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「今日もそのローブを着ていらっしゃるんですね。」


ヒースクリフは私の格好を見て言う。


「実はドレスを着ているのですがここではとても目立ってしまうので。」


私がそう言うと彼は少し考えこむようにしてから思いついたように私を見た。


「行きたい場所があるのです。こちらです。」


そう言って私の手を引いて歩き出した。


**********


「こちらのワンピースはいかがでしょうか?」


「いいですね。これにします。」


ヒースクリフは店員の言葉にテキパキと答えていく。


彼に連れられてやってきたのは城下町の服屋だった。

普段自分が着るようなドレスを扱っているのではなく平民向けなのだろう。

並べられているのは簡素なワンピースであるが誰も品がよく可愛らしい。


今私が着ているものも黄色を基調としたワンピースだ。

ふんわりとしたスカートに腰には大きなリボンがついている。

来ていたドレスと違ってとても動きやすく可愛らしい。

彼は私が口を挟む間も無く購入してしまった。


「とてもよくお似合いです。」


「あの、買っていただいて申し訳ないです。

ただでさえ今回は私がお礼をする立場なのに。」


「お気に召しませんでしたか?」


「そんなことありません!とても素敵です!」


「ならば受け取ってください。

あなたに服を送ることも俺の喜びの1つです。

それに、この格好であれば誰もあなたが貴族令嬢とは思わないでしょう。

今日は身分に縛られることなく楽しんでいただきたいのです。」



「それを言われてしまうと断れません。・・・ありがとうございます。

とてもうれしいです。」


「今日は身分に縛られないためにご令嬢をアリスと呼ばせていただきますね。」


そうやって笑う顔はずるいくらい美しく

物語の1ページに出てくる王子様のようだった。


「わかりました。ヒースクリフ。」


少しはにかんで彼の手を取った。


**********


ヒースクリフが連れてきてくれたのは城下町のなかでも平民向けのお店が立ち並ぶ通り。

串に刺した肉をその場で焼いて提供するお店や

焼きたてのパイやタルトが所せましとショーケースに並んでいるお店など

食べ物だけでもたくさんの種類がある。

おいしそうな香りもさることながら目を奪われるのは

道行く人々がその場で買ったものをおいしそうに食べている光景だ。


「うわぁ・・・!」


思わず感嘆の声が漏れてしまった。

アリスは言うまでもなく深窓の令嬢だ。

平民の生活など体験したこもなければ見たことすらなかった。

とても賑やかで、決して品のいいような場所ではないのに

そこには今まで見たことがない楽しさにあふれていた。


私の楽しそうな様子を見てヒースクリフはクスっと笑った。


「アリスに喜んでいただけて何よりです。

歩きながら見て回りましょう。」


ヒースクリフの言葉で我に返った私は

こほんと咳払いをして居住まいをただす。

しかし、周りの誘惑には勝てずきょろきょろと周囲を見渡してしまう。


「お腹は空いていますか?何か食べましょうか。」


彼は私に好きなものを選ぶようにと言う。

たくさん並ぶ店を何往復もしてやっと購入することができた。


**********


昼食を購入することができた私たちがやってきたのは

先ほどの通りからほど近い公園だった。

公園のベンチに座り食事をとることになった。

私は男性と2人でベンチに座ることに少しためらいを感じながらも並んで座った。


(ベンチに座って外で食事をするなんて初めてだわ。

なんだかピクニックみたいね。)


ピクニックはお弁当を持ち寄って外で食事をするらしい。

知識として知っているたけでもちろん経験したことはない。

それを考えていても寂しさより今経験していることへの喜びの方が大きかった。


購入したのは新鮮な野菜と片面を香ばしく焼いた卵がはさまれたサンドイッチ。

デザートは砂糖で表面をカリッと焼き上げたワッフルだ。


(そういえば、どうやって食べるのかしら。ナイフもフォークもないわ。)


少し戸惑ってちらりと隣に座るヒースクリフを見る。

彼は丁寧に包まれたサンドイッチを手でつかみ口に運ぼうとしているところだった。


「どうしました?」


私の視線に気づいたヒースクリフは食べるのをやめてこちらを見た。


「あ、手づかみで食事をするなんて嫌でしたか?」


食べ始める様子のない私に気づき彼は申し訳なさそうにする。


「違うんです。その・・・恥ずかしながら、どうやって食べるか考えていて。」


「ここでは守るべきマナーもありませんし誰かの視線を気にする必要もありません。

少し行儀は悪いかもしれませんが、こうして手で持って召し上がってみてください。」


そう言ってくれるヒースクリフにならい、おそるおそる食べ始める。


「・・・おいしい。」


そう思ったのはどれくらいぶりだろうか。

屋敷で出される食事はこれよりも高級な食材を使っているのにおいしいと思えたことはなかった。

なぜこんなにも違うのか。

つぶやいた私の言葉に穏やかに笑うヒースクリフを見た。


人目を気にせずに青空の下で食べているという環境のせいなのか

それとも隣で同じものを食べてくれる人がいるからなのか

私にはわからなかった。

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