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「少し庭園を散歩しませんか。ルードベルト嬢。」


そう声をかけられたのはお茶会も終わり、帰ろうとしていたときだ。

普段ならそう驚く内容ではないが、声をかけてきた相手はシェーファー嬢だった。


「えぇ、喜んで。」


断る理由はない。

ましてや同じ婚約者の座を争う者として、相手のことを知っておくべきだ。




公爵邸の庭園は広く、隅々まで手入れが行き届いているようで

色鮮やかな花々が咲いていた。

ゆっくりと前を歩く彼女を後をついていく。

どこまで行くのかと思ったとき、くるりと振り返った彼女は

紫色の瞳でまっすぐに私を見つめた。


「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。」


何を言われるのかと身構えてしまった分、予想外のことに一瞬何が起きているのかわからなくなる。

身分が下の者に上の者が頭を下げることなどほとんどない。

謝罪の意思で深々と頭を下げている彼女は

先ほど堂々と伯爵家の令嬢を一蹴していた姿とはまるで別人のようだ。


「あ、頭をあげてください!シェーファー嬢。

私、ご令嬢に謝罪していただくことなどありませんわ。」


「いいえ、私はお茶会の主催者です。

今回招待状を送った方々を集めて同じ席につくことで何が起こるかは

容易に想像できました。

しかもその上であのようなふるまいを傍観していたんですもの。

お客様に対して配慮の欠けたことであると理解しておりました。

申し訳ありません。」


謝罪の言葉をつづける彼女はこちらが許すまで頭を上げる気はないらしい。


「許します!許しますからどうか頭をあげてください!」


私が許すと彼女はゆっくりと頭を上げた。

あまりに真摯な対応に戸惑う。

彼女のことは噂程度しかしらなかったし、少なくとも噂とは違う人物に見える。


「傍観したといっても、最後はご自身であの場を収めていたではありませんか。

それで私は十分です。・・・でも、無礼な言動を見逃していたのはどんな理由があったのですか?」


(聞かなくても自分の振る舞いを試されてたことは想像できるが

今目の前の彼女の姿とはどうにもかみ合わなかった。)


「私、あなたのことを知りたかったのです。」


彼女は私の目を見ながら言った。


「前からお互い顔を合わせてはいたけれど、婚約者候補という壁に阻まれて

お互いの本質を知ることはできなかったでしょう?

だから、あなたがどんな人か知りたかったのです。

あのような場では良くも悪くも相手の本質が見えますもの。

噂で聞くあなたの姿ではなく、私の目で見たあなたを見てみたかったのです。」


まっすぐに見つめられる紫の瞳にどうしてか気持ちがざわつく。


「でも今日の姿を見て確信しましたわ。

ルードベルト嬢、私とお友達になってくださいな。」


「・・友達、ですか?私とシェーファー嬢が?」


今までお茶会で知り合い友達になったご令嬢は何人もいる。

でも自分の人脈をつくるためのものであったし、それは相手も同じだった。

相互の利益によって成り立つものであるが、婚約者の座を争う私たちにも

当てはまるものなのだろうか。


「言っておきますけれど私、王子妃の立場に興味などありません。

公爵家の令嬢として求められる立場であれば責任を果たさなければと思いますけれど

そうでないのなら望んでなりたくありませんわ。」


彼女の言っていることが本心なのか、私を欺くための嘘なのかわからない。

相手の心のうちを読んで答えることなんて得意だったはずなのに。


「私たちは同じだと思います。いつか果たさなければならない役割にからめとられる

運命なのだとしたらそれまでは、せめて今だけは自分の思うように生きるべきだと

思いませんか?だから私はあなたと友達になりたいのです。」


彼女は握手をするように私に手を伸ばした。


(なぜだろう。彼女のまっすぐな視線が、言葉が、姿勢がまぶしい。)


『王子妃になることが()()()()()()なのだから。』


ふと母の言葉が頭をよぎった。

何も言えず、彼女の見つめてくる瞳に耐え切れずに視線を逸らす。


「強制するつもりはありません。

ですが、私の気持ちは知っておいていただきたかったのです。

手始めに名前を呼ぶことから始めてみませんか?

私のこともヘレンと呼んでください。」


そんな私の様子に彼女は気分を害した様子もなく穏やかに笑った。


「わかりました。ヘレン嬢。」


(・・・今、私はちゃんと笑えているのだろうか。)

美しい花が彩る庭園、美しく穏やかに笑いかけてくれる彼女を前にして

急に自分がどんな表情をしているのかわからなくなった。

読んでいただきありがとうございました。

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