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9.公爵家に仕える親子

「彼女は優秀だから、安心して世話になるといい」

「はい……」


 今日の飴を作り終え、エレノアは作ったそれらを販売用に包んでいた。


 店頭には、先程のエマが売り子として立っている。


 初めてとは思えない客さばきと丁寧な接客に、エレノアは先程から驚かされていた。


「確かに優秀な方ですね」


 彼女の仕事ぶりに納得しながらも、何でそんな優秀な人が……とエレノアは内心疑問に思っていた。


(私に微笑むザーク様も、先程までは驚きつつ、エマさんと何やら言い合っていた)


 エレノアは先程、聞こえはしなかったが二人が言い合っていたことを思い浮かべた。


『エレノアには俺が付いているから大丈夫だ』

『イザーク様には騎士団のお仕事もありますし、何より着替えのお手伝いもあなたがなさるのですか?』

『……!!』


 何やら言い合ったあと、イザークは少しムスッとしていたが、こうしてすぐにエレノアに笑顔を向けてくれている。


(優秀なメイドさんを私に割くなんて勿体なすぎる。というか、騎士団長であるザーク様にこうして私の飴作りに付き合わせているのも申し訳ない……)


 イザークは、貴族で偉い立場だというのに、まったくそれを感じさせない人だ。


 エレノアが教会にいた頃は、貴族令嬢の聖女や神官たちは偉そうにふんぞり返っていた。それが当たり前だと思っていた。エレノアが搾取されていたことに気付いたのは、追放される直前のことだった。


(だからかな、貴族とか偉い人とか、すごく身構えてしまう)


 しかし、イザークは、エレノアにいつも温かい眼差しを向けてくれ、身分など関係なく接してくれる。


 そんなイザークに、エレノアはほんのりと温かい気持ちになっていた。


 優しいイザークは、この結婚を「責任を取る!」と言い出しかねない。彼を見ていたら、そんな気がする、とエレノアは思った。


(だから、彼の幸せのために、自らがちゃんと引き際を見極めなくては。私の目的は、二度と教会に戻ることなく、平和に暮らすこと。ザーク様たちの目的は教会を糾弾すること。うん!)


 改めてエレノアは今回交わされた結婚の目的について心の中で確認をした。


「お疲れ様でした」


 まだ日も明るい夕方前に、エマの捌きによって果実飴が完売した。数はいつも通り用意したのに、彼女は有能すぎる。


「では、カーメレン公爵家に帰りましょうか」


 片付けを終えたエレノアは、エマの呼びかけで帰宅の準備をする。


「通いで来るとはいえ、エレノアがここから出ていくのは寂しいねえ」


 女将に挨拶をすると、心からそう言ってくれて、エレノアもじんわりしてしまった。


 それから、馬車では目立ってしまうのため、イザークとエマに挟まれ、エレノアは徒歩で帰宅した。


 相変わらず大きいカーメレン公爵家のタウンハウスの横には、よく見れば別邸がドドンと建っている。本邸よりは小さいものの、充分に大きい。


「あれが私たちの住まいだ」

「え?! 離れって言ってませんでした?!」

「あれが離れだ」

「まじですか……」


 まさか、別邸だと思った立派なお屋敷が離れだとは思わなかったエレノアは、イザークの説明に口をあんぐりとさせた。


 なお、離れの入口にも、カーメレン公爵家の私兵が立っており、セキュリティは万全。


「お帰りなさいませ」


 離れに入ると、昨日出会った上品な執事が出迎えた。


「ジョージ、どうして」


 驚くイザークに、ジョージはにこりと笑って答えた。


「私もこちらでお世話させていただくことになりました。よろしくお願いいたします」


 白髪混じりの黒い頭を下げ、ジョージはイザークとエレノアににこやかに微笑んだ。


「……も?」


 ふと疑問に思ったエレノアが、エマに首を傾げれば、彼女は口元をほころばせて言った。


「私の父です」 

「ええ?!」


 エマは片手を上げてエレノアにジョージを紹介してみせた。エレノアは驚いて声をあげたが、イザークは複雑そうな顔でジョージを見下ろしていた。


(ザーク様はもちろんご存知だろうから、驚いている理由は私と違うわよね?)


 間が空いてしまい、エレノアが二人の表情を交互に見比べていると、イザークが頭に手をやり言葉を出す。


「オーガストの指示か?」

「はい。オーガスト様は兄君であるイザーク様が離れとはいえ、戻って来られて嬉しいのですよ」

「……よろしく頼む」

「離れの使用人は極力少なくしつつ、警備はしっかりしておりますのでご安心ください」

「……ありがとう」


 複雑そうなイザークの表情を読み取り、求められる答えを弾き出すジョージに、イザークは敵わない、といった表情でお礼を述べた。


 イザークの何とも言えない空気に、エレノアも何だか居心地の悪さを覚えた。二人のやり取りを所在無さげに聞いていると、ジョージがすぐにこちらに気付いた。


「奥様、こんな玄関先で申し訳ございません、さあエマがお部屋までご案内します」

「おく、さま」


 聞き慣れない単語に、自分を指した言葉だと理解するのに、エレノアは一呼吸置いた。


 隣のイザークは何故か顔を手で覆っている。


 どうしたんだろう、と思いつつも、エレノアはジョージにきっぱりと告げる。


「あの、その奥様というのはやめていただけますか? エレノアとお呼びください」

「……かしこまりました、エレノア様」


 エレノアのお願いに、ジョージは直ぐ様頷いて訂正をしてくれた。


(良かった。良い人そうだし、少しの間とはいえ上手くやっていけそう)


 「様」付にまだ慣れないものの、「奥様」よりはマシだと思案していたエレノアがふと横をみると、何故か悲しそうな顔をしたイザークがいた。


 イザークの先程からの不可解な行動に、エレノアが首を傾げていると、エマの手がそっと背中を家の中へと促した。


「エレノア様は気になさらなくて大丈夫ですよ」

「そうですか……」


 そのまま部屋へと連れて行かれたエレノアがイザークを振り返ると、彼は俯いたままだった。



 

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