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「まぁ、とにかくそんなわけだからヒースクリフという青年から情報を聞き出して
いきなり魔法使いと接触するわけにはいかないんだ。
先に確実な解呪方法を調べる必要がある。
ただ、その解呪方法についての情報が書かれた本があるのが王宮の禁書庫なんだよね・・・。」
「なんであなたがそんな詳しいことまで知っているんですか?」
エゼキエルの言葉にマティアスが首を傾げた。
「実は昔、呪いの手がかりを調べるために王宮の禁書庫に忍び込んだことがあるんだよね。」
あははと笑うエゼキエル。
「犯人はあなただったんですか!
あの一件のせいで我々魔塔がどれだけ王宮から睨まれたと思ってるんですか。
それにあの件であなた自分で注意喚起していましたよね。
よく自分のしたことをさも他人事のように言えましたね。」
「いやーまさかあんなに早くばれるなんて思わなくてさ。宮廷魔法使いも優秀だよね。
あの注意喚起だって何も思わなかったわけじゃないさ。
悪いことするときは俺のようにバレないように皆は注意してやりなさいねって意味だよ。
それに今その情報が役立ってるんだからそんなに怒らなくてもいいじゃないか。」
怒るマティアスに反省する様子もなく笑っているエゼキエル。
再び言い争いが始まってしまった。
王宮の禁書庫なんていい意味でも悪い意味でも国にとっての重要な機密が
保管されている場所だ。
そうやすやすと許可をとって入ることのできる場所ではない。
たしかその入室を許されているのも王族のみであったはずだ。
(たとえ侯爵家の身分を使ったとしても許可を得るのは難しいわ。)
あの両親のことだ。よほど侯爵家にとっての益になるようなことがなければ
まず手を貸してくれることなどないだろう。
「とにかく、もうすぐ建国祭なんだ。
王宮に近づくこともできるチャンスだろう?」
マティアスの小言を振り切るかのようにエゼキエルは矛先をそらした。
彼の言う通りあと数日もすれば建国祭だ。
私はその間お茶会や舞踏会で身動きがとりづらくなる時期であるが
逆にいえば怪しまれずに王宮に近づくこともできる。
「前回はどうして侵入に気づかれてしまったのですか?」
「あの場所にはね許可のない者が立ち入ると宮廷魔法使いに知らせる特殊な魔法が
かかっているんだ。見えない網のようなものでね、禁書庫の内部に張り巡らされている。
普通、魔法を行使している魔法使いを叩けばその魔法も消えるんだけど
厄介なことにその魔法は複数人の魔力で構成されている。
つまり1人を叩いたら他の魔法使いにも知られてしまう芋づる式の魔法だ。
宮廷魔法使いってやつは本当にそういう小細工が好きだよな。」
「武力ならそこらに騎士が大勢いるんですから当然でしょう。
それに前回あなたが侵入したせいで警備も強化されていると聞きます。
詳しい情報は伏せられていますが、おそらく侵入の難易度は前回とは比になりません。」
どうやら無断で侵入するのはかなり絶望的な状況らしい。
「マティアスと俺でなんとか気づかれずに無効化する手立てを考えてみるよ。
ただ建国祭までに用意するのは難しいと思っていてくれ。」
「わかりました。私も王宮の舞踏会に参加する予定なので
正面から入る方法があるか情報を集めてみます。」
「それなら先に聖女の力を隠すものを用意しなくていけませんね。」
そう言ったのはマティアスだった。
確かに舞踏会でこの手袋をつけるのは難しいかもしれない。
「わかった。先にそちらに取り掛かろうか。
出来次第君の家に届けよう。
アリス君はあくまでも情報を集めることに専念してくれ
あまり無茶な真似はしないようにな。」
エゼキエルの言葉でその日は解散することとなった。
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