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「トリスタン・ミラーについては
ユーインを監視に就かせているがあまり芳しくないな。
手練れの騎士なだけあってこちらが魔法を駆使していても気配で察知されているようだ。
見事に撒かれてしまうし、深追いできない。
まぁ、尾行されているのに捉えに来ないところで向こうもこちらの出方を探っているんだろう。
ヒースクリフについても同様だ。ガリオスからの情報で見つけ出すことはできたが、こちらも見事に撒かれてしまう。今のところヒースクリフとの接触や関係性はつかめていない。」
魔塔へと向かうと出迎えてくれたのはエゼキエルだった。
調査のためだろうか今日はユーインもマティアスもおらず出払っているようだ。
報告書であろう紙の束を執務机に投げ出すとエゼキエルは向かいのソファに腰を下ろした。
「だが気になる点がある。トリスタン・ミラーだが聖騎士から退いていた間の足取りだ。
その空白の期間の動向を探っているが真っ白なんだ。文字通りな。」
「それがおかしなことなのですか?」
たしかに、ヘレンの語っていた彼の経歴にも騎士団を離れていた時期のことは語られていなかった。
だが、特にそれを変だと感じたことはなかった。
「普通の奴ならいくら市井に降っていたとしてもどこに暮らしていたとか何をしていたとか少なからず情報が出てくるはずだ。だがトリスタン・ミラーにはそれがまったくない。彼がどこで何をしていたのかが全くわからないことはそれ自体が異常なんだ。つまり、彼は意図的に自分の足取りを消している。」
「・・・エゼキエルはミラー卿が呪いを扱える魔法使いなのではないかと疑っているのですか?」
「現時点では否定できるほどの判断材料がない。それに奴がヒースクリフとつながっているとすれば、呪いの媒介を用意することも、仕掛けることも容易なはずだ。」
エゼキエルの言葉に私は思考を巡らせる。
トリスタン・ミラーが魔法使いだとすれば、たしかにそう考えれば辻褄が合うこともある。
ヒースクリフに呪いがかけられたことだけではない。
王妃が言っていたはずだ。ヒースクリフの罪状には聖騎士団長の殺害も含まれる。
呪いをかけられたことでヒースクリフが騎士団長を殺害したとしたら。
そこまで考えたことで1つ不可解な部分に気がついた。
(違う。そうだ王妃は言っていたはずだ。聖騎士団長を含めた殺害だと。)
「トリスタン・ミラーは魔法使いではありません。」
私が言い切るとエゼキエルは首を傾げた。
「なぜ断言できる?」
「ヒースクリフの処刑理由です。彼の処刑の罪状には聖騎士団長の殺害も含まれていました。
処刑まで呪いが維持されていたことは確実です。
聖騎士団長が魔法使いであるならヒースクリフの呪いは解けていたはずです。
だからミラー卿は魔法使いではありません。」
「そうか。その2人が何かしらの目的を同じくする仲間であったとしたら
聖騎士団長の手引きがあれば平民であるヒースクリフが城へ侵入し王族を殺害することも可能だ。
そうだと仮定すれば彼らは魔法使いのことを知る大きな手掛かりになる。」
「だがあんな強者2人をどうやって連れてきて交渉するか。
それに未来でつながりがあったとしても現時点でそれがあるとは限らない。
2人を強引に連れて来て確認することもできなくはないがあまり気は進まないな。」
エゼキエルは考えこむようにソファに背を預けて天井を仰いだ。
「あの、私に考えがあります。」
私は思いついた計画をエゼキエルに説明する。
この作戦ならば彼らにつながりがあるのかを確かめることもできる。
「作戦としてはいい案だと思うが、君も行くのか?」
黙って私の話を聞いていたエゼキエルは少し驚いた様子で尋ねる。
「いくら魔塔の権力があっても王家に仕える騎士団長が相手ではどこまで権威が発揮できるかわかりません。私は侯爵令嬢です。より身分の高い者がいれば彼も無下にはできないはずです。」
「しかしな、お前のお兄様からきつく言われているんだ。危ないことに関わらせるなと。」
食い下がる私にマティアスは渋い顔をする。
彼の懸念は当然だ。
何が起こるかわからない場所で身を守る術のない私が行ったところで足手まといだろう。
それでも私はここで引き下がるわけにはいかない。
「もう何もせずに見ているだけにはなりたくないのです。
彼を助けるためにできることをしたいのです。」
エゼキエルは渋い顔のまましばらく考え込んだのち
「妹を守るのも兄の役目だけど、妹の願いを叶えてやるのも兄の役目だよな。」
そう言って、いたずらを思いついた子供のような顔でにやりと笑った。
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