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コンコンと応接室の扉がノックされた。
「・・・・・・・・・・・・どうぞ。」
それまで笑顔だったマティアスが途端に険しい顔をする。
しかも返事までにすごく間があった。
どうしたのだろうかと考えているうちに扉が開いた。
「マティアス。お前のことだから客人に茶菓子の1つも出さないだろうと思って
俺が特別に菓子を持ってきてやったぞ。
城下町でも話題になってるとっておきの菓子だ。」
そう言って得意顔で現れたのはかわいらしくラッピングされた箱を持ったエゼキエルだった。
「・・・あなたには今日中に終わらせないといけない仕事を頼んでいたはずです。
遊んでいる余裕なんてありませんよね。お茶菓子はいただいておくのでお戻りください。」
マティアスはそう言うと素早くエゼキエルから茶菓子の箱をひったくった。
けれどそれで諦めるエゼキエルではなかったようだ。
「そう言われると思ってな。明日の分の仕事まで終わらせた。」
「・・・・・。」
得意顔でいうエゼキエルに顔をしかめて黙り込むマティアス。
「お前の妹が会いに来たって聞いてな。
これはぜひともお前の兄として挨拶をしなければならないだろう。」
「誰が兄ですか。冗談はその態度だけにしてください。
普段からそうやって真面目に仕事してくれれば俺が苦労することもないんですが。」
「まぁまぁ落ち着いて。客人の前だぞ。」
そう言ってエゼキエルは私に視線を向けた。
私も彼に挨拶をするために立ち上がってエゼキエルの前に行く。
「お初にお目にかかります。アリス・ルードベルトと申します。
本日は急な訪問になり申し訳ありません。」
挨拶してエゼキエルを見た。
彼も未来とほとんど変わっていない。
その姿だけではなく言動も。
そのことに少しほっとする自分がいた。
「構わないよ。ご令嬢。マティアスの妹であればいつでも大歓迎だ。
俺の名前はエゼキエル・ウィンフリード。この魔塔で魔法使いたちを束ねる魔塔主だ。
よろしく。」
そう言って握手のための手を差し出す。
私も差し出された手をとる。
彼に自己紹介をされて握手をするのも2回目だ。
初めて会ったときからそう時間がたっているわけではないのに懐かしさを感じた。
そんなことを考えていると不意に身体が強い力で引っ張られた。
引かれる力に逆らえず身体が前のめりになる。
(・・・え?)
何事かと思っていると眼前にエゼキエルの赤い瞳が見えた。
鼻が付きそうなほどの近い距離に彼の顔がある。
「君は何者だ。何の目的があってここに来た。」
聞いたことのないほどの低く響く声。
その意味を理解するよりも前に今度は後ろに身体を引っ張られた。
続けて何かが爆発したような衝撃と音がする。
「何のつもりですか!」
気づいたときにはマティアスの右腕に身体を抱えられていた。
マティアスは左手に杖を持ち、エゼキエルを睨みつけている。
床にはその衝撃の跡だろうか黒く焦げ付いているが
エゼキエルの身体には傷1つどころか衣服の乱れも見られない。
彼の周囲だけが円を描いたように無事だった。
エゼキエルは敵意を持つ目で私を見ていた。
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