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ティアレイン王国の建国際は3日間にかけて行われる。

1日目には王族が民衆にむけて講演を行う。

平民も王族の顔を見ることができる貴重な機会であるため大勢の人が賑わう。

3日間の中で最も盛り上がるのは3日目の夜に行われる王族が主催するパーティーだ。

王国のあらゆる貴族が集まる社交の場。

私も社交界デビューをしてからは毎年両親とともに参加していた。


その建国際の2日目。私はヒースクリフとともに城下町を訪れていた。

例年通りであれば3日間両親とともに王国各地から集まった貴族たちと交流を持つために

お茶会に参加していたはずだった。

しかし今年は両親がとても忙しいようだ。

だけどそれにしてはどこか上機嫌だった。

3日目の舞踏会に参加することは義務づけられていたがそれ以外の行動を指示されることはなかった。


普段ならそこまで人通りの多くない通りでも多くの人で賑わっていた。

はぐれてしまわないようにとヒースクリフと手をつないでいるが人が多い分

いつもより距離が近い。

祭りの雰囲気だけでなくやけに華やかだと思ったらすれ違う女性たちは誰もかれも

色とりどりの花を身に着けていることに気づいた。


「ヒースクリフ。女性たちは花を身につけているようだけれど何か意味があるの?」


「・・・少し行きたいところがあるんだ。ついてきてほしい。」


私の質問に答えずそう言う彼に手を引かれるまま歩いていく。




彼が行きたい場所は花屋だったようだ。

色とりどりの花は見ているだけでも癒される。


「好きな花はある?」


「うーん・・・どれも綺麗で悩むけれどこの中ならマーガレットが好き。」


何の目的で来たのかわからないけれどそう言って私は白いマーガレットを指さした。


「わかった。」


彼は店員に声をかけ白いマーガレットを3本購入する。


「アリスは建国の逸話を知っている?」


建国の逸話。それは嘘か本当かわからない昔ばなしだ。

数百年前、この国ができる前のこと。初代の聖女とドラゴンは深く愛し合っていた。

聖女はその土地に住む人々を守ることを望み

ドラゴンは愛する人の約束のために国を作り、彼女の望み通りその国を守護するものになった。

ドラゴンは愛する人が亡くなった後もその約束を守り続けているというものだ。

話の流れはわからないが建国の逸話については知っているためうなずいた。


「建国祭ではドラゴンが深く愛した聖女になぞらえて、男性は女性に花をプレゼントするんだ。

自分の、最も大切な人へ。」


そう言って彼は私の髪をそっと耳にかけて手に持っていたマーガレットを3本とも髪にさした。

宝物に触れるかのような優しい手つき、照れているように少し赤く染まった頬、

熱のこもったまなざし、そのすべてに胸が高鳴った。

急激に自分の顔が赤くなっていくのがわかる。

私も何か言わなくてはと思うのにあまりの衝撃に口をあけたまま言葉も出せない。

いたたまれない気持ちになる私とは対照的に

ヒースクリフはそんな私の様子を満足そうに見ていた。


**********


城下町の広場では軽やかな音楽が流れていた。

町の人々は楽しそうに手を取り合って踊っている。


「俺たちも踊ろう。」


そう言ったヒースクリフに手を引かれた。


「私、このダンスはわからないのだけれど。」


「問題ないさ。ほら、周りを見て。」


そう言いわれて改めて周囲を見渡してそれに気づいた。

全員が同じダンスを踊っているわけではない、それどころかダンスでもなく

ただくるくると回っている人もいる。

それぞれ違う動きをしているのにどこか統一された動きのように見えるのは

同じ音楽で、同じ時を楽しみ、心のままに踊っているからだろうか。


「そうね。なんだかとてもわくわくする。」


おかしくて笑う私を見てヒースクリフもまたくしゃりと笑った。

初めて会ったころとは違う。

彼はいつの間にかこういう顔で笑うようになった。

それがとてもうれしくて、はしゃいだまま彼に手を取られて踊っていく。


ダンスの途中で距離が近くなったとき

ボタンを外したシャツの隙間から彼の肌が見えた。


(タトゥー?)


彼の肌には黒い茨の模様が刻まれていた。

大きく描かれた身体に絡みつくようにして描かれているツタに

どこか拒絶しているようにも見える棘。


「ねぇ・・。」


彼に尋ねようと顔を上げたところでちょうど曲が終わったようだ。

ハッとして周囲を見渡すと、一区切りついた人々が散っていく。


「アリス、どうかした?」


ヒースクリフに顔をのぞき込まれる。


「いえ、何でもないの。」


気になったけれどタイミングを逃した私は疑問を飲み込んだ。

読んでいただきありがとうございます。

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