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「私の前で運命の人やら好きな人やらの話をするのはやめてくれないかい?」
「あら?アリスに振られたあなたには悲しいお話だったわね。」
「振られてないからね。」
ルーカスの拗ねたような声にヘレンがほくそ笑んだ。
「そうだわ!アリス、今度私の好きな方を紹介させて頂戴。」
「えぇ。もちろん。」
ヘレンの好きな人という人物はどんな人なのだろうかと純粋に気になった。
美しい見た目とまっすぐな気質な持ち主の彼女が好きになる人だ。
想像できそうなのになぜかあまりイメージができない。
好奇心のままに頷いた。
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ヘレンとの待ち合わせ場所は王城だった。
好きな人は王城に勤めているのだろうか。
そう言えば舞踏会でヘレンが1人抜け出していたときも一目会いたい人がいると言っていた。
おそらくその人のことなのだろう。
「こっちよ。アリス。」
そう言って私に手を振っているヘレンは普段よりも美しい。
好きな人に会うために普段よりもおしゃれをしているのだろう。
「彼はね、もともと王城の勤めではないのだけれど
今の時世から王城での警備も担当しているのよ。
普段はその姿を見ることはできないけれどとても強い人なの。」
少し赤らめた表情も嬉しそうに思い人のことを語る様子からも
彼女が恋をしていることがひしひしと伝わってくる。
「今日はアリスに紹介してあげるつもりだったのに
なんであなたがここにいるのよ。」
嬉しそうな様子から一変してヘレンは不満気にルーカスを見た。
「私をのけ者にしないでくれ。寂しいじゃないか。
それに彼が今日王城での警備にあたることを教えてあげただろう?」
寂しいなんてみじんも思っていなさそうな顔でルーカスは笑う。
彼の同行はおそらく私の監視も兼ねているのだろう。
「いらしたわ。あの方よ。あの1番背の高い方。」
ヘレンがさした方を見る。
そこには鎧をまとった騎士が数人集まっていた。
しかもただの鎧ではない。格式高い白と青を基調とした鎧。
ドラゴンの翼という国の守護者であることを示した紋章。
そこにいたのは聖女とドラゴンの守護を生業とする聖騎士団だ。
その中でも一際背の高い聖騎士がこちらに気づいて近づいてきた。
「アリス。この方よ。聖騎士団の中でも団長の任を任されているの。」
「聖騎士団団長がご挨拶させていただきます。」
こちらに来た彼は私たちに挨拶をするために跪く。
私はとっさに何も言えなかった。
ヘレンの好きな人が聖騎士団長で驚いたからではない。
鎧に身を包んだ彼に見覚えがあったからだ。
こげ茶色の髪に黒い瞳。
かつてヒースクリフと過ごした記憶にあった人。
あの時疑問に思ったはずだ。
聖騎士団が平民区にいたこと。
聖騎士団がヒースクリフと話をしていたこと。
「お初にお目にかかります。聖騎士団、団長のトリスタン・ミラーと申します。」
その人はかつて平民区でヒースクリフと話しをしていた聖騎士だった。
聖女の紋章がある右手の甲がピリッと痛んだ。
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