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舞踏会での出来事から私はヘレンのお茶会に誘われていた。
今日も公爵家にお邪魔をしている。
「私、アリスと友達になれて本当にうれしいわ。
あなたと2人でお話してみたいなってずっと思っていたの。」
ヘレンはカップを持ちながら照れたように笑っている。
お互いが名前で呼び合い、敬語を使うことなく対等な立場として話ができることは
なんだか少し慣れなくて気恥ずかしいがとても心地よいものだった。
「それで?あなたが内緒で聞きたいことっていうのは何かしら?」
ヘレンにはあらかじめ2人きりで聞きたいことがあると伝えていた。
彼女が人払いをしてくれているおかげで周囲に人の姿はない。
「その、とても聞きづらいことなのだけれどヘレンは王宮の禁書庫に入る方法を知っている?」
「なぁんだ。2人で聞きたいことがあるなんて言うから
私はてっきり秘密の恋の話でもあるのかと思ったのに。」
私の質問に一瞬驚いた顔をしたがすぐにがっかりだと言わんばかりにうなだれる。
いきなり禁書庫に入る方法を尋ねるなんて怪しいに決まっているのに
彼女は気にする様子がない。
「禁書庫ね・・。理由は聞かない方がいいのでしょう?」
「ごめんなさい。詳しいことは言えなくて・・。でも悪いことをしようとしているわけではないわ。
ある人を助けたいの。そのためには禁書庫の情報が必要なの。」
「あなたが悪いことをしようとしているなんて初めから疑っていないわ。
私、人を見る目がある方だもの。」
私がそう答えるとフフフっとヘレンは笑うと
今度は一転して考えにふけるように真剣な表情になる。
「そうね・・。王宮の禁書庫には正当な理由があったとしても
公爵家の当主すら立ち入ることは許されていないわ。
あなたの身分では入って調べることは不可能だと思う。
・・・けれど方法がないわけではないわ。」
「本当に?!」
思いがけない朗報に思わず身を乗り出してしまう。
「えぇ。本当はあなたに会わせたくないのだけれど・・・。
こちらの交渉次第で確実な方法が1つだけあるわ。
けれど何を要求されるかわからないの。それでもいいかしら。」
「もちろんよ。私にできることなら。ありがとうヘレン。」
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数日後、ヘレンが待ち合わせにと指定した場所は城下町の広場だった。
マティアスやエゼキエルにも方法が見つかったかもしれないという報告はしていたが
ヘレンとの待ち合わせであるため急に2人が来て警戒されないとも限らない。
そのため今回は私1人で待ち合わせ場所に来ていた。
目立たないワンピースにローブをまとった姿だ。
周囲を見渡すがヘレンの姿はまだその場所になかった。
しかしなぜ待ち合わせ場所が城下町の広場なのだろうか。
わざわざ待ち合わせを城下町にしたということは相手は平民なのだろうか。
しかし平民が王宮の禁書庫に入る方法など知っているのだろうか。
いくら考えても答えはでない。
物思いにふけっていると後ろから肩をたたかれた。
彼女が来たのだろうかと振り返って思わず固まってしまう。
「やぁ。待たせてすまない。」
振り向いた先にいたのは待ち合わせ相手のヘレンではない。
この場所にいるはずのない人。
身分に合わない平民の服装。
眼鏡をかけたその姿は傍からみても華があり浮いてみえそうなのに
どこか町の気安さになじんでいるようにも見える。
「ど、どうしてここに・・・!」
私の反応を見て満足そうに笑っている。
「どうしてって、今日の君の待ち合わせの相手は私だからだよ。」
そう言って自称待ち合わせ相手のルーカス王子は恭しく私の手を取ってその手にキスをした。
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