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彼が、いた。
夕日に照らされたその姿は出会った時と変わりない。
そこにいる。生きている。
それだけで泣きそうになるくらいに胸がいっぱいになってうれしかった。
「・・・・ヒース、クリフ。」
名前を、呼ぶと彼の目が私を見た。
彼に手を伸ばそうとして、近づこうとするができなかった。
彼が私を見るその目があまりにも私の知る彼とは違ったから。
「・・・・誰だ。」
冷たい声。
その声や眼差しのすべてが私を拒絶していた。
伸ばしかけた手を思わず引っ込める。
彼は私に対して常に優しかった。
初めて会ったときすら冷たい態度をとる私を心配してくれた。
だが目の前の彼は初めて会ったときとも違う。
同じ人物であるはずなのにまったく違う人すら見える。
(・・・そうじゃない。私、見たことがあったのに。)
彼と初めてデートというものをしたとき。
彼は自分の周囲に集まっていた女性たちに無関心だった。
まるで空気のように扱っていたはずだ。
私の立場が彼女たちと同じになっただけ。
自分だけが特別扱いされていることに気づかないふりをしていた。
どうして私は初めてあったときから彼の特別だったのか。
「私・・・。」
なんて言えばいいのだろうか。
未来から来た?あなたを救いに来た?
あなたに会いたかった?
どの言葉を伝えても今の彼にはまるで届かない。
頭のおかしな奴の言葉だと思うはずだ。
かける言葉がわからずにいるとヒースクリフがこちらに近づいてきた。
しかし、彼はそのまま私の横を通り過ぎる。
振り返るが彼はこちらを見ることなくそのまま歩いて行ってしまった。
私は、その場に1人取り残される。
どこかで期待していた。
過去に戻って私たちは出会う前からやり直しているとわかっていたのに。
再び出会えたとき、私たちはまた恋に落ちるだろうと期待していた。
突きつけられた現実に胸が痛かった。
でも、私は未来で何度も後悔したはずだ。
今以上に苦しかった。
彼のことをもっと知るべきだったと。
何もしないでいたくないと。
彼が与えてくれた愛に答えたいと。
私は手に入れることすらできなかったはずのやり直すチャンスを手に入れた。
ここで悲しんでいる時間はないのだ。
巻き戻った時間は1年。
それまでに彼を呪いの呪縛から救い出す。
たとえもう1度私たちが恋をすることができなかったとしても
未来であなたがくれた思いは確かに私の中にあるから。
今度は私があなたを救ってみせる。
私たちの始まりの場所で、再び決意した。
読んでいただきありがとうございます。