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55 side:ルーカス

「馬鹿馬鹿しい。」


家へと変えるアリスを見送りその姿が見えなくなったことを確認してから

取り繕っていた表情を戻した。


(アリスの言葉は時々本当に私をイラつかせるな。)


感情を表に出さないことは得意だった。

大抵の人間は私の立場にすり寄ってくる。

私がどんな人間であるかに関わらずだ。

けれどあえて笑顔でいることで自分に好印象を抱かない者はいない。

相手をコントロールすることは自分にとって簡単だ。

立場と外見を使えばいい。

自分の持って生まれた道具を上手く使うことは権利だろう?

けれど中には簡単にコントロールできない人間もいた。


1人目は幼馴染であるヘレンだ。

彼女は私の外面に騙されない。

自分が正しいと思った意見だけじゃない、間違っていることも率直に伝える。

裏表という言葉を知らないんだ。

あれでは社交界を生きていくのはつらいだろうと気の毒に思う一方で

どうかそのままでいてほしいと思う自分もいた。


そしてもう1人はアリス。

彼女の第一印象はあまり覚えていない。

自分個人としての意見を持っているわけではなく

卑しい性格が滲み出ている両親に良いように扱われている。

貴族令嬢としてはお手本になる女性だけれど面白味がないと思ったのが正直な感想だ。

けれど建国祭の舞踏会。

形式だけのダンスの誘いに普段なら笑顔で私の手を取っていた彼女がためらったのだ。

初めは気のせいかと思った。

けれど母親に促されて渋々といった様子で私の手を取る彼女に単純に興味がわいた。

あの言われるままに動いていた彼女に何があったのだろうと。

そしてダンスをする中で確信したのだ。

彼女は自分の外見や立場に興味がなくなったのだと。

それが振りではないことなんて簡単にわかる。

極めつけは彼女の言葉だ。


『今までのようにただその責任を背負わされるだけの自分でいるつもりはありません。

私は私の望みのためにその責任ですら利用するつもりです。』


そう言って飲み込まれまいと私の目を見返す緑の瞳には強い意志が宿っていた。

面白いと思った。

彼女の言う望みが何かはわからなかったが責任すら利用するという彼女の行く末を

見届けてみたいと思った。

そして同時に彼女は自分の探し求めていた婚約者というビジネスパートナーにふさわしいと思った。


(・・・けれど、どうして2人ともただ1人を愛するなんて愚かなことをするんだ。)


それが自分にとっては不思議で仕方ない。

自分にとって誰かを愛することはその場の欲を満たすためのものだ。

1人ではどうしたって湧いてくる寂しさや人恋しさ。

それを埋めるための一時的な関わり。

お互いがそれで満たされるならそれでいいじゃないか。

けれど自分の理想とは裏腹に王子のお気に入りという立場を得ると女性たちは皆変わってしまう。

私の愛がその場限りのものだと知ると縋りつくように同じものを求められる。

彼女たちの愛は自分が向けるものよりも遥かに重く、どろどろとして自分にまとわりつくようだ。

それは自分がこの世で最も嫌うもの。


『・・・・ルーカス様は、怖いのですか?』


正直にいえばイラついた。今思えば安い挑発だ。

しかしその言葉で簡単に笑顔という仮面が外れてしまったことは反省しなくては。


『それが彼にとっての幸せなら。私はどんなことでもできるんです。』


アリスの言うことは綺麗事だ。

まるで穢れを知らない幼い子供が叶う見込みのない夢を語るようなもの。

口では何とでもいうことができる。

きっと彼女はこの先遠くない未来で知るだろう。

同じ温度で思いあえないことの辛さを。

アリスが誰を思っているかなんて関係ない。

始まる前からすでに勝敗は決まっている。

私はただ待っていればいい。

彼女が現実を知って自分の掌の上に転がり落ちてくるのを。

読んでいただきありがとうございます。

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