マジシャンズ・アンド・モンスターズ ~可愛いもの好きのJSだけど、育成したゲームのモンスターが思ってたのと違う件~
時は近未来、子供から大人まで幅広い人間が、とあるゲームに夢中になっていた。
「マジシャンズ・アンド・モンスターズ」
・・・略して「M&M」「マジモン」などとも呼称されるこのゲームは、プレイヤーは魔法使いに変身し、魔法を発動したり、モンスターを召喚したりして他のプレイヤーと戦う。
原理は企業秘密らしいのだが、専用の携帯ゲームデバイスを起動させると、立体映像でプレイヤーの姿は魔法使いとしての姿に変身し、デバイス上に表記される10枚のカードを操作することで、バトルする。 いわば究極のごっこ遊びなのだ。
バトル以外にもカードに封印されたモンスターを育成したり、コレクションする要素もあり、バトルせずとも楽しんでいるプレイヤーも多いが、子供たちにはやはりバトルが人気だ。
「戦え・・・ 戦え・・・ 戦え我が相棒よ・・・ その心の奥に秘めたる闘争心を解放するのだ・・・」
「だ~か~ら~ 私はバトルする気は無いって言ってるでしょ! ニャン吉!」
さびれたショッピングモール内のゲームセンターで、一人の女子小学生がクレーンゲームと向き合いながらぼやいた。 会話の相手は、腰に下げている携帯ゲームデバイスの中のモンスターだ。
「我が相棒、愛染 明よ、いずれ戦いの時が来る。 きたるべき運命にそなえ、カードを集め、強いデッキを構築するのだ!」
「はぁ・・・ 可愛いモンスター育てて、一緒におしゃべりしたり、遊んだりしたかったのに、どうしてこんな好戦的なモンスターに育ったんだろ? 攻略サイト見ても全然分かんなかったし・・・」
クレーンゲームから可愛いぬいぐるみの景品をゲットした明は、クレーンゲームの機械から離れたそのとき、横から少年に声をかけられた。
「やぁ明ちゃん! 最近育てたモンスター見せてくれないと思ったら、僕と同じ悩みを抱えているみたいだね・・・」
この少年は家望名 翔汰、明の幼なじみである。 同じ小学校のクラスメートで、彼もまたマジシャンズ・アンド・モンスターズのプレイヤーである。
「翔汰くん? 同じ悩みって・・・まさか?」
二人の小学生はショッピングモールの屋上に行った。 広い駐車場になっているが、車は少なく、ほかに人もいない。 そこで二人はゲームデバイスを操作し、お互いのモンスターの姿を立体映像で展開した。
「ひゃあ! これがあのニャン吉!? 種族が【ビースト・ドラゴン】に進化してるじゃないか!」
少年の目の前には、白い体毛に4~5メートルはあろう巨体のドラゴンが現れた。 もともとは2頭身で身長も子供たちより一回り小さいくらいの猫型モンスターだったのだが・・・
「いやいやアンタのモンスターも大概でしょ! 種族名【ケモミミ・アマゾネス】って何よ!? てかオスだったのにメスになってるし!」
明が指さした先には、かつて翔汰少年に「ガルフ」と名付けられたモンスターが立っていた。
もともとはオオカミ型のモンスターだったが、今や半人半獣の美少女に変身していた。 ケモノ耳とフサフサの尻尾は進化前の面影を残しながらも、長身で細く筋肉質に引き締まったボディをしていた。 見た目は翔汰よりは大きいお姉さんなので、端から見ればいわゆる『おねショタ』な組み合わせだ。
「いちおう強いのは強いし、歩き回ってエンカウントする野良モンスター相手に苦戦することも無くなったけど・・・ ちょっと見た目が恥ずかしいから、バトルで出しにくくなっちゃったんだよね。 いやしかし、君のニャン吉はすごくカッコよくなったね」
飼い主が他人のモンスターを話題にしていても、ガルフは少年にすごくなついているのだろうか、照れている翔汰にすり寄る。
「でも私はそっちのモンスターの方が可愛くて良いなぁ・・・ ねぇ、良かったら私とモンスター交換しない?」
そんな明の提案にすぐ抗議したのは、ニャン吉だった。
「何を言っている我が相棒! 俺様がこの姿に進化したのは、他ならぬ相棒の心に眠る闘争心が反映されてのことだ、いわば俺様はプレイヤーであるお前の分身も同然! それを捨てる気か!?」
翔汰も断った。
「ニャン吉に賛成。 それに姿は変わっても、ガルフはガルフなんだ。 これからも僕の大事な相棒だよ。 それに、また進化すれば違う姿になるかもしれないし、見た目が気に入らないからって、モンスターを変えちゃうのはもったいないよ。 しかも言葉を話すモンスターはレア中のレアなんだよ?」
「え? ニャン吉ってレアなの?」
「ネットでも攻略本でも、人語を話せるようにモンスターを進化させるのは難しいって言われている。 ひょっとしたら伝説級モンスターになる素質があるかもしれない!」
「・・・でも私バトルに興味ないし、レジェンドとか強いモンスター目指してるワケじゃ無いし!」
かわいいモンスターを育てたかったのに、野獣のようなドラゴンに育ててしまった少女。
かっこいいモンスターを育てたかったのに、セクシーな半獣美少女を育ててしまった少年。
「「はぁ・・・」」
二人の小学生は、青空を見上げてため息をついた。
一方そのころ、二人がまだ知らないところで、異常な進化をしているモンスターがいた。
グチャ・・・グチャ・・・グチャ・・・
薄暗い廃墟の中で、大きな口が咀嚼音をたてる。
「嘘だろ・・・」
「俺たちのモンスターが・・・!」
街外れの廃工場で、あるモンスターが対戦相手のモンスターを捕食し、それはより大きく、強く、凶暴に成長する。 この魔獣の飼い主たるプレイヤーは、その暴食の化身と化した自分のモンスターを見上げた。
「すごいぞ! コイツさえいれば・・・もう誰も俺をバカにしないぞ!! くくくく・・・ はっはっはっはっ!!」
数日後。
「えーみなさん、近頃マジシャンズ・アンド・モンスターズのプレイヤーを狙う、悪質なプレイヤーが街に出没しているとのことです。 しばらくはゲームは学校内はもちろん、通学路や公園、外で遊ぶのも禁止にします!」
小学校のホームルームで担任の先生が生徒達に注意喚起すると、生徒達は「えー!」「何だよそれー!」と、ざわついた。 そのなかに、明と翔汰もいた。
「先生もプレイヤーなので、みなさんの不満は分かりますが、いま出没している悪質プレイヤーは不正バグを使用している疑いがあり、対戦相手のモンスターを食べるモンスターを使うそうです。 そして食べられたモンスターは二度と復活できないとのことです! みなさんが大事に育てているモンスターが失われるのは、先生にとっても悲しいことです。 みなさん、悪質プレイヤーが捕まるまで、M&Mで遊ぶのはガマンしてください!!」
「「えええええぇ!!?」」
教室は不満の空気に包まれた。
・・・学校が終わり、明と翔汰は駄菓子屋で買い食いをしていた。
「不正バグを使ったプレイヤーか・・・ ま、私には関係無いよね。バトルする気が無いし」
明がグミを食べながらつぶやいた。 それに対して翔汰の思うところは別にあるようだ。
「モンスターを食べるモンスター・・・ M&Mって昔から都市伝説が多いゲームだけど、今回のもそれっぽいんだよね。 特別な進化をして、立体映像じゃなくて実体をもってゲームから飛び出すモンスターとか、プレイヤーに催眠術をかけて意思を乗っ取るモンスターとか・・・」
「じゃあ、この事件もそうだって言うの? ・・・翔汰ってそういうオカルトとか好きだったっけ?」
「じっさい、僕らのモンスターも予想外な進化したでしょ? ひょっとしたら、都市伝説の元ネタになるくらい、バグとかエラーの集まりみたいなモンスターが生まれても、不思議じゃないかもって思うんだ・・・」
そのとき、中学生のグループが駄菓子屋の前を通りがかった。 その会話が聞こえて来たのだが・・・
「おい、マサのやつが俺らを呼び出したって?」
「そーなんだよ、ゲームでもリアルでもボコってやったのに、まだ自分の立場ってのを理解してねーんだよ・・・」
「今度は顔ボコってネットに晒してさ、完全に不登校にしてやろうぜ!」
そんな会話をしながら、そのガラの悪そうなグループは通り過ぎた。
「・・・明ちゃん、ひょっとしてあの中学生たちが犯人とか?」
「・・・いやいや、あからさまに悪者感出し過ぎでしょ」
二人は駄菓子を平らげ、ジュースを飲み干した。
「じゃ、また明日」
翔汰が先に駆け出した。
場所は変わって、人気の無い廃墟となった倉庫。
「おいマサ! 来てやったぞ!!」
「臭くてデブでキモいお前に、人権なんて無いって事がまだ分かってないんだな!」
「またボコってやるよ!」
例の駄菓子屋の前を通った中学生三人組が、大きく肩を揺らしながら入ってきた。 その先にマサと呼ばれた少年がいた。 彼らの関係は、同じ中学で同じクラス、典型的なイジメっ子三人とイジメられっ子一人という関係である。
「・・・これまでの俺と思うなよ!」
マサはゲームを起動させた。 周囲に立体映像が展開され、彼の姿は黒装束の魔導師に変身した。 しかし、それだけでは無い、イジメっ子3人の姿もそれぞれのプレイヤーの姿に変身した。
「え!? ゲームデバイスが勝手に起動した!?」
「ふん、どんな手品か知らねえが、どうせ出てくるのは例のクソザコモンスターだろ?」
マサの目が赤く光った。
「・・・バトルスタート! 俺の進化したモンスターを見せてやる! いでよ『オーバードーズ・キマイラ』!!」
黒煙をまとって現れたそれは、遠目で見れば翼の生えた獅子のようであった。 しかしその正体は見るもおぞましい合成獣の化け物で、さまざまなモンスターの顔が全身に浮き上がっていた。 まるで剥製の頭を無理矢理一つにくっつけたかのような姿だ。
ヴァア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!
その雄叫びの中には、さまざまな生物の悲鳴が混ざっているかのようであった。
「で・・・ デカいだけのモンスターに負けるかよ!!」
三人組の方もそれぞれ、しもべのモンスターを召喚した。 巨大なコウモリ、蜘蛛、コブラ、いずれも毒々しい色をしており、強力なモンスターではあるのだろう。 だが、マサの召喚したキマイラの前では、そのおぞましさとサイズは見劣りする。
「かかったな! 魔法発動、『凍結』『拘束』『閃光弾』!!」
マサは相手のモンスターにそれぞれ違う種類の魔法を打ち込んだ。いずれも短時間行動不能にする魔法を、それぞれ効果が通じやすい対象に、的確に発動した。
「「うっ!?」」
三人も間髪入れない魔法の余波で怯む。そこへマサはさらにたたみかけた。
「いくぜ、モンスタースキルカード!『プレデーション・オブ・ブラックホール』!!」
特定のモンスターを召喚しているプレイヤーのみが使用できる、いわばモンスターの特殊能力や必殺技を発動するカード。
マサが発動したそれは、しもべのオーバードーズ・キマイラの口を大きく開かせ、三体のモンスターを吸引するように捕食させた。
「おい・・・マジかよ・・・」
「ウワサのモンスターを喰うモンスターって・・・ まさか!?」
ゲフゥ・・・
呆然と立ち尽くす三人のまえで、多頭の巨獣がげっぷをする。
そしてさらに、その身体には三つの生物の顔が浮かび上がった。 コブラ、コウモリ、クモ・・・ 捕食されたモンスターの苦悶の顔がそこにあった。
「残念ながらプレイヤーを喰うことはまだ出来ないが・・・ 殴ることは出来る!」
「っヤバい! 『魔法障壁』!」
三人に巨獣の爪が迫る。三人のうち一人が素早く反応し、防御のカードを発動した。
パリィン!!!
しかし、それは飴細工のようにあっけなく砕け散り、三人の少年はあっけなく吹っ飛んだ。 ガッシャーンと音を立てて、彼らは倉庫の隅に積まれていた廃材の上に落ちる。
「いってぇ・・・ 何だよこれ・・・」
かすれるような声を出しながら、返り討ちにあったイジメッ子三人組は気絶した。
デバイスには「GAME OVER」の文字が表示され、立体映像で表現されたプレイヤーとしての姿は解けて、三人はもとの着崩した学生服姿にもどった。
「ククク・・・ そこに隠れているお前もエサになるか?」
扉の影から一人の小学生が現れた。 翔汰だ。
「なんで僕が隠れてるってわかったの?」
「ニオイだよ。 俺のモンスターが進化してから、嗅覚や視力が良くなり始めてさ・・・」
「あり得ない! さっきもそうだけど、実体がないゲームの立体映像のハズなのに、人を物理的に吹っ飛ばすなんて。 そのモンスターは何なの? バグや不正ツールじゃ説明がつかないよ!」
「俺も知らない。 モンスターが進化したらこうなった・・・ だが、この力さえあれば、俺はもう誰にも蔑まれる事は無い! 誰にもナメた口はきかせない! 俺のオーバードーズ・キマイラは最強だ!!」
マサの目が赤く発光した。 もはや彼もモンスターの一部と化しているようだ。
翔汰はゲームを起動した。立体映像が少年の姿を青いマントの魔法使いに変身させる。
「バトル・・・スタート!!」
翔汰は無謀に勝負を挑んだワケではない。 このゲームは最大10枚のカードを駆使して戦う。 今現在マサが使用したカードは『オーバードーズ・キマイラ』『凍結』『拘束』『閃光弾』そして必殺技級のレアカード『プレデーション・オブ・ブラックホール』・・・すでに5枚消費している。
「ほう・・・ 逃げずに挑んできたか」
バトル終了直前に翔汰が割り込んだとゲームシステムは判定し、敵は連戦をしている状態となった。 カード消費はリセットされておらず、もちろん強力なカードを複数枚搭載している可能性もあるが、それでもマサはあと最大5枚のカードしか使えない。 手数は翔汰のほうにアドバンテージがある。
「魔法発動、『ライトニング・ショック』!」
ます翔汰が放ったのは、相手プレイヤーとモンスター全体にダメージを与えるカードによる攻撃だ。 立体映像の雷撃が、倉庫の天井から降り注ぐ。
「召喚! 来い、僕の相棒『ガルフ』!」
「がおー!!」
翔汰の獣耳の美少女戦士が出現した。 プレイヤーとアイコンタクトを交わし、その意思をくみ取ってマサに直接攻撃をいどむ。
「なるほど、キマイラと戦わせれば喰われると警戒したか・・・だが!」
キマイラが初手の雷撃で怯んでいたのは、ほんの僅かだった。 翔汰の予想よりも復帰が早い。 無数の顔が蠢く巨体が壁になる。
「正面からソイツとやり合うつもりは無い!『分身の術』!!」
【ケモミミ・アマゾネス】を含む、武術が使えるモンスターを強化する魔法、その名の通り、実体のある分身が現れる。 その数はレベルが高ければ高いほど数が多くなる。
「10体に分身、やるな! だがしかし!! ・・・『呪文取り消し』!」
直前の魔法を打ち消す魔法、マサが残していた対策カードだ。
「やっぱ持ってるよね・・・ 僕もだけど!」
翔汰も同じカードを持っていた。 二つの魔法が空中で対消滅し、ふたたびガルフの分身が復活する。
「さて、まだ防御札は残っているか?『プレデーション・オブ・ブラックホール』!!」
「二枚目の必殺技カード!? そんな!?」
オーバードーズ・キマイラの顎が外れるくらいに大きく開いた。 本体を含む10体の分身をも丸ごと飲み込む気だ。
翔汰のデッキはモンスターに前衛、自分が後衛で連続攻撃を仕掛ける、速攻&猛攻がコンセプトの構築だ。 防戦や反撃のためのカードは『呪文取り消し』1枚しか無い。
「っさせない!『ブラズマブレード』!」
翔汰の手に燃えるような光の剣が出現した。 そしてそのままキマイラに斬りかかる。 プレイヤーが戦闘に参加する武装カードだ。
グァアアアアアアアアア!!
モンスターの必殺技は、そのモンスターにタイミング良く攻撃をクリティカルヒットすれば、中断できる場合がある。 そして翔汰はそれに成功した。
「くそっ! キマイラ、なぎ払え!!」
本来なら立体映像の巨獣が放つ拳は、プレイヤーのライフを数値上削ることはあっても、本当の肉体にダメージは無い。 だが男子小学生の小さな身体に現実の衝撃が襲いかかる。
「っ!?」
打ちのめされた翔汰はコンクリートの床の上に転がった。青いマントがボロボロになり、粒子状に分解され消失する。
「『守護のマント』か・・・ ゲームスタートのときからダメージ軽減のマントを装備していたのか、なかなかしたたかなヤツだ。」
「ぅ・・・」
もはや拡張現実のゲームではない。 まだゲームのライフはゼロになっていないが、生身の肉体が受けた痛みはまるで鞭で強く叩かれたかのようだ、幼い子供には立ち上がるのもままならないほどである。
相棒のガルフが駆け寄り、翔汰をかばう。 分身のカードの効果は切れつつあった。
「・・・これでゲームオーバーだ」
カードを使うまでも無い。 そう判断したマサは、オーバードーズ・キマイラを差し向ける。
翔汰の意識はまだある。だが手が思うように動かない。 泣いてもどうにもならないのに、痛みで勝手に涙が目からあふれそうになる。 自分は無謀だったと思わされる。 悪質なプレイヤーが許せないという正義感のために、こんな痛い思いをするなんて・・・
「バトルスタート!!」
「!?」
「『龍の息吹』発っ動!!」
ドッカアアアアアアアアアアン!!
突如、さらなるプレイヤーがこのゲームに乱入した。 彼女が発動したカードにより、キマイラは炎に包まれ火花が散った。
「明・・・ちゃん?」
翔汰の目の前には、幼なじみの変身した姿が立っていた。 立体映像が彼女の身体に重ねて映し出したその姿は、パステルカラーの赤を基調とした、日曜の朝のアニメに登場しそうな変身ヒロインっぽいドレス姿だった。
「心配になってついて来ちゃった・・・」
「小僧、その蛮勇。 俺様は嫌いじゃないぞ」
その横には、ビースト・ドラゴンが雄々しく空中でポーズを取っていた。
「強そうなドラゴンだな。そいつもキマイラのエサにしてやるぜ」
マサは新たな敵を認識すると、キマイラに顎で標的を変更するよう指示した。 炎を振り払った巨獣の目が、少女に向く。
「変な感じ・・・ 私いままでバトル興味ないって思ってたのに、今は・・・ ワクワクしてる!」
明の瞳が燃えるように輝いた。 その口元には不敵な笑みが浮かんでいた。
「なんと醜悪な化け物・・・ 俺様の初陣にはちょっと派手すぎる相手かな?」
ニャン吉も余裕を見せる。
「『プラズマブレード』!ついでに『光波の盾』!」
光の剣と盾を装備した魔法少女は、オーバードーズ・キマイラに突撃した。
「ふん、考え無しにかかってきたところで!」
パワーの差は見た限りでは歴然かもしれない、だが・・・
「もういっちょ!『龍の息吹』!!」
ニャン吉が再び炎を吹いてキマイラを牽制する。 先ほどは不意打ちで全力の一撃をかましたが、今回は細かく火球を連打した。 相手の動きがにぶる。
「その傷を・・・ ほじくり返す!」
振り回されたキマイラの爪を盾で防ぎながら一気に近づき、明はプラズマソードを叩き込んだ。 狙ったのは、さっき翔汰が付けた傷だ。
ヴアアアアアアアアアア!!!
ゲームのモンスターはダメージ表現に、流血のエフェクトは無い。 代わりにその傷からは、ドス黒い闇のエネルギーが粒子状に吹き出した。 いわゆるこれがこのゲームのダメージ表現の一つである。
「くそっ! くそっお!! やりやがったな・・・『プラズマブレード』!!」
マサが逆上し、光の剣を抜いた。 色違いのレア版のようで、紫に発光している。
「ガルフ! あいつを足止めしろ!『幻獣象拳-一角獣』発動ッ!!」
すり傷だらけの身体を起こし、再び立ち上がっていた翔汰は、必殺技カードを発動した。 ガルフの背後にユニコーンの霊気が出現し超高速で敵に突進する。 そしてドリルのように回転の加わった拳を叩き込んだ。
正面からやり合うには回避されやすい直線的な技だが、不意を突かれたマサには剣で防御に回るしかなかった。
「・・・なっ!?お前!」
「いつまでも倒れていると思ったら大間違いだ! 明ちゃん、今だ!!」
「必殺!『クロスファイヤー』!!」
明がカードを切った。その手のプラズマソードの刀身が赤く輝き、ニャン吉の手の爪も燃えるように光った。 プレイヤーとモンスターの同時攻撃による必殺奥義だ。 ・・・しかし。
「悪あがきをするなぁ! 『死者の詠唱』発動! このカードは、必殺技級以外の使用済みの魔法を再び発動できる。 俺が使うのはもちろん『呪文取り消し』!」
マサの発動したカードは、明の切り札を打ち消してしまった。
「ちなみに、俺はゲーム開始時からスキルカード『ステータス・オープン』を使用している。 これにより相手のモンスターのスペックから、プレイヤーのデッキの枚数も把握できる。 ・・・アキラとか言ったな? もうお前、カード無いだろ?」
ゲーム初心者で戦うカードをまともに集めていなかった明には、もう手持ちが無かったのだ。 しかし、そこへ翔汰が声をかけた。
「それを聞いて安心したよ・・・ きみもカード無いでしょ?」
このゲームでは、持ち札の枚数制限は10枚。
『オーバードーズ・キマイラ』『凍結』『拘束』『閃光弾』『プレデーション・オブ・ブラックホール』2枚、『呪文取り消し』『プラズマブレード』『死者の詠唱』そして『ステータス・オープン』
・・・連戦でマサはカードを使い切っていた。
「ククク・・・ 強がるなよ。手負いでもモンスターのステータスはこっちの方が上なんだよ。 しかも、お前もデッキは10枚フルじゃない。 残り1枚で俺もキマイラも倒せるカードが残っているのか?」
翔汰はデバイスに指をあてた。
「正直ギャンブル得意じゃないけど・・・ 『エヴォリューション・フォース』!!」
「ほう・・・ バトルの間モンスターのスペックを底上げするカードか。 だがそのケモミミでは基礎ステータスが足りん! 残念だがキマイラの戦闘力には、わずかに及ばない」
「誰が僕のモンスターを対象にすると言った?」
「何!?」
明のドラゴンがその姿を変えた。 より大きく、力強いフォルムに肉体が変化し、純白だった体毛には、炎を思わせる模様が浮かび上がった。 種族名は【ビースト・ドラゴン】から【フレイム・ビースト・ドラゴン】に変更された。
「他人のモンスターをパワーアップさせただと!?」
マサは狼狽えた。
「友達いなさそうなキミには思いつかないだろ? 明ちゃん! 使えるカードは増えてない!?」
「ホントだ・・・増えてる!」
「やっぱり・・・ ドラゴンは優遇されてる種族だよね」
「ここで決めるわニャン吉!」
「おうよ我が相棒!」
「超必殺!『煉獄の十字星』発動ぉ!!」
明とニャン吉の両手に魔法の光が燃える爪が出現した。
「「はぁぁぁぁ・・・ 食らえええええ!!!」」
振り下ろされた二人の爪がオーバードーズ・キマイラに炸裂する。いかに強力なモンスターといえど、連戦に蓄積されたダメージに追い打ちとなり、醜悪な化け物は爆発四散した。
ドッカアアアアアアアアアアアアン!!
「うああああああああああああああ!!」
それと同時に、マサの目から不気味な光が消え、糸が切れた操り人形のように倒れてしまった。 腕に装着されたデバイスには「GAME OVER」が表示されていた。
明たちの勝利だった。
・・・あれから一週間後。
「一件落着っていうのかな?」
明はフライドポテトをかじった。
場所はさびれたショッピングモールのフードコート。 他の同級生は、もっと大きな別のモールに遊びに行くため、こっそりデートするには穴場なのだ。 もっとも、幼なじみの明と翔汰には、そういう意識はまだないが・・・
「結局、あの『オーバードーズ・キマイラ』もゲームの仕様で生まれたのか、バグなのか分からず、あのマサって中学生も、あれから眠ったままらしいし、このゲームは謎が多い」
「どーでもいいよ、それより困ったのがさぁ・・・」
明はバッグから何枚もの手紙を取り出した。すべて『果たし状』の文字が書かれている。
「良いじゃん、バトルすれば? 明ちゃんもニャン吉も強いし、『エヴォリューション・フォース』も祝杯にプレゼントするよ?」
翔汰はメロンソーダに口を付ける。
「そうだぞ我が相棒。再び闘争本能をたぎらせるのだ!!」
ニャン吉がデバイスの中から吠える。
「ニャン吉・・・ バトルは今どうでも良いから、あのキマイラみたいに実体化できない? ・・・その毛をモフモフさせてほしい」
かわいいモンスターを育てたかったのに、野獣のようなドラゴンに育ててしまった少女。
彼女の前には果てなき戦いの運命が伸びているのだが、それを再び歩み出すのは、もうちょっと後の話である。
遊○王とか仮○ライダー龍○とか、好きなもののオマージュ詰め込みました。
ノリと勢いで書いたので、ゲームのルールの穴とか、そもそもク○ゲーじゃないのかってのは重々承知してます。
生暖かい目で読んでいただければ幸いです。
感想、高評価☆☆☆☆☆、たいへん励みになりますので、気に入っていただければ、どうかよろしくお願いします。
コンテストに応募する際の「相棒」というテーマでしたが、明×ニャン吉で書き進める予定が、明×翔汰のほうがバディ感出ちゃいました。 プラン通りに書くって難しいですね。