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ガキィィィンと激しい金属のぶつかり合う音と共に目の前で火花が散った。
「なりません‼︎」
いつのまにかマティアスに抱え込まれるようにして守られている
そしてその私たちを背にかばうようにしてトリスタンが前に出て
ヒースクリフの振り下ろした剣を受け止めていた。
(・・・殺されそうになったの?)
この状況を目の前にしても信じることができなかった。
呆然としたままヒースクリフを見る。
青色の瞳には何の感情も見えない。
彼はなんのためらいもなく私を殺そうとしたのだ。
それを理解した途端に腰が抜けそうになる。
「大丈夫か?」
自分を守るようにしてくれていたマティアスが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「えぇ、大丈夫よ。ありがとう。」
(なんのためにここにいるの。ここで座り込んで皆の荷物になるためじゃない。)
座り込んでしまいそうになる自分を叱咤して震えだしそうになる足に力を入れ
剣を構えたままのトリスタンとヒースクリフを見る。
「そこをどけ。無関係の人間に俺たちの関係を知られたからには生かしておくわけにはいかないだろ。」
「なりません、ヒースクリフ様。この方はルードベルトのご令嬢です。侯爵家のご令嬢なのです。」
「だから何だ?」
トリスタンの言葉に何てことないように返す。
「そうだとしても、運悪く野盗にでも襲われたことにして捨てればいいだろう。
ここに捨て置けば勝手にここの連中がバラすはずだ。」
「あなた様もわかっておられるはずです。
ここでこの方を殺したとあっては魔塔の方々も黙ってはいません。
そうなれば私たちの悲願は遠ざかってしまいます。
どうか、賢明なご判断を。」
「・・・」
トリスタンの言葉に渋々了承したのか
ヒースクリフは無言のまま剣を収めた。
その様子を見てホッと息をいたトリスタンもまた剣を鞘に収める。
「いいだろう。まずはお前たちの話を聞いてやる。」
「今後我々の仲間に手を出すことがあれば容赦しないと覚えておいてくれ。
話し合いの場を用意する。こちらだ。」
冷たい空気をまとったエゼキエルに先導され、私たちは闇市場をすすんだ。
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「次に会うときはせがれをって言ったのにもう来たのかよ。
しかもそろいもそろって訳ありの奴らばっかりじゃねぇか。ったく何のようだ?」
エゼキエルの案内でたどり着いたのはガリオスの店だ。
急な訪問者とその顔ぶれにガリオスは心底めんどくさいと言わんばかりの顔をした。
「悪いな。奥の部屋をちょっと借りるぜ。ユーインは周囲の警戒を。
アリスとマティアスは残ってくれ。」
「かしこまりました。」
エゼキエルの命にユーインはすぐ了承すると店の外へと出ていく。
エゼキエルの言葉にヒースクリフはちらりと私の方へと視線を向けた。
なぜ私も残るのかと怪訝に思っているのだろう。
居心地悪く思いながらも見返すと視線をそらされた。
エゼキエルに促されて彼の隣に座る。
その私たちに向かいにヒースクリフが座った。
マティアスは私の、トリスタンはヒースクリフの背後に立った。
「まず、聞いておきたいことがある。
君はすでにその身に呪いを受けているのか?」
ヒースクリフに問いかけたのはエゼキエルだった。
エゼキエルの言葉にヒースクリフは少し考える素振りを見せた後
おもむろにシャツのボタンを外した。
「この通りだ。」
はだけたその胸元には黒い茨と薔薇の模様が刻まれている。
しかし、それは記憶にあるものよりもはるかに小さいものだった。
「まだ発動していない、か。それだけが救いだな・・。」
呪いの印をじっと見つめた後、エゼキエルは苦い顔をしてそう言った。
しかしその様子をヒースクリフは鼻で笑う。
「これは発動することがない。」
「なに?なぜそう言い切れる?」
「これの発動する条件は絶対にありえないことだからだ。」
ヒースクリフの言葉に戸惑った。
彼の言葉が正しければ、回帰前の彼も条件を知っていながら呪いが発動したことになるからだ。
「君は、発動する条件を知っているのか?」
「あぁ。これをかけた本人がご丁寧にお教えてくれた。」
不愉快そうにフッと鼻をならした。
背後のトリスタンは苦い顔をしている。
「お前たちが聞きたいのはこんな話ではないはずだ。」
そう言いながらヒースクリフは呪いの印を隠すようにはだけたシャツのボタンをしめていく。
「教えてもかまわないがその前に条件がある。
この呪いをかけた奴を教える代わりに俺たちに協力しろ。」
「何?」
ヒースクリフの突然の提案にエゼキエルは怪訝そうな顔をする。
「協力、とは。具体的にどうしろと?」
「この呪いをかけた魔法使いへの復讐。
この手であいつを始末することが俺たちの望みだ。
そのために魔塔の力を寄越せ。」
「・・・。」
彼らから協力を得られれば。
エゼキエルと作戦を考えていた時は簡単に考えていた。
しかし、彼らの望みは私たちが考えているものよりもはるかに重いものだった。
ヒースクリフの憎しみに満ちた表情がそれを物語っている。
どんな過去が彼をこんなにも苦しめているのか。
それすら私には知りえない。
「いいだろう。」
エゼキエルはしばらく逡巡したのちにそう答えた。
ちらりと隣にすわるエゼキエルの顔を見た。
復讐という目的を持つ彼もまた、同じような憎しみに満ちた表情をしているのではないかと思った。
けれど彼の表情から憎しみの色は見えない。
覚悟を持った瞳でヒースクリフを見ていた。
「ただし条件がある。
君たちに協力するのは魔塔の魔法使い全員ではない。
先ほどのユーインを含めた我々3名だ。」
「3人だと?たった3人で対抗できる相手じゃない。」
「私を含めたこの3人の魔法使いは現在の魔塔においてトップの実力者だ。
私たち以上の魔法使いは魔塔に存在しない。」
エゼキエルの言葉にヒースクリフは相手を見定めるようにじっとこちらを見た。
「・・・いいだろう。交渉成立だ。
望みどおり教えてやろう。お前たちもよく知っているだろうからな。」
そういったヒースクリフは薄く笑った。
これまでに見た彼の笑顔とは全く違う。
「俺にこの呪いをかけたのはローザ・アレクシア・ティアレイン。
この国の王妃だ。」
同じ絶望に向かう者を歓迎するかのような冷たい笑みだった。
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