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ヒースクリフとの約束の日。
その日は雲一つない快晴であり、デート日和だった。
デートをすることが彼にとって何の得になるのかわからないが
助けてもらった恩があるので待ち合わせを無視することはできない。
私は社交のための買い物に行くと言って屋敷を出た。
両親は婚約者候補になるために必要なことに関してはかなり制限してくるが
それ以外のことに関しては基本的に放任だ。
今まで外出の機会がほとんどなかったのも自分で出かける必要性がなかったからだ。
今回も社交のためのと言えば簡単に外出することを許してくれたので
屋敷を出ることまでは簡単だった。
しかし問題なのは自分の服装だ。
今の私はドレスに身を包んでる。
貴族令嬢として外出するときは身分に合ったものを身につけなければならないし、
そもそも平民が着るような服は持っていないのだ。
さすがにドレスを着て城下町の広場で彼に会うのはあまりにも場違いであったため
前回ヒースクリフに買ってもらったローブを身にまとっていた。
ローブをまとう私の姿は穏やかな陽気の広場に
明らかに浮いてしまっているが背に腹は代えられない。
(ドレス姿で浮いてしまうよりはいいわよね。)
約束の時間より少し前についてしまった。周囲を見渡すが、彼はまだ来ていないようだ。
少し待って居ようと辺りを見渡したところ、なにやら周囲が騒がしくなった。
賑やかな方へと視線を向けると町娘らしき女性たちが数人固まって広場の方へ歩いてくるのが見えた。
彼女たちは1人の男性を取り囲むようにして歩いている。
(・・・あれってもしかして・。)
その中心にいるのはよりによって私の待ち人であるヒースクリフだ。
複数の女性たちに囲まれて話しかけられている様子なのにもかかわらず
遠目から見ても彼は無表情だし、まるで女性たちが見えないかのように
気にせずに歩いている。
何やら話しかけられている様子なのにとても返事をしているようには見えないのだ。
いつもなら関わったら厄介そうだと距離を置くところだが
私の待ち人は彼だし恩があるため逃げるわけにもいかない。
どうすべきか考えながらその集団を見つめているとヒースクリフとばっちり目があってしまった。
ヒースクリフは女性たちに何かを話すと彼女たちを置いて私のほうに駆け寄ってきた。
「お待たせしてしまい申し訳ありません。」
まぶしい笑顔で彼は私に声をかけるが私はそれどころではない。
「いえ、時間ぴったりですのでお気になさらず。
それよりも、あの方たちはよろしかったのですか・・・?」
恐る恐る彼の背後を覗くと案の定険しい視線を向けられており、いたたまれない気持ちになる。
「嫌な気分にさせてしまい申し訳ありません。
普段はローブで顔を隠しているから平気なのですがそうでないと
知らない女性たちに声をかけられてしまうのです。
今日はあなたとのデートだからと隠さずにいたらこんなことに・・・。」
たしかに会ったばかりの他人なのだろう。彼は背後を振り返ることすらしない。
申し訳なさそうにする彼を複雑な心境で見る。
もちろん、嫉妬とかいうような恋愛的な感情ではない。
改めて彼を見るが本当に罪深い見た目をしている。
美しい銀髪に青の瞳だけではない。
無表情でも神秘的な美しさなのに笑うと少しの幼さが滲みでるその顔立ち。
長身で、細身だけれど筋肉質な身体をしていることは服の上から見てもわかる。
今もその身に着けているアクセサリーは最初に出会ったときと同じ
シルバーのネックレスだけだし着ているものも仕立てのよいシンプルなものだが
逆にそれが彼の美しさを引き立てている。
彼は一目ぼれされてしまうタイプの人間なのだろう。
前回会ったときもフードこそかぶっていなかったが
確かにローブを着ていた。
まさかそんな理由があるとは思わなかったが。
「こうしてまたお会いできて本当に嬉しいです。
それでは行きましょう。」
もはや後ろの女性たちのことなど忘れてしまったかのように彼は私に微笑んだ。
この場の雰囲気に耐えかねた私は彼に手を引かれて足早に広場を後にした。
読んでいただきありがとうございます。