12:下ネタ有りのボーイズラブ?『最近長編が書けないという俺の友人』
小説をネット上に投稿するのが趣味だという俺の友人は今、大絶賛スランプ中なのだという。
「最近は全然長編が書けないんだよね」
「へー」
「ここのところ短編ばかり書いていたせいか、1万字を超えるのもやっとで」
「へー」
1万字、四百字詰め原稿用紙に換算して……何枚だっけか。金色でも銀色でもない、標準カラーの俺の脳みそでは、5桁割る3桁の計算がなかなかに厳しい。へーへーへー、俺ら世代でこのネタが分かる奴は希少種かもしれない。
「はぁ……どうしよう、まるで筆が乗らない」
友人はまだぼやいている。
「仕事じゃあるまいし、いっそのこと、筆を下ろせば?」
「筆を……下ろす……?」
俺は活字を読むのが苦手だ。
教科書や、テスト、板書の文字でも眠くなる。
これまでに幾度も課せられた夏休みの読書感想文では、映像化済みの作品を選ぶよう心掛け、視聴済みの映画やドラマを思い出し、90%の粗筋と10%の薄っぺらい感想でどうにかマス目を埋め、真面目に宿題を提出してきた。
こいつの趣味は正直俺には理解できない。
一体何が楽しくて、強制された訳でもないのに読書感想文の数倍の文字をわざわざ書くのか。また、読むのか。
「筆を……下ろす……筆を……」
友人が先程からぶつぶつと呟いている。
小説家のように、書くことをやめられない人種なのかもしれない。
だったら……。
「趣向を変えてみるとか。BL物でも書いてみれば? 腐女子に人気らしいぜ」
「BL、それすなわち、ボーイズラブ……筆を下ろすボーイズラブ……筆を……筆……なぁ、俺が筆を下ろすの、手伝ってくれる?」
何か活路が見えたのだろうか、友人がやや上目遣いに、期待に満ちた目で俺を見つめてくる。
「おー、まかせとけ」
趣味に共感も理解も無いが、まぁ友人だからな。協力くらいはしてやるさ。
「マジで? ホントにいいの?」
友人は目をキラキラと輝かせ、俺の手を両手で握ってきた。とても嬉しそうだ。
「おー、まかせろ。で、俺は何すりゃいいの?」
「? いや、だから俺の……お前、筆を下ろすって、意味知ってる?」
「いや? 知らねぇー」
肩を落とし盛大に溜息をつき、眉を八の字に下げ唇を尖らせた友人の、しょげて不貞腐れた様子に俺まで溜息が出そうだ。
こいつは断然笑顔の方が可愛いのに。
まぁ、尖った唇はアリだけれど。




