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「待ち合わせって・・・私はヘレンとここで待ち合わせをしていたはずですが。」
そう言ってルーカスから距離を取った。
未来では王子と深く関わることがなかったため彼の人柄はよくわからない。
それに先日のダンスの一件からも何を考えているのかわからない言動は
底が知れなくて不気味だった。
「君が会いたいと言ったんだろう?それに私もまた君と個人的に話がしたいと思っていたんだ。」
警戒心をあらわにする私を気にする様子はない。
私が会いたいと言ったとはどういうことだろうか。
「ちょっと!私を置いていくなんて一体どういう神経をしているのよ!」
状況がよくわからずに戸惑っているとヘレンが割って入って来た。
彼女が来てくれたことにほっとする。
しかし同時に王子に対しての気安い口調に驚く。
「君がいろんな店に目移りしてたからだろう。待ち合わせに遅れそうだったじゃないか。」
「だからって普通何も言わずに私を置いていく?アリスが驚いてしまうじゃない。
アリス。急にこんなに軽い男に声を掛けられて驚いたでしょう。ごめんなさい。」
そう言ってヘレンは私の手を取って謝るが状況が読み込めない私の頭はそれどころじゃない。
「ひどいな。お互いの出会いに感謝していただけだよ。」
「あなたはただでさえ目立つから待ち合わせを城下町にしたのに。
こんなところで話していたら余計に目立つでしょう。
ほら、場所を変えるわよ。」
そう言ったヘレンに手を引かれてその場を後にした。
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やってきたのは城下町でも人気のカフェだった。
店内を見渡すことのできるオープン席もあったが私たちが案内されたのは半個室の席。
いくら変装をしていたとしても華のある2人が相席をしているのはとても
目立つのでその配慮はありがたかった。
「・・・お2人は仲がよろしいのですね。」
紅茶の入ったカップを手に取りながら様子をうかがうように2人を見る。
2人の距離感と遠慮のなさは一朝一夕のものではない。
「この男と私はお互いの立場のせいで幼いころからの知り合いなのよ。」
ヘレンはうんざりしたようにため息をつく。
「幼馴染と言ってほしいな。俺と君の仲じゃないか。」
「アリスの前だからって気持ちの悪いことを言うのはやめてちょうだい。」
王子の軽口にヘレンは心底ぞっとしたように二の腕をさすっている。
未来でもこの2人が親しい姿を見たことはなかったし2人の関係が噂されることもなかった。
それにルーカス王子は特定の女性と懇意にすることはなく
しかし同時に様々な女性と浮名を流していることで有名だ。
もしこの2人が懇意にしていたのであれば自分が王子の婚約者に選ばれることはなかったはずだ。
どうして2人の関係が噂されることもなく、周囲に知らせることもなかったのだろうか。
「あなたも知っていると思うけれどルーカスの噂は事実なの。
遊び人というか女性に対してとても不誠実な男よ。
私には好きな人がいるの。たとえ噂だとしてもこんな遊び人の一時の相手として
見られるなんて私には耐えられないわ。」
「ひどい言い方だな。その時々でいろいろな相手と楽しめればそれでいいじゃないか。
私はただ1人を想い続けることで相手を縛りたくないし縛られたくもないね。
アリス。君も私と一時の夢を見る気はないかい?」
ルーカスはそう言いながらさりげなく私の手を握ってくる。
すかさずヘレンがその手を持っていた扇で叩き落とす。
「私の友人に手を出そうなんていい度胸ね。」
いくら幼馴染といえど王子の手を扇で叩くなど不敬で捕まってしまうのではないかと
2人の様子をはらはらして見守っているとルーカスが私を見てウインクをした。
「安心してくれ。ヘレンは私の友人なんだ。
彼女の歯に衣着せない物言いや態度はとても気に入っている。
私の身近にいるのは王子という立場や見かけに目がくらんだ人たちばかりだからね。
忖度のない彼女の態度はとてもさっぱりしていて接していても気分がいい。」
そう言って機嫌がよさそうに笑っている姿は確かに気分を損ねているようには見えない。
2人なりの信頼のもとになりたっている関係性なのだろう。
お互いの身分を取り去ってありのままの自分と接してくれることの心地良さは私も知っている。
それが彼女の魅力だということも。
だからこそよくわからない人だけれどその言葉だけは信用できると思った。
読んでいただきありがとうございます。