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「お前・・・生きてたのか。」
茫然とした様子でガリオスは呟いた。
「あんたもね。お互い悪運だけは強いらしい。」
(知り合いだったの?)
2人のやり取りは知り合いのそれだ。
私だけが取り残されて思わず2人を交互に見てしまう。
「しかもあの悪ガキが魔法使いになるなんてな。世の中何があるかわからないもんだ。」
「この子の前で昔の話はやめてくれ。今は真っ当に生きてるよ。」
嬉しそうににやりと笑っていたガリオスは私を見た。
「なんだ嫁さんまでいるのか!いやぁほんとに何が起こるかわからん!」
ガハハと笑ってガリオスはエゼキエルの背中をバシバシと叩いた。
「嫁じゃない。俺の妹みたいな子だよ。」
「そう言ってると誰かにかっさらわれちまうぞ。盗られるなんてお前らしくない。」
「ほんとに違うから。」
エゼキエルはうんざりした様子で彼の手を払いのけるがそのやり取りはどこか嬉しそうだ。
今までエゼキエルはどこでも年長者としての立場だった。
そんな彼がまるで親戚の子供のように扱われている姿はとても新鮮だ。
「で?なんだって今更お前がここに来た。
真っ当に生きてたのにここに来たってことは理由があるんだろ?」
「聞きたいことがある。ヒースクリフという青年についてだ。」
「おいおい・・。よりによってあいつか。
もしかしてそこの嬢ちゃんがあいつに惚れちまったか?」
「えっ!」
急に話を振られて驚く。
彼の言葉を否定しそうになったがあながち間違いでもない。
どう答えるべきか。
「やめとけやめとけ。あいつは誰も相手にしねぇよ。誰も寄せ付けない。」
そう言いながらガリオスは煙草を取り出すと火をつけてふかし始めた。
「どういう意味だ?」
「あいつがこの闇市場に顔を出したのはお前がいなくなって何年もたってからだ。
お前あいつの顔見たことあるか?そりゃあ綺麗な顔をしてる。」
「それくらいなら珍しくもないだろう。」
「いや、それだけじゃない。あいつは誰も相手にしないって言ったろ?
ここに来るとき奴は大抵1人だ。綺麗な顔した奴が1人でここに来るなんて
さらってくださいって言ってるようなもんだ。
お前ならここまで言えばわかるだろ?」
「なるほどな。」
ガリオスの言葉に彼は何か納得したようだ。
私だけが会話についていけずにおいて行かれてしまっている。
そんな私の様子に気づいたガリオスがこちらを向いた。
「嬢ちゃんにもわかるように説明してやろう。
ここで顔立ちのいい人間がうろちょろしてれば人さらいの恰好の的なのさ。
嬢ちゃんもさっき出くわしただろう?
あれぐらいならまだかわいいもんだ。
ここは無法地帯の闇市場。商品価値の高い奴を攫うためならどんな汚いこともする。
あいつはそれを1人であしらってる。魔法使いでもなけりゃ普通の人間にできる芸当じゃない。
相当な修練を積んだ人間だ。あるいは実戦で何人も殺ってるかもな。
長いことここでいろんな人間を見てきたがありゃ相当な訳ありだな。」
「あんたは交流があるんじゃないのか?」
「その辺の人間と比べればの話だ。俺があいつについて知ってることは
訳ありなこととてんで愛想がないってことくらいさ。
生まれや育ちもどこに住んでるのかも何も知らない。
お前ならわかるだろ?ここじゃ深く踏み込まないことが賢い生き方だ。」
「あんたの他に彼について知ってる人はいないのか?」
「つってもなぁ・・。そもそもあいつはここにも滅多に顔を出さないからな。」
ガリオスは腕を組んで天井を見上げて煙草をふかした。
「・・あぁそういえば1人だけいたな。」
「誰だ?」
「いや、俺もそいつが誰か知ってるわけじゃない。お前みたいにローブを着て顔を隠してたからな。
あいつが1人じゃないことがあった。それも何度かだ。
あいつが誰かといたのはそいつくらいだ。
顔もわからんが確実に男だ。
それもかなりガタイのいいやつだ。
雰囲気からしてあの男もかなりの実力者だろうな。
俺が知ってるのはこれくらいだ。」
そう言ってガリオスは煙草を押し付けるようにしてその火を消した。
「・・・そうか、助かった。アリス行こう。」
そう言ってエゼキエルは私の背に手を添えて帰るように促す。
「おいおい何か忘れてんじゃねえか?」
いたずらめいた表情でガリオスがそう言うとエゼキエルは無言で金貨を取り出すと
ガリオスに向かって親指ではじいて飛ばした。
飛んできた金貨を受け取ると人のいい顔でガリオスは笑う。
「まいど!次来るときはせがれの顔でも見せに来い。」
「それまであんたが生きてたらな。」
ガリオスの言葉にエゼキエルは軽口で返した。
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