表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/74

58

「・・・見つけた。」


思わず声が漏れた。

呪いについて書かれた書物。

分厚く古びた背表紙に触れてそっと取り出す。


「・・・・。」


私が手に取った本を見たルーカスは予想に反して何も言わなかった。

彼がこの呪いについて知っているかどうかはわからない。

けれど呪いという言葉からも危険なものだということはわかるだろう。

ただ私を見つめているその様子から彼の考えを読み取ることはできない。


「何も言わないの?」


「・・・何か言ってほしいの?」


私の投げかけた質問に質問で返される。

ここに彼が同席しているのは私が得た情報を悪用するつもりがないかを

確認するためではなかったのだろうか。

とてもそう言っていた人の言葉とは思えない。

ルーカスが何を考えて私を見逃しているのかはわからない。

けれど何も言われないのであれば私にとっては好都合だった。


私は気にすることなく本を開いた。

長らく人が開けてはいないのだろう。

少し埃っぽい匂いがした。

古びたページをめくっていく。

幸いにも目的のページには簡単にたどり着くことができた。

やや掠れたインクの文字を指でなぞりながら読んでいく。


―呪いは対象者の身体の一部を用いて施す。

身体の一部を用いることで呪いを対象に固定することができる。

対象への効果をより強力なものとする場合にはより対象の命のもととなるもの必要となる。


ここまではあらかじめエゼキエルから聞いていた呪いの説明と同じだ。

重要なのはこの先に書いてある部分。


ーなお、呪いは発動までの持続的な魔力の供給と対象を縛るための

身体の一部の保持が必要不可欠となる。

身体の一部が破損してしまった場合には対象者への呪いは持続困難となり発動しない。


そこまで読んだところで顔を上げた。

物音がした。

私たちがたてた音ではない。入って来た扉の方から聞こえてきた。


「本を戻して。今すぐ。」


端的にそう言われた。

その意図を推し量るよりも前にとっさに本を元のあった場所へと戻す。

ルーカスは自分の羽織っていた上着を脱ぐと顔を隠すように私に被せた。

何をするのかと問う前に壁に背をつけるようにして壁際に追いやられる。

すぐ目の前には彼の真剣な顔が見える。


「顔を見せないで。一言も話さないで。いいね。」


ルーカスはそれだけ言うと私の首に顔を近づけてキスをした。

突然のことに思わず悲鳴をあげそうになる。

けれど扉を開けた音で何とか喉まで出かかった声を飲み込んだ。


「あら、ルーカスってばこんなところで何をしているのかしら。」


聞こえたのはゆったりとした女性の声だった。

上着に隠れて相手の顔を見ることはできない。

けれどその声で誰なのかはすぐに理解した。

私から離れたルーカスはあたかも今気づいたかのように

入って来た人物を見るとゆっくりと私から離れた。


「母上こそ。今日は茶会の予定が入っていると伺いましたが。

こんなところに足を運ぶなんて珍しいですね。」


王妃だ。どうして彼女が今ここに来たのか。

ルーカスにとっても不測の事態であることはわかる。

けれどまるでそんな素振りも見せずに私を背に隠すように自然と前に出た。


「あなたが客人を招いていると聞いてね。ご挨拶をしておこうかと思ったの。

けれど、取込み中だったかしら?」


「ええ。ご覧のとおり。」


「こんな場所では彼女に対しても失礼よ。場所をわきまえなさい。」


優しく諭すような口調だ。

けれどあの処刑の日から私は王妃に対して苦手意識が芽生えていた。

彼女には底知れない恐ろしさがある。

あの日にそれを垣間見てから恐怖が抜けないのだ。

自分を隠すようにしてかけられた上着をそっと握りしめる。


「そのようですね。彼女も恥ずかしがってしまっているようなので

私たちはこれで失礼しますね。」


ルーカスはそう言って私を隠すようにして抱き寄せて歩き出す。


私の顔は見えていない。

こちらからも王妃の表情は見えない。

それなのに絡みつくような視線が向けられていることを肌で感じる。

言いようのない恐怖を感じた。


その視線は扉が閉まるまで途切れることがなかった。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ