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残酷描写あります。

苦手な方はご注意ください。

「罪人、ヒースクリフの罪状を述べる。」


処刑執行人である騎士が私たちにも聞こえるようにと声を張る。

両手を後ろ手で結ばれたヒースクリフは膝をついている。

私と目が合った彼は一瞬目を見張ったが、すぐに隣に座る王妃を睨みつけた。


「王子殿下並びにルードベルト侯爵夫妻殺害。聖騎士団長並びに騎士団所属の騎士

計10名を殺害した罪により斬首刑に処す。」


(どうして、彼がそんなことを・・・。そんな、理由はないはず。

何かの間違いじゃ・・・。)


状況が理解できず、動悸が止まらない。

呼吸すらままならない。

それなのに頭だけはぐるぐるとせわしなく思考していく。


私の両親、ましてや王子と面識なんて平民の彼があるはずがない。

そんなことをすればこうなることはわかるはずだ。

彼がそんな意味のないことをするとは思えない。


―――ならば、何故?


ヒースクリフの青い瞳と目が合った。

彼は悲しげに顔を歪めた。


(もしかして・・・・私、なの?)


今までぎりぎり均衡を保っていた自分の心突き落とされたように絶望の闇に落ちていく。


「ま、まって。まって、ください。王妃様。お待ちください。

お願いします。お願いします。かれ、は・・・彼は・・・。」


とにかく止めなくては。彼を助けなくては。何か言わなくては。

何を言えばいい?どうすれば彼を助けられる?

そう思って気持ちは先行するのに思うように言葉が出てくれない。

王妃へとすがるように手を伸ばす。


そんな私の様子を見ると王妃は私の伸ばした手をとり両手で包み込んだ。


「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。処刑の場は初めてだもの。怖いでしょう。

でも、あなたに見届けてほしいの。だってあなたの両親と婚約者を殺した男なのよ?」


「ち、ちが・・!」


「違わないわ。だってその場で捕まえたんだもの。私もね、その場にいたの。」


王妃の顔を見上げた私はそれ以上声を出すことができなくなった。

王妃は、笑っていた。

微笑んでいるのではない。本当に、心から楽しそうに笑っている。

これまで王妃に対して感じたことがない恐怖が私を支配した。


「罪人。最後に何か言い残したことはあるかしら?」


まるで慈悲をかけるような優しい声でヒースクリフに問いかける。


(待って、やめて、殺さないで。誰か、誰か彼を助けて。)


涙が止まらない。

誰かに助けを請わずにいられない。

時間が止まってくれない。

誰か、誰でもいい。彼を・・・!


「アリス。」


優しい声に名前を呼ばれた。


私は思考が止まってしまったまま、呼ばれるままに彼を見た。

優しい青い瞳と目が合う。

その優しい眼差しが大好きだった。

私を呼ぶその声が大好きだった。

大切なものを扱うようにそっと触れてくれるその指先も。

慣れなくても頑張ってエスコートをしてくれたその姿も。

花を耳にかけて照れたように笑った顔も。

寂しそうな顔も、苦しそうな顔も私が笑顔にしてあげたかった。

やっと気づいたんだ。

あなたが私にくれたものの正体に。

私は、あなたのことを―――。


「心から、君を愛してる。」


王妃の手が挙がり、その剣が無慈悲に振り下ろされた。

真っ赤な血が雨上がりの空に飛び散る。

私はただその様子を見ていることしかできなかった。


「あぁっ!・・・やっぱり、愛って素敵ねぇ。」


ぞっとするほど執拗的な、それでいて少女のように楽しそうな誰かの笑い声が聞こえた。

読んでいただきありがとうございます。

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