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扉を開けた先は真っ暗だった。
けれどそれも一瞬のことで足を踏み入れると
それに反応するようにして部屋の明かりが灯される。
思っていたよりも広い部屋だった。
けれど所せましと本棚に納められている本の圧迫感で少し窮屈にも感じる。
先ほどの書庫は清浄な空気の流れる穏やかな空間だった。
その場所で過ごすことを受け入れてくれるような雰囲気。
けれど禁書庫の雰囲気は全く違う。
古びた本が多いからだろうか清潔に保たれているはずなのに
どこか空気が淀んでいるな、この場所に入ることを拒まれているような気がする。
この膨大な本の中から呪いに関する書物を捜さなくてはならない。
「君が探しているのはどんな本なのか教えてほしい。
良ければ私も一緒に探そう。」
そう言われてためらった。
呪いに関することなんて言えば却下されてしまうだろうか。
けれどこの中から目的のものを探し出すのは一苦労だ。
ルーカスであれば禁書庫の出入りもできる分、本の配置を知っているかもしれない。
「・・・魔法に関することを。」
悩んだ末にそう言った。
魔法と呪いは根本が同じものだとエゼキエルは言っていた。
ならば魔法に関する書物に紛れている可能性は高い。
「ふむ・・・。魔法か。たしか奥にあったはずだ。」
顎に手をあてて少し悩んだ様子を見せたあとに迷うことなく進んでいく。
「さて、この辺りだと思うのだけれど魔法に関する文献は範囲が広いからね。」
場所さえわかってしまえばいいと思っていた自分の考えが甘かったことを痛感する。
ルーカスが示した場所はとある本棚には多くの本が納められている。
けれどそれだけではない。
納められている本の中には擦り切れて背表紙の文字が読みにくくなっているものもある。
一冊ずつ丁寧に確認していく必要がありそうだ。
食い入るように背表紙の文字を追っていくと聖女の文字が書かれた本を見つけた。
思わず目が釘付けになってしまう。
「聖女に興味があるのかい?」
私の様子を見ていたルーカスに尋ねられる。
動揺が表に出てしまうことがないように表情を取り繕う。
「聖女に関する書物も禁書庫に納められているのだと少し驚いただけです。
ルーカス様は聖女様がどんな方だったかご存じですか?」
「いや、君も知っていると思うけれど彼女は私が生まれてすぐに亡くなってしまったからね。
肖像画も数えるほどしか残されていないけれど、とても美しい人だったようだ。」
動揺したことが伝わってしまうことがないようにと話題を変えたけれど
幸いにもルーカスは不審に思うことはなかったようだ。
遠い記憶を思い出すようにして伏せられた瞳には聖女の姿が映っているのだろう。
そのまま何かを考えはじめたらしくルーカスは黙り込んだ。
正直に言えば聖女に関する情報も手に入れたいところだ。
けれどこれ以上踏み込んでしまえばどこでルーカスに感づかれてしまうかわからない。
それに今優先すべきは解呪方法だ。
私は引き続き背表紙の文字を追っていった。
「・・・見つけた。」
並べられている本の並びの中でも一際古びた背表紙に呪いの文字を見つけることができた。
読んでいただきありがとうございます。