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「・・・・それで、禁書庫の入室許可を得る代わりに王子に友人になるように脅迫されたのか。」


そう言ってうなだれたのはマティアスだ。

ルーカスとの交渉の翌日。私は魔塔を訪れて禁書庫に入れそうだと報告した。

いい報告ができると喜んでいたのだがマティアスの反応は思っていたものと違った。

一方でエゼキエルはよくやったと褒めてくれる。


「そんなに落ち込むことないじゃないか。ただ王子と友人になっただけだろう?

それで禁書庫に入る許可が得られるなら安いものじゃないか。

私たちが禁書庫の魔法を破る魔道具を作るよりはるかに現実的で迅速だ。」


「あなたは王子がどんな人物か知らないからそんなことが言えるんですよ。

いろんな女性たちに手を出しているけれど、決して誰かに執着することがない。

同時に何人もの女性との噂が流れるような人間なんですよ?

友人になるだなんて次に会うための口実に決まってます。

アリスに何かあったらどうするんですか!」


「落ち着いてくれお兄様。我らの妹はそんな王子に簡単になびくような

軽い女性ではないだろう?」


「当たり前です。誰がお兄様で誰があなたの妹ですか。気持ちの悪いこと言わないでください。」


2人の言い争いも見慣れたものだ。

前はどうなってしまうかとハラハラした気持ちで見守っていたが

今では余裕を持って聞き流すことができる。


「アリス様。紅茶をどうぞ。砂糖とミルクはご入用ですか?」


自然な仕草で紅茶を出してくれるユーインも同じ気持ちなのだろう。

言い争っている2人を気に留める様子もなく日常のものとして流している。


「ありがとうございます。ではいただきます。」


「前回はお出しできなかったのですが本日はケーキを焼いてみました。

口に合うとよいのですが・・。」


ユーインが用意してくれたのはイチゴがたっぷりのったタルトだった。


「これをユーインが作ったのですか?お店で売っているみたいに綺麗。

お菓子作りが得意なのですね。」


「アリス様に褒めていただけるとは幸栄です。この魔塔は基本的に食事は自分で作るのです。

私は甘いものが好きなのでで作っていたら自然と上達しました。」


早速一口食べてみるとそのおいしさにとっさに言葉が出なかった。

口に広がるイチゴのさわやかな甘さとカスタードクリームのまろやかな甘み。

その2つを支えるタルト生地は香ばしさをそこなっておらずサクサクとした食感が

口の中を楽しませてくれる。


「本当においしいです!ユーインは魔法使いだけじゃなくて菓子職人にもなれますね。」


「そんなに褒めていただけると照れてしまいます。でも、とても嬉しいです。」


恥ずかしそうに少し頬を染めてはにかむ姿にこちらも笑みがこぼれた。

見かけるのはいつも慎ましい姿ばかりだったので少しばかり新鮮だった。

自分と同じかそれよりも若く見えるのにかなり優秀な人物のようだ。

エゼキエルの直属の部下として呪いを扱う魔法使いを追うことにも携わっているという。


「お前はいつまでもうだうだと文句を言っているんじゃない。

せっかくアリスがチャンスをつかみ取って来たんだぞ。

兄として他に言うべきことがあるんじゃないのか?」


ユーインのお菓子に癒されてほのぼのしていると言い争いをしていたエゼキエルが私の隣に座った。

まだ2人の話は終わっていなかったらしい。

エゼキエルの言葉でマティアスは決まりの悪そうな顔をした。


「わかっています。・・・アリス。よくやったな。すごいぞ。」


マティアスに頭を撫でられた。

頭を撫でられることだけではなく身内に褒められるという経験がなかったからだろうか

なんだかくすぐったかった。


「ありがとう、お兄様。」


笑ってお礼をいうとマティアスも嬉しそうに笑ってくれる。


「何にせよ禁書庫へ入るための許可を得るまで時間があるな。

アリス。明日はマティアスと町に行って気晴らしに行ってくるといい。

気の休まるときがなかっただろう?

頑張ったご褒美だ。いろんなものを買ってもらうといい。」


「それはとてもいい案です。建国祭の後で賑わいも少し落ち着いていますから

ゆっくりするのにはちょうどいいかと思いますよ。」


エゼキエルの言葉にユーインが賛成する。

しかし当のマティアスの表情は芳しくない。


「ですが明日は・・・。」


「こういうときは何を差し置いても行くものだ。

せっかく家族で過ごす機会を与えてやっているのに無下にするんじゃない。」


エゼキエルがこれ以上何も言うなと言わんばかりに手で払う仕草をすると

何かを言いかけたマティアスは口を閉じた。


「お土産買ってきますね。」


「あぁ。楽しみにしているよ。」


思えば未来でも過去でも遊びに行くために家族と出かけるということはなかった。

わくわくした気持ちのままエゼキエルにそう言うと朗らかに笑ってくれた。

読んでいただきありがとうございます。

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