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「俺にこの呪いをかけたのはローザ・アレクシア・ティアレイン。
この国の王妃だ。」
「王妃、だと?まさか・・・。」
(・・・それなら、あの処刑も王妃が仕組んだことだったの?)
回帰前のヒースクリフの処刑の場面が思いだされる。
処刑の場でありながら楽しそうに笑っていた王妃の姿に今更ながらに心底ぞっとする。
ヒースクリフは王宮の騎士とルーカスをその手にかけた。
彼の復讐相手が王妃なら王宮での襲撃も納得できる。
だが、どうして肝心の王妃をその手にかけることができなかったのだろうか。
「嘘をつく理由がないだろ。
まあ、あいつが何で魔塔の人間を皆殺しにしたのはか俺も知らない。」
ヒースクリフの言葉のエゼキエルは黙り込んだ。
膝の上に置かれた手が強く握りこまれている。
「それよりもあいつをを殺す方法だ。
魔塔の魔法使いがこちらにつけば勝機は上がる。」
「待ってくれ。
相手の権力と魔法使いであることを考えれば闇雲に動けば相打ちどころではない。
最悪の場合ここにいる全員が言われのない罪をきせられて処刑されるか、
誰にも気づかれないように消されてしまう。」
エゼキエルの代わりにそう言ったのはマティアスだった。
「そんな覚悟もないままこの場にいるのか。
それとも敵の正体を知って臆したのか?」
「っな!!」
フッと冷笑したヒースクリフの言葉にマティアスが絶句する
今にも言い争いが始まりそうな空気を流すように
エゼキエルはふーっと息をついてから顔を上げた。
「・・・我々は相手が誰であっても臆することはない。
誰であろうとも自らの罪を必ず償わせる。
闇雲に仕掛けて犬死するのは君たちにとっても本望ではないはずだ。
だからこそ我々に協力を仰いだのではないか?」
「・・・。」
「ヒースクリフ様。彼らの言うことは最もです。
我々の悲願はあの方を討つこと。
それを確実なものにしなくてはなりません。」
「・・・わかっている。」
黙り込んだヒースクリフを諭すようにして傍に控えていたトリスタンが声をかけた。
彼らの関係は何なのだろうか。
聖騎士団長と平民。
身分だけで見れば関わることのない彼らが行動を共にしているのも異質だが
何よりも気になるのは彼らの接し方だ。
仲間であるならば対等な関係であるのだろうが、彼らのそれはまるで主人と従者だ。
「できれば証拠を集めて裁判にかけ、正当な公の場で処罰したい。
でなければ我々はただの反逆者だ。」
「証拠だと?笑わせるな。
敵の影しか見ることができなかったお前たちに何ができる。
あいつは自分が魔法使いであることも、自らの非道な行いも証拠を残さなかったはずだ。
だからこそ今まで手をこまねいてることしかできなかったんだろ。」
「その通りだ。だが、だからと言ってこの場にいる全員で向かっていったとしても
勝機があるわけではない。我々の目的は確実に相手に復讐することだ
だが、我々が動くにはあまりに大仰すぎる。
聖騎士団長に魔塔主。顔が割れている私たちが動けば相手はすぐ察知するはずだ。
ましてや魔力のつながりがある君が動けばはなおのこと。
だからこそ慎重に動かなければならない。」
エゼキエルの理にかなった言葉にその場にいる誰もが安易に口を開けなかった。
だからこそ、自分がやるべきだと思った。
「私がやります。」
「何?」
それまで黙って話を聞いているだけだった私が声をあげると全員の視線が集中した。
ヒースクリフは疑いの目でこちらを見ている。
怯みそうになりながらもしっかりと彼の瞳を見返した。
「私が王妃が魔法使いである証拠を集めます。」
「何の力も持たないお前に何ができる。」
「私はルードベルト侯爵令嬢です。王子の婚約者の筆頭候補です。
私の身分であれば王族に接触することも王宮に出入りすることもできます。」
「アリス、それは・・・。」
私の提案を考え直すべきだというようにマティアスが私の肩に手を置いた。
しかし私は黙って首を振る。
この選択をすることは王子の婚約者としての立場を確かなものにするだろう。
でもそれをためらっているわけにはいかない。
呪いはすでに彼の身体に刻まれている。
回帰前に発動するはずのないと言っていた呪いは実際に発動した。
ならば根本から絶たなくてはならない。
「この場で最も怪しまれずに王妃に近づくことができるのは私です。
今ある選択肢の中で私が動くことが最も確実な方法のはずです。」
ヒースクリフは少し考える素振りを見せたあとフッと笑った。
「いいだろう。
今度王宮で王妃が主催する茶会がある。
それに参加して王宮に潜り込みあいつの部屋を探れ。」
「なんだと?そんなことさせられるわけがない!
敵の本拠地に放り出すようなものだ!」
「同感だ。彼女は我々とは違う。何かあったときに身を守る術がない。」
反対して声を荒げたのはマティアスだ。
それに続いてエゼキエルも抗議する。
「ならここにいる意味はなんだ?
危険なことをさせるつもりがないのなら、安全な場所で囲っていればいいだろ。」
マティアスとエゼキエルの心配が心配してくれるのは嬉しい。
けれど私も覚悟を決めてこの場にいるのだ。
だからこそ、彼らは私の意志を尊重してこの場に連れてきてくれている。
「心配しないで。必ずやり遂げます。」
「あらかじめ言っておく。
下手にぼろを出せば俺たちより先にお前があいつに消されることになる。」
そう言ったヒースクリフは冷たく笑っていた。
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「お待ちください。」
声をかけられたのは話し合いを終えてガリオスの店を後にしたときだ。
「ミラー卿。」
彼は1人で私たちを追いかけて来たようで彼のそばにヒースクリフの姿はない。
「ヒースクリフ様の行いや言動を代わってお詫びいたします。
ご令嬢や魔塔の皆さまに危険にさらしてしまったこと
不快な思いをさせてしまったこと誠に申し訳ありません。」
トリスタンはそう言うと深々と頭を下げた。
「頭を上げてください。アリスを守ろうとしたあなたに謝っていただくことはありません。」
突然の謝罪に慌てた私に代わってトリスタンを制したのはマティアスだった。
「失礼ですが、あなたと彼の関係性は?
とても聖騎士団長と一介の平民の関係性ではないように見えます。」
マティアスの問いにトリスタンは苦い顔をした。
「育ての親・・・とでもいうのでしょうか。
とは言え、私にはそれを名乗ることもおこがましいのかもしれませんが・・。」
歯切れ悪そうに答えたあと、トリスタンは私たちを見渡すとすっと姿勢を正して居直した。
「ご令嬢、魔塔の皆さま。
王宮での公の場だからと言っても油断してはいけません。
王妃の正体を知って生き残った者は皆消されました。
どうか身辺にはお気をつけて。」
仲間を失ったのであろうか、彼は沈痛な面持ちで私たちに忠告した。
読んでいただきありがとうございます。




