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「アリス。調子はどうだ?」


そう言って部屋を訪ねてきたのは兄のマティアスだ。

ここは彼の部屋であるにも関わらず私が独占してしまっている。


「大丈夫よ。お兄様。食事も着替えも用意してくれてありがとう。」


目が覚めた私にマティアスはワンピースと簡単な食事を準備していた。

今着ているワンピースは自分のものではない。

侯爵家から着替えを取ってこようとしたが、ドレスではこの魔塔で

悪目立ちをしてしまうため購入してきたのだという。


部屋に設備されているソファに座っている私の前にマティアスは座る。

今日は緊張しているような固い表情をしている。


「お兄様?」


「・・・お前の気持ちは変わらないか。

何を犠牲にしても取り戻したいと思うほどの覚悟があるか?」


真剣な表情で問われた。

それが自分の言ったことの答えを求められていることだと理解するのが一瞬遅れた。


「・・・取り戻せるの?本当に?」


茫然とつぶやいた。本当にそんな方法があるのだろうか。


「期待をさせるような言い方をしてしまってすまない。

俺が示せるのはあくまで可能性があることだけだ。

その可能性が0じゃない、ということだけ。

できない可能性の方が圧倒的に高いし実際にどうなるかわからない無謀なものだと思う。

でも、お前にその覚悟があるなら俺は俺にできることならなんだってしてやる。

だから、お前の気持ちを聞かせてほしい。」


その言い方は聞き覚えがある。

役割をただ求められるのではない。

私の本心を、私の希望を聞くための言葉。

あのとき言えなかった言葉はいまでもくすぶって私に傷をつける。

私はもう迷わなかった。


「取り戻したい。彼が伝えてくれた愛に答えたいの。

私は、彼を取り戻すことができるならどんな犠牲を払うことになってもかまわない。」


泣きそうになりながらも覚悟を持って自分と同じ緑色の瞳を見つめ返した。


「わかった。・・お前に会わせたい人がいる。」


私の思いを聞いたマティアスは立ち上がる。

私はそのあとを追いかけた。


**********


マティアスに連れられてたどり着いた先は一際大きな扉の前だった。

マティアスの部屋からも階段を登って行った先、塔の頂上に位置している部屋だ。

たとえ塔の構造を知らなくてもこの部屋にいるであろう人物は

なんとなく察することができる。


マティアスは迷うことなくその扉をノックした。

室内から入室を促す声が聞こえ、その扉を開ける。

扉の先にいたのは長い黒髪の男性だった。


「初めまして。マティアスの妹さん。俺の名前はエゼキエル・ウィンフリード。

この魔塔で魔法使いたちを束ねる魔塔主だ。」


男性は優雅に微笑むと私に手を差し出した。

私は驚いて自らを魔塔主という男性を見た。

魔塔主はもっと白髪のひげを生やしたおじいさんを想像していた。

この魔塔を束ねる実力と権力を持つ人物のはずだからだ。

目の前の男性はマティアスよりも少し年上だろうが、それでも想像よりはるかに若い。

腰まであるこげ茶色の髪はゆるく三つ編みにされており、こちらを見つめる瞳は燃えるような赤だ。

宝飾品を好むのだろうか。その耳にはいくつもの飾りがついているが決して品がないわけではなく

彼の持つ華やかさをより引き立てている。

とても厳格な魔塔の頂点となるような人物には見えなかった。


「アリス・ルードベルトです。お会いできて幸栄です魔塔主様。

この度は滞在を許していただきありがとうございます。」


そう言って差し出された手を取り握手をする。

すぐに手を離そうとするが思いのほか強い力につかまれて自分で離すことができなかった。

驚いて魔塔主であるエゼキエルを見ると彼は何かを考えこむようにしたあと

ぱっと手を離した。


「すまない。ご令嬢の手があまりにかわいらしくて。」


そう言ってからっと笑った。

エゼキエルの隣にいるマティアスは険しい顔で彼の顔を見ている。


「長い話になりそうだからね。こちらへどうぞ。」


案内されたのは部屋の中央に位置するソファだった。

マティアスはすでに準備されていた紅茶をカップに注ぐと私たちの前に置くと

私の隣に座った。


「さて、マティアスから話は聞いている。

死んだ人間を蘇らせる方法を探している、と。

君の望みはどういう意味を持つことかわかるかい?」


その言葉で室内が一気に緊張感に包まれる。

しかしここで飲まれるわけにはいかない。

私は臆することなく魔塔主の赤い瞳を見返した。


「はい。私の願いは人の道理に反することであると理解しています。

ですが、私は自分の愛する人が伝えてくれた愛に答えたいのです。」


静寂が部屋に満ちる。ほんの数秒のことなのにやけに長く感じた。


「・・・本当にそっくりな兄妹だね。俺は君たちの目に弱いよ。」


急におどけたようにソファの背にもたれかかる魔塔主に私は面を食らった。

今までの優雅で威厳のある姿とは別人のように砕けた姿。


「わかった。俺が知っている情報であれば君に教えよう。

けれど、俺からも条件がある。君に聞きたいことがあるんだ。

俺たちが追っている情報について、君は知っているようなんだ。

だから君の知っていることをすべて教えてほしい。」


「わかりました。アリス・ルードベルトの名にかけて誓います。」


私が即座にうなずいて返すと魔塔主は一瞬ぽかんとした表情をしたが

すぐににやりと笑った。


「かっこいいね。気に入った、アリス。ならば俺も魔塔主エゼキエル・ウィンフリードの名にかけて

君の望みをかなえるために尽力すると誓おう。俺のことはエゼキエルお兄様と呼ぶように。」


そう得意げに言ったエゼキエルの頭をそれまで黙って話を聞いていた

本物のお兄様が思いっきりはたいた。


読んでいただきありがとうございます。


※一部内容変更しました。

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