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「ミラー様はね、昔少しの期間聖騎士の任から離れていたことがあったんですって。

けれど再び聖騎士の任についてからその頭角を現したと聞いたわ。

それから目覚ましい成果を上げて騎士団長の座に就いたのですって。

彼の剣技に敵う者はこの王国にいないとされているわ。」


聖騎士団長を紹介してもらってから私は魔塔へと手紙を出していた。

ヒースクリフと聖騎士団長とつながりがあるため調べてほしいと。

彼らに依頼する一方で私も聖騎士団長についての情報を集めることにした。

彼のことについて知るためには彼のことをよく知っている人物に尋ねるのが

1番良いだろうと判断して今日は私の方からヘレンを誘っていた。

ヘレンは嬉しそうな表情で好きな人のことを語っている。


「・・・けれど意外だったわ。あなたの方から彼について聞きたいと言うなんて。」


ヘレンは語り終えると紅茶の注がれたカップを持ち、うかがうようにこちらを見た。


「彼を紹介したときにも思ったのだけれど、彼のことを見たことがあるの?」


「・・昔、似ている人を見たことがあったの。」


私の言葉でヘレンは持っていたカップを置いた。


「アリス。これは友人の言葉として聞いてほしいの。

私はいつでもあなたの味方よ。あなたが困っているのならあなたの助けになりたいの。

話せないことがあるなら無理に聞くつもりはないわ。

けれど私はいつだってあなたを助ける心構えができているわ。」


悠然と微笑むヘレンは真っ直ぐな瞳で私を見つめた。

強要するわけでもない私の意志を尊重した彼女の在り方は揺らぎない。

彼女の善意がわかっているからこそもどかしさに首を絞められる。


「あなたの様子が変だなって思ったのは彼に紹介してからだもの。

あの人について何かあるのであれば教えてほしいっていう本音もあるの。

私はあなたとあの人の力になりたいの。」


私が黙っていることは本当に正しいのだろうか。

それに私が聖女であることを知ったとしてもヘレンが私を害そうとするとは思えなかった。

けれど同時に心配でもあった。

聖女になり未来からやってきたという荒唐無稽な話を信じてもらえるのだろうか。

初めの言葉を声に出すことはとても勇気のいるものだった。


「・・・もしも、私が聖女だって言ったら信じられる?」


驚いた表情をしたヘレンを見つめながら続きを語る。


「私は今から1年後の未来で聖女の力を使って時間を巻き戻したの。

ある人を、自分の大切な人を取り戻すために。

その人は私のために自分の命を犠牲にして亡くなった。

どうしても、その人にまた会いたかった。

その人が最期のときまで私にくれた愛に応えたかったの。」


ヘレンの表情を見ることが怖くなりうつむいた。膝の上に重ねた両手が冷たくなっていく。

どう思われるのだろうか、おかしな奴だと笑われるだろうか

それを覚悟して両手を握りしめる。


「・・・・ミラー様は、その未来でどうなったの?」


やがてヘレンが


「聖騎士団長は亡くなったと聞いたわ。」


私が答えると少しの沈黙のあとに椅子が動く音がした。

呆れて行ってしまうのだろうか。

そう思っていると自分の両手にヘレンの両手が重ねられた。

驚いて彼女の顔を見つめる。


「アリス。ありがとう。」


彼女は穏やかに微笑んでいた。

何に対してのお礼なのだろうか。


「話してくれてありがとう。私と友達になってくれてありがとう。

それから、ミラー様を救ってくれてありがとう。

あなたのおかげで彼を助けることができるのね。」


彼女の言葉に鼻の奥がツンっとして涙が滲んだ。


「とても辛く大変な思いをしたのね。」


「どうして信じてくれるの?自分でも信じられないような話なのに・・。」


「決まっているじゃない。あなたが私の友達だからよ。

短い付き合いだけれどあなたの顔を見れば嘘じゃないことくらいわかるわ。」


目じりに溜まった涙をヘレンがそっと拭ってくれる。

けれどその行動でさらに涙があふれてしまう。


「どうして私のためにそこまでしてくれるの?」


「おかしなことを聞くのね。友人ってそういうものだからよ。」


そう言ってヘレンは笑うと私をそっと抱きしめた。

私は情けないくらい彼女にすがって泣いてしまった。

読んでいただきありがとうございます。

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