8:ボーイズラブ『発熱の予兆』
関節痛。
これはきっと発熱の予兆。
「予兆じゃなくて、もう立派に発熱してんじゃん。ほれ、38.6。体温計くらい家に置いとけよな。これ葛根湯、エネルギーの飲むゼリーだろ、それと経口補水液、熱冷ましのデコに貼るやつ、それから……」
ひやりと冷たい友人の手が、俺の服の中から体温計を連れて出ていった。
瞬間、俺の胸の先をかすめ、ぞくぞくとした悪寒が全身に走る。
その手は、今度はビニールの袋から次々に物を取り出していく。
自力ではもう買い物に行ける気がしなくて、尽きそうだったトイレットペーパーの購入を友人に頼んだ。熱が出そうとは言ったが、他には何も頼んでいない。至れり尽くせりな差し入れに感謝しつつ、申し訳無さが募る。
「わりぃな」
「別に、俺が勝手に買ってきただけだし」
薬を飲むために、友人から受け取ったゼリー飲料を幾らか口に含んだ。
ちうちう、ちうちう。
ジュルルンと男らしく一気飲みしたいところだが、そんな体力と気力は無かった。
女子高生みたいなのんびりさで半分飲み、ギブアップ。
「もう要らねぇの? まだ残ってんじゃん」
俺が置いたゼリー飲料をもみもみぶらぶらとさせながら、友人が残量チェックをしている。
と、友人が吸口をくわえ、残りをジュルルンと男らしく一気飲みした。
間接チュー。
心臓がドクドクと音を立てる。
これはきっと初恋の予兆。
(予兆じゃなくて、もう立派に恋してるけど)
薬を飲み、ひやりと冷たい友人の手に頬を寄せ、俺は温かな気持ちで眠りについた。
インフルエンザA、R5.2.9下から2、R5.2.10一番下。(ただのメモ書き)