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私たちは応接室からエゼキエルの部屋へと場所を移していた。
「ドラゴンってもう十数年も結界の中に閉じこもっているでしょう。
そんな力と妹が関係あるはずがありません。」
「だけど実際問題彼女が持ってるんだよ。」
私は用意された紅茶を飲みながらこれからどう話すべきか悩んでいた。
未来でこの2人は自分の味方であったが、それは聖女という立場がなかった。
今はどう転ぶかわからないが、ドラゴンの力を持っていることはもう知られてしまっているため
時間の問題なのかもしれない。
「アリス。すまないが少し手に触れる。」
ふと紅茶を飲んでいる方とは反対の手をマティアスに取られた。
目を閉じて集中しているようだ。
何をしているのだろうか。
「探知の魔法を使っているんだ。」
答えたのはエゼキエルだった。
「我々魔法使いは相手の魔力を探知することができる。
その力が大きいか小さいか。自分と同系統のものかまったく異質のものか。
皮膚に直接触れることでそれが可能になる。
まれに大きすぎる魔力は触れなくても感知することが可能だ。
マティアスは細かい魔法は得意だが探知に関しては俺の方が上だな。」
「余計なこと言わないでください。
初対面の相手を誰かれ構わず探知するあなたが異常なんです。
そのせいで精度だけ上がっているんでしょうが。」
「優秀な人材を見つけるためにも重宝しているだろう?
そのおかげで、と言ってくれ。
日々のたゆまぬ努力の成果だ。」
探知が終わったのだろうか、マティアスがエゼキエルを睨みつけて言った。
(なるほど、そういう意味だったのね。)
たしかに未来で初めて会ったときもエゼキエルは私の手を握りしめていた。
握手で終わる接触にしては長いと思った。
今回も握手をしたときに私の探知をしたのだろう。
だがあまりにも一瞬の出来事だった。
彼の警戒心もさることながらその魔法の精度も魔塔主としての実力の一部なのだろう。
「俺にわかるのは魔力とは異なる力があるということだけです。それが何かまではわかりません。」
「まぁ、そうだろうな。俺が気づいたのも昔ドラゴンの結界の解析をしたからだ。
ところでアリス、だったね。君がドラゴンの力を持っている理由を説明してもらえるかい?」
呪いを解除する手がかりを得られなければ彼を救うことはできない。
私は決心して未来で起きた出来事、聖女としての力を使って時間を巻き戻したこと
1年前の過去に戻ってきたことを説明した。
私が話をしている間2人は口をはさむことなく聞いていた。
「・・・・・なるほど。にわかには信じられないがそれなら辻褄が合うね。
それに君のその力が何よりの証拠だ。
・・だが、気になることがある。なぜ君は自信が聖女であることを公表しない?
呪いについて調べるのであれば聖女の立場を得た方が動きやすいはずだ。」
「過去に戻る前にアストラ・・ドラゴンに言われたのです。
聖女であることを人に話すな。聖女を命を狙われている、と。
実際に殺された聖女もいたようなのです。
教えてくれたドラゴンは力を使ったため眠りにつくと言っていました。
彼はいつ目覚めるかもわかりません。
聖女であると知られるわけにもいかないのでうかつに聖教会に近づくこともできないのです。」
「・・・ふむ。聖女を狙う者、か。
大いなる力を持ちドラゴンを従えられる聖女は恰好の的だろう。
君を手に入れればその理を変える力だけではなく
ドラゴンを従える力すら手に入れることができるのだから。
その力を利用できないのなら殺してしまおうと考えても不思議じゃない。」
自分の想像していたよりもはるかに危険な状態に置かれていたらしい。
そう考えるとこの2人に知られてしまったことは
ある意味運がよかったのかもしれない。
「聖教会に近づかなかったのは賢明な判断だ。
あの場所は普段立ち入ることが許されない分何が起こるかわからない。
今の君が結界に近づくことで聖女の力が反応することも考えられる。
それにこうして探知をされることで気づかれる可能性もあるしね。
早急に隠す手立てを見つけないとな。」
「それなら俺がやります。魔道具の製作ならあなたよりも適任でしょう。」
そう言ったのはマティアスだ。
「普通の魔道具であればその通りだろう。しかし聖女の力を隠すとなると話は別だ。
より高度な魔法で編みこまないと隠しきることはできないだろう。
どちらにせよお前の力は必要だ。よろしく頼むよマティアス。」
「あなたに言われなくてもアリスのためですから。」
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