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花畑で話をした日からも私とヒースクリフは時折2人で出かけた。
話題のカフェでお茶をしてみたり、遠乗りに行ったりした。
ただ綺麗な景色を見て話しをしているだけでも楽しかった。
お茶会で流れている噂、建国祭について他愛ないことをたくさん話した。
いつの間にか、私たちは敬語で話すことがなくなった。それがとても心地よかった。
私は浮かれた気持ちでヒースクリフとの待ち合わせ場所に急いでいた。
今日も彼と会う約束をしていた私は早く会いたい気持ちがあせってしまったのだろうか。
いつもよりかなり早めに到着してしまった。
私が広場で絡まれるということがあってから、ヒースクリフは少し過保護になった。
自分も早く来るけれどなるべく時間通りに来るように
もしくは遅刻するくらいがちょうどいいと言ってしまうくらいだ。
周囲を見渡すと人込みのなかでも背の高い彼の後ろ姿が見えた。
(あの銀髪は間違いない!)
彼は私に気づいていないようで路地裏に入って行ってしまった。
一瞬ためらったけれどすぐに行けば追いつけるだろうと彼の背中を追いかけた。
彼の入っていった路地に近づいていくと小さな話声が聞こえた。
「・・・もう、これ以上・・・・・・・すぎてしまうことは、あなたが・・・。」
「・・・。何度も・・・・俺の・・・変わらない。」
ヒースクリフと誰かが話しているようだ。
ちらりと路地裏をのぞき込むとヒースクリフと話している相手と目が合ってしまった。
あ、と思った瞬間にはヒースクリフも振り返って私に気づいた。
「ごめんなさい。ヒースクリフの後ろ姿が見えたから追いかけてきてしまって。
お話の途中でしたよね。」
そう言って話相手を見るとその姿には見覚えがあった。
格式高い白と青を基調とした鎧に身を包んだ姿。
ドラゴンの翼という国の守護者であることを示した紋章。
(聖騎士団だわ!)
聖騎士団は通常の騎士団とは異なる存在だ。
騎士団の任務は王族の護衛、他国からの侵略の阻止を目的としている。
しかし聖騎士団は違う。聖騎士団の警護対象は聖女とドラゴンなのだ。
聖女とドラゴンをあらゆるものから守る存在であり
その能力は騎士団を上回るとも言われている。
それだけこの国における聖女とドラゴンの存在は大きいからだ。
しかし、現在は長く聖女がいないことでその重要性も薄まってしまい配属されている騎士も少ない。
現在は騎士団とともに王族の護衛の任も担っているとのことだが
詳しく明かされてはいない。
そのためその姿を見ることは王城を出入りしていてもほとんど見ることはない。
(聖騎士団の騎士がどうしてこんな平民区に?)
「この間、君が襲われたことがあっただろう?彼らが人身売買に関与していたみたいでね。
話を聞かれていたんだ。でも、もう話しも終わったところだよ。行こう。」
「はい。ご協力感謝いたします。」
聖騎士が一礼するとヒースクリフに手を引かれた。
少し違和感に感じながらも私はその場を後にした。
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「今日もありがとう。とても楽しかったわ。」
初めて出会ったときの場所に来ていた。
日が傾き始めていてそんなに前のことではないのになんだか懐かしく感じた。
私がそう言ってヒースクリフを見て微笑んだ。
(・・・またこの表情だ。)
最近、時折彼は寂しそうな苦しそうな顔をして私を見る。
「ヒースクリフ。なんでそんなに苦しそうな顔をしているの?
あなたには笑っていてほしい。困っていることや悲しいことがあるなら言ってほしい。」
私の言葉でさらに彼はさらに苦しそうな顔をした。
こういうとき、彼は自分のことについて何も言わない。
それがひどくもどかしかった。
「私ね、あなたの力になりたいの。あなたのために私ができることをしたい。
こんな風に思えたのは初めてよ。この気持ちはなんていうのかな。」
微笑む私を見てヒースクリフは泣きそうな顔をして笑った。
夕日に照らされたその顔がどうしようもなく綺麗で、
同時にどうしようもなく自分の胸が痛んだ。
自分の胸にあるこの感情をなんていうのか、その答えは結局わからなかった。
読んでいただきありがとうございます。