪いとして作用している。
無理に解呪しようとすれば彼が死んでしまう。
何もできなくて済まない。」
「いや、期待はしていない。」
エゼキエルの謝罪にもヒースクリフは淡々とした様子で返す。
「しかし、これだけ強い呪いを長期にわたって維持しているとなると少なくない量の血を
相手は手にいれたということだ。
とても指先を少し切ったという程度のものではない。
何か覚えはあるかい?」
「・・・。少なくとも覚えている限りではない、はずだ。」
少し考える素振りを見せたあとにそう言った彼はどこか自信がなさげだった。
「呪いを受けたのはいつのことなんだ?」
「・・・それはこの呪いを解くのに必要な情報なのか?」
「いや、そうじゃない。」
「なら答える義理はない。」
エゼキエルの問いにヒースクリフは無愛想に答える。
必要以上に詮索するな、とその様子が物語っている。
それを察したエゼキエルもやれやれといった様子で私へと視線を戻す。
「急に呼びつけてすまないな。」
「えぇ。大丈夫。
けれど、証拠となりそうなものは何も見つからなくて、ごめんなさい。」
「君が謝るようなことじゃない。無事で何よりだ。」
「じゃあ、俺は帰る。」
着替えを終えたヒースクリフはローブを身にまとうとエゼキエルへと声をかけた。
「すぐに帰ることはないだろう。お茶でもどうだ?」
「必要ない。」
「今日の茶はユーインが苦労して仕入れた外国で流行りのものだそうだ。
なかなか飲めるものじゃないぞ。」
「喉は乾いていない。」
「じゃあ茶菓子でもどうだ?
今日の茶菓子はユーインお手製のチーズケーキだ。
甘すぎないから食べやすいと思うぞ。」
「必要ない。」
エゼキエルの勧めを
ヒースクリフははぁっとため息をついた。
鬱陶しそうな少し鋭い視線をエゼキエルに向ける。
「復讐するっていう人間が呑気なものだな。
殺されたっていう仲間も大して大事じゃなかったんじゃないか?」
一触即発の雰囲気になってしまうのではないかとエゼキエルを見る。
けれど私の心配をよそにエゼキエルは穏やかな笑みを浮かべていた。
「生き急ぐな。君が急いたからといって事態は好転するわけじゃない。」
「・・・・。」
「そうだ!アリスに頼みたいことがあったんだ。
実はガリオスの店で注文しているものがあるんだが
俺はこの後用事があって取りにいけなくてな。
すまないが頼まれてくれないか?」
「私?」
急に話を振られて驚く。
それにガリオスの店といえば闇市場だ。
1人ではかなり危険なのではないか。
「あぁ。もちろん、1人でとは言わない。
護衛にヒースクリフを就けよう。」
「え?」
「は?」
思いがけないエゼキエルの提案に私とヒースクリフは声がそろってしまう。
「なんで俺が。
誰でもいいからお前の部下を行かせればいいだろ。」
「残念ながらそれぞれに重要な任務を与えていてな。皆手が空かないんだ。
それに今回注文したものは君の呪いにも関係している重要なものだ。」
「それなら俺1人で行く。」
「それはダメだ。
ガリオスには私の仲間が取りに行くと伝えてある。
君は闇市場のなかでも有名な注意人物だ。
そんな人物に商品を渡せるわけがないだろ?」
「俺と一緒に行かせてもいいのか?
俺は彼女を殺そうとしたんだが。」
「それに関しても心配ない。
アリスはマティアスお手製の防御魔法が施された魔道具を身に着けているからな。
その効果はこの俺ですでに実証済だ。」
「・・・・。」
「まぁ、君がどうしてもその性能を試したいというのなら止めはしないが。
どうする?」
「・・・・・・・・・行けばいいんだろ。」
「あぁ。とても助かるよ。」
全身から不機嫌なオーラが出ているヒースクリフとは対照的にエゼキエルは満面の笑みを浮かべている。
「行くぞ。」
ソファに座っている私に通り過ぎざまに言うと一瞥もせずに部屋を出ていった。
ハッとして私も席を立つ。
エゼキエルにいろいろ言いたいことはあるが彼を待たせるわけにはいかない。
「い、行ってきます。」
「あぁ。気を付けて行ってらっしゃい。
遠回りして帰ってくるんだぞ。」
エゼキエルは機嫌がよさそうに笑いながら手を振った。
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