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マティアスによって運ばれてきたのはかわいいクマのパンケーキだった。

エゼキエルの前にはクマの顔に無残にナイフが刺さったパンケーキが置かれている。


「・・・・変なことをするとお前もこうなるぞって意味?

あと、俺だけフォークがないんだけど・・。」


「さぁ?フォークならそこに刺さっているでしょう。」


恨みがましい目線のエゼキエルに対してマティアスは壁を指さして素知らぬ顔をしている。

マティアスが作ったのは私に作ってくれたのは本当にかわいらしいものだ。

チョコで模った目や口、顔となっているパンケーキはふんわりと焼けていて

おいしそうな香りが漂っている。

色どりのために散りばめられているフルーツも飾り切りがされているところにもこだわりが感じられる。


(かわいらしくて食べるのがかわいそうなくらい。)


「アリス、食べないのか?

お前はこういうものが好きだと思ったんだが。」


見た目のかわいさを楽しんでいるとマティアスは不安そうな顔をした。


「違うの。その・・こんなにかわいらしいものは家でも食べたことがなかったから。

なんだかうれしくて、かわいくて食べてしまうのがもったいないなって思っていたの。」


「・・・そうか。お前が望むならいつでもいくらでも作ってやる。

だから遠慮しないで食べなさい。」


私の言葉で優しく微笑んでくれる。


「なぁ、これかけるのがハチミツとかシロップじゃなくて

イチゴのソースなのもわざとだろ。」


エゼキエルの声に対して答えずにマティアスは自分のパンケーキを口に運んだ。


**********


食事を終えた私たちはエゼキエルの部屋に移動した。


「君にこれを渡しておこう。」


そう言って渡されたのは白い手袋だった。

貴族令嬢がつけていてもおかしくないような

レースのついた上品なもの。

手首には金の留め金がついている。


「これをつけている間であれば探知の魔法を使われても気づかれることはないだろう。」


実際につけてみるが至って普通の手袋だ。

手袋をつけた私の手をエゼキエルが触れる


「うん、問題ないな。」


探知の魔法を使って確かめたらしい。

相変わらずその手際は流れるようだ。

とても魔法を使っているとは気づかない。


「とりあえずの急場しのぎはこれでいいだろう。

君は、貴族令嬢だから常にこの手袋をつけていられるわけではないだろう?

もう少し身につけやすいものはまたこちらで用意する。」


たしかにこの手袋では日常生活は問題ないだろうが

お茶会などでドレスを着る時にはすこし合わせる色を考えなくてはならない。

そこまで考えてくれていることがありがたい。


「重ね重ねありがとうございます。

お兄様もありがとう。」


「お前の身の安全のためだ。礼なんていいよ。」


お礼を言うとなんてことのないようにマティアスは微笑んだ。

この手袋だって普通であれば一晩で準備できるようなものではないのだろう。

寝ずに準備してくれたことは彼の目の下にうっすらとクマが刻まれていることからもうかがえる。


「さて本題に入ろうか。解呪の方法を探しているということだったね」


それまでの和やかな雰囲気を変えるようにエゼキエルは真剣な口調で切り出した。


「俺の知っている限り1番確実な方法は呪いをかけた魔法使い本人を見つけ出すことだ。

説得なり脅すなりして解呪できればいい方だがそんな生易しい方法で言うことを聞いて

くれるような人物ではないだろう。

できなければその魔法使いを殺すしかない。

けれどそれは簡単なことじゃない。」


「その魔法使いを見つけることが難しいからですか?」


「半分正解だ。けれどそれだけじゃない。

アリスは魔法使いが使う媒介について知っているかい?」


「お兄様が持っている杖のようなものですよね。」


私がそう答えるとマティアスが杖を出して見せてくれる。


「そうだ。魔法使いにとって媒介は魔法を使う上で必要不可欠なもの。

マティアスの場合は杖だな。

・・・・お前はいつまで魔法使い初心者みたいな杖を使ってるんだ。

いい加減自分に合ったものに変えなさい。」


「俺はこれで満足しているんだから別にいいでしょう。」


言い争いを始めてしまった。


(そういえば、エゼキエルが魔法を使うとき杖のような媒介を使っているのを見たことがないわ。)


ふと疑問に思った。


「魔塔主様の媒介は何ですか?」


私が尋ねると2人は言い争いをやめてこちらを見た。


「エゼキエルでいいよ。俺の場合はこのイヤーカフだ。」


そう言ってエゼキエルは髪を耳にかけた。

あらわになった左耳にはいくつかの耳飾りのなかに

シルバーのイヤーカフもある。

緑色の小さな宝石のついたシンプルなもの。


「こんなに小さなものが媒介なのですか?」


「あぁ。問題はそこにあるんだ。」


驚く私にエゼキエルは頷いた。


「媒介は使用者がそれを意識して魔法を使うことができれば形を問わない。

その魔法使いが手練れであればあるほどその媒介の形状にとらわれずに魔法を使うことができる。

おそらく呪いを扱う魔法使いも俺と同じだ。

常に魔力を供給できるようにと媒介は常に身に着けていられるほどに小さく

そして魔法を使っていることも気づかれずに人に紛れることができる。

今まで俺たちが探しても見つけられなかったのはそういうことだ。

マティアスみたいに自分から魔法使いであることを主張してくれればよかったんだがな。」


エゼキエルがいたずらめいた笑みを浮かべるとマティアスはわかりやすくムッとした表情をする。


「下手にその魔法使いの周辺を探ることで逆に呪いをかけられる懸念がある。

解呪方法がその魔法使いを倒すことだけの場合、俺が相手でも状況はおそらくかなり厳しい。

呪いへの対抗手段を先に見つけておく必要がある。」


「エゼキエル様ほどの実力があってもですか?」


彼が魔塔主であるのはその実力ゆえではないのだろうか。


「・・・・昔はね、俺くらいの実力の魔法使いなんて大勢いたんだよ。」


私の言葉にエゼキエルは自嘲するような悲しい笑みを浮かべた。

過去を思い出すかのように伏せられた瞳にはどんな光景が映っているのだろうか。

その表情をみて私は何も言えなくなってしまった。

読んでいただきありがとうございます。

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