61
「なるほど。身体の一部と魔力が呪いの発動に必要な条件か。でかしたぞアリス。」
そう言ってエゼキエルは私の頭を撫でる。
禁書庫で得た情報の共有のために魔塔を訪れていた。
「あの王子に何もされなかったか?」
相変わらずマティアスは心配症だ。
私の頭を撫でていたエゼキエルの手を押しのける。
「大丈夫よお兄様。何もなかったわ。それよりも呪いをかけるのに必要な身体の一部とは
具体的に何を指すのですか?」
「まぁ手っ取り早いのが髪や爪だな。対象者から比較的得やすい。
けれどそれで得られる効果はあまり高くないはずだ。おそらく命を奪うほどではないはず。」
「それなら命を奪われるほどの呪いに必要なものは一体何なのでしょうか。」
「すぐに思い当たるものだと血液だな・・。詳しくはわからないがそれだけの効力を求めるなら
自分が奪われて気づかないわけがない。
それにもし奪われてしまったとしてもそれを消してしまえばいいわけだからな。
これなら本格的にヒースクリフという青年に聞くことができる。」
ようやくここまできた。
ヒースクリフを救うためには呪いに使われた彼の身体の一部を取り返してしまえばいい。
それを考えれば呪いを使う魔法使いを倒すことよりも遥かに容易いだろう。
「本人に直接聞いて答えてくれるでしょうか。
いきなり呪いについて尋ねたところで怪しまれるだけのような気がします。」
「それはそうだろうな・・。
まずは彼の身辺から探ってみるか。
アリス。彼のことを知っていそうな人物に心当たりはあるかい?」
そう言われて思案する。
私が彼について知っていることはあまりない。
会うときはいつも2人だったし彼が誰かと仲良くしていた記憶もない。
(・・・そういえば、1人だけいた。)
ふと思い当たる人物がいた。
自分の知らないヒースクリフの姿を知っていた人物。
「1人だけ心当たりがあります。・・けれどその人がいる場所が闇市場なのです。」
「なっ・・!なんでそんな危険な場所に住んでいる知り合いがいるんだ。
まさか行ったことがあるのか?」
目をむいて驚いたのは予想通りマティアスだ。
一方でエゼキエルの反応は薄い。
「闇市場、か。」
そう呟いただけだった。
「そんな場所にお前を行かせることはできない。場所さえ教えてもらえれば俺が行くから。」
「お前の性格ではあの場所で悪目立ちするだけだ。
あの場所はあの場所なりの規律がある。
よそ者が行ったところで警戒されるだけだ。
私たちがヒースクリフという青年について知らない以上
別の人間の情報を教えられて騙される可能性だってある。
アリスの同行は不可欠だ。
今回は俺が一緒に行く。」
マティアスの言葉をエゼキエルが却下する。
「これは魔塔主としての命令だ。」
「・・・承知しました。」
何かを言いかけたマティアスだったが真剣なエゼキエルの様子に
渋々といった様子でその言葉を飲み込んだ。
普段の2人はお互いの立場を超えた親しさがある。
けれどこういったときは魔塔主と魔塔の魔法使いとしての立場が明確になる。
普段は冗談まじりの飄々とした姿が多いけれどやはりその威厳は魔塔主であると実感する。
「では決まりだ。アリスもそれで構わないかい?」
「はい。もちろんです。」
彼の言葉に頷いて答えた。
読んでいただきありがとうございます。