表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/74

28

「話の腰を折るような馬鹿な真似はしないでください。

魔塔主の面目丸つぶれですよ。」


そう言って魔塔主であるエゼキエルの頭をはたいたマティアスは

笑っているが額には青筋が浮かんでいた。


「冗談、冗談。そんなに怒ることないじゃん。」


エゼキエルは頭を押さえてごまかすと気を取り直すようにコホンと咳払いをした。


「人を蘇らせる情報を伝える前に、まずアリスは魔法というものがどういうものか知っているかい?」


尋ねられて考える。

実は、魔法について詳しく知らない。

知っているのは普通の人が扱えないような力を持つということだけ。

私は首を横に振って答える。


「魔法とは大まかにいうと我々魔法使いがそれぞれ持っている魔力を使って

火や風、土や水といった自然に干渉する力のことをいうんだ。」


エゼキエルはそう言うと人差し指にポッと火をともした。

魔法使いが実際に魔法を使うところは初めて見た。

私は食い入るようにその不思議な光景を見つめた。


「これが、魔法。しかし、魔法は万能の力じゃない。

私の知る限り死者を蘇らせる魔法は存在しない。

魔法は人の生や死に関わるような理を変えることはできないからだ。

けれど、この国には人の理を超えた力を持つものが存在する。

それが聖女とドラゴンの力だ。」


聖女とドラゴン。この国の守護者。

ここでその話題になるとは思わなかった。

たしかに、聖女とドラゴンがどのような力をもって国を守っているのか

具体的には知らなかった。


「聖女と呼ばれる人物はもともと何も持たない人間だ。

魔法使いのように大きな魔力を持つわけでもなく、特別な力があるわけでもない。

しかし、ドラゴンに選ばれることによって国を守護する力を得るとされている。

国の守護者が得るのはそれこそ他国からの危機を未然に防いだり

敵を一蹴できるほどの大いなる力、魔法とは異なるものだ。

しかし、残念ながら詳しいことはわからないんだ。」


そう言ってやれやれとエゼキエルは首を振る。


「それは、何か理由があるのですか?」


聖女とドラゴンは何百年も昔からこの国を守ってきた。

人知を超える力であるならその研究が進んでいてもおかしくはないはずだ。

それなのに提示される情報はあまりに少ない。


「聖女に関する記述は全て、前魔塔主の時代に葬られてしまったんだ。」


固い声だった。

この国の守護者に関する重要な情報が葬られてしまった

前魔塔主の時代にただならぬことがあったのだろうか。

しかしあまりに真剣な声色に尋ねていいものなのかもわからない。


「今の時点で君の望みを叶えるための鍵を握っているのはドラゴンだ。

だが、ここで問題がある。

実は、前聖女が亡くなってからドラゴンは人間を拒絶しているんだ。」


そう言ってエゼキエルは優雅に紅茶を飲んだ。


「今、ドラゴンはこの王国の聖教会の奥深くで自らの周囲に結界をしいて

人との関わりを断っている。」


その情報を聞いて納得する。

どうりでずっと聖女が選ばれていないはずだ。


「ドラゴンの身に何かあったのではないのですか?」


私が尋ねるとエゼキエルは首を振った。


「あれだけ強固な結界を維持できるんだ。その命は保障できる。

昔、現状を憂いた国王に結界の解除を依頼されたことがあった。

しかしあれは別次元の全く理の異なる力でね。歯が立たなかった。

いくら俺やマティアスが結界の解除を試みたとしても

その力をかりるどころか会うことさえ叶わない可能性の方が大いに高い。

それでも君はこの望みに賭けたいと思うかい?」


「もちろんです。私はもう何もしないで後悔したくないのです。

たとえたどりつく先は同じ結果であったとしても最後まであがきたいのです。

どうか力を貸してください。お願いします。」


私は深々と頭を下げた。


「頭を上げてくれ。マティアスは俺の家族同然のような存在なんだ。

そのマティアスの妹なら俺にとっても妹だ。妹の願いくらい叶えてみせるよ。

しかし、人の理を外れた大いなる力には必ずその代償を支払うことになる。

決してそれを忘れるな。」


「はい。ありがとうございます。」


私はそう言ってエゼキエルの赤い瞳を見つめ返した。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ