26.5 side:マティアス
泣き疲れて眠りに落ちたアリスにそっと布団を掛けなおし
音を立てないように気を付けながら部屋を出る。
人気のない魔塔内部の階段を登っていく。
目指すのは塔の頂上に位置する部屋だ。
この魔塔のなかで最も高い地位と実力を有するものがいる場所。
たどり着いた先の扉をコンコンと控えめなノックする。
部屋にいることはわかっている。しかし、しばらく待っても入室を許可する返事はない。
マティアスは気にする様子もなく扉を開けた。
「おい!どうぞなんて言ってないんだけど。」
そう言った部屋の主は自分より年上のくせに幼い子供が拗ねたように頬を膨らませている。
本気で怒っているわけではなく、ただ自分が拗ねていることを示したいだけということは
長い付き合いからもよくわかる。
恐らく、妹に会わせなかったことを根に持っているんだろう。
こういうときは変に構わないことが得策だ。
「妹を受け入れてくださってありがとうございました。
さきほど目を覚まして混乱している様子でしたが今はまた眠りました。」
「そうか。妹の滞在はお前たっての願いだったからな。
家族同然だと思っているお前の願いを叶えることくらいわけないさ。」
部屋の主は机の上に乱雑に置かれた書類を眺めながらいう。
本当にこの人にとっては家族同然のような扱いだ。
だからこそ、自分もこれから無謀な問いを口にすることができる。
「1つ、聞きたいことがあります。
・・・・死んだ人間を蘇らせる方法をありますか?」
その言葉で一気に部屋の温度が下がる。
気分的なものではない。実際に身体から漏れる膨大な魔力に圧倒されている。
だが、ここでたじろぐわけにはいかない。
本能的に下がってしまうことがないように足に力をこめる。
「お前がそんな冗談を言うなんてめずらしいな。
そんな魔法は存在しないこと、私の次にお前がよくわかっていると思うが?
大事な妹に再会してあらぬことでも吹き込まれたか。」
微笑みながらこちらを見る瞳には冷たい光が宿っている。
「俺は本気です。今まで何もせず、妹にすべてを背負わせてきた分
自分にできることは全てやるつもりです。」
場にのまれずその目を見返して臆するつもりはないことを示す。
「お前の愛は一途すぎる。もう少し周囲に気を配らないと
いつかお前自身がそれに飲み込まれてしまうぞ。」
やれやれと言って俺の言葉を冗談として流そうとする。
しかし、そうさせないための切り札はこちらにある。
「呪いに関する手がかりを手に入れたと言ってもですか。」
その言葉で今までの空気が一変し、しばらく静寂がその場を支配する。
やがて、部屋の主は重い口を開いた。
「・・・・話を聞こう。」
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