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食事を終えた私たちは公園を散策していた。


何もないところから花や出す魔法を使う旅芸人、

音楽に合わせてその場で手を取り合って踊りだす観客。

彼らにとっては日常なのだろうその光景は

お祭りのように賑やかで、華やかでなんだかとてもまぶしかった。


今は城下町の景色を一望できる高台に来ていた。

日は傾き始めていて楽しかった時間に終わりが近づいている。


(もう、屋敷に帰らないと・・。)


「なぜ、そんなに悲しそうな顔をしているんですか?」


私の顔をのぞき込むようにしてヒースクリフは言う。


「今日が、あまりにも楽しかったからですかね。

見たこともないものを見て、こんなに胸が躍ったのは初めてです。

私がお礼をするはずだったのにこんなに楽しませていただいて

ありがとうございました。」


「アリスに喜んでいただけて何よりです。

次は馬で遠乗りにいきませんか?あなたに見せたい景色があります。」


彼は夕日を眺めながら魅力的な提案をする。


「・・・1つ、聞いていいですか?

なぜ私とデートしようと言ったんですか?

今日改めて感じましたがあなたにとっての得がありません。」


彼の言葉に答えることなく自分の疑問をなげかける。


「あの日、あなたと俺が初めて会ったとき

あなたが迷子になって取り残されてしまった子供のような顔をしていたからです。

悲しそうな顔ではなく、笑顔にして差し上げたかった。」


(彼の優しさを信用していいのかわからない。)


私は改めて心のなかでそう思った。

初めて会ったときからヒースクリフは私にとってあまりに都合がよすぎる。

それに助ける手段だったとはいえ、彼は闇市場で顔を知られている人なのだ。

頻繁にとまでは行かなくても、闇市場に出入りをしているのはうかがえる。

そうやって冷静に考える自分がいる一方で彼の言葉が嘘であったとしても

その優しさに甘えたいと思う自分がいた。


「俺は平民だから、貴族として生きているあなたの悲しみを理解できないのかもしれません。

それでも、1人取り残されてしまったような顔をするあなたのことを

見て見ぬふりをすることはできなかった。

あなたには生きていくなかで果たさなければならない責任はあるでしょう。

それでも、生きていかねばならない日常生活の隣にも

今まで得られなかったような喜びがあることを知ってほしかったのです。」


彼の言葉は痛いほど私の胸にしみた。

私の心は自分でも感じたことがないほど喜びと好奇心にあふれていたから。

日常を忘れて過ごした時間はあんなにも輝いていた。


「私は・・・。」


城下町で遊び歩くなんて侯爵令嬢としてあるまじき行為だということはわかっている。


『私たちは同じだと思います。いつか果たさなければならない役割にからめとられる

運命なのだとしたらそれまでは、せめて今だけは自分の思うように生きるべきだと

思いませんか?』


いつかのお茶会でヘレン嬢が私に言った言葉を思い出した。

あのときは上手く理解できなかった彼女の言葉が今は痛いほどに理解できる。


(・・・私もそうやって、自分の思うように生きていきたい。

いつか果たさなければならない責任から逃げることはしないから。

どうか、それまでは。)


「花畑、見に行ってみたいです。連れて行ってください。」


彼女の、彼の言葉で少しずつ自分の中で何かが変わっていく気がした。

読んでいただきありがとうございます。

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