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浮気調査をしただけなのに

作者: 猫田33

 故郷とは異なる濃い白灰の霧がなぜ今日に限って薄いのかと恨めしく思う。霧さえあれば女と宿に入る夫を見ることなんてなかったはずだった。美しいといつも思っていた夫の炎のように長い赤い髪が遠目からでもよく見える。顔は、見えなかったがずっと見ていた背中を見間違えるわけがない。


「ルベウス」


 ベレニケが夫の名前を呼んでも振り返ってくれたことはない。思い返してみれば声に出して呼んだことがなかった気もするが、血筋だけが良いベレニケを買った夫が戻ってくれるなんて思っていなかった。


「追われますか?」


 隣に立つ紳士は、浮気の調査員で夫の浮気を調べてくれていた。夫と違い華やかな容貌ではないが、見るものを安心させるそんな人物で初めての依頼で緊張していた時にお願いしようと決意させる何かがあった。実際に最初の印象のまま余計な話をせず一定の距離を保ちしっかり仕事をしてくれている。


「いいえ、屋敷に戻ります。いままでありがとうございました」

「また何かありましたらご連絡ください。貴女の依頼は、一番に請けますので」

「お上手ね」


 調査員は、一人で問題ないと言っても物騒な街だからと微笑みベレニケを表通りで馬車に乗せてくれた。そして馬車に乗りやっと一人になれたと耐えていた涙が堰を切ったようにあふれてくる。伯爵夫人になったあの日から弱音を吐かないで強く生きると決めた。

 ベレニケは、建国時から続く子爵家の長女だった。跡継ぎになるべき男児がおらずベレニケが婿養子をもらい継ぐことが生まれたときから決まっていた。だからベレニケは、家を守るために政治や経済を学びながら社交界にも顔をだしていた。だが女ながら政治や経済の話をすることや借金はないものの裕福ではないことが祟り、婿養子に来てくれるような男性が現れなかった。

 ベレニケの年齢が行き遅れになっても現れず、現子爵の父が事業に失敗し借金を負った時にオリオン伯爵家から融資と結婚の話が舞い込んだ。どうしようもなくなった子爵家は、ベレニケを嫁に出し妹に継がせることにした。妹には、婚約者がおりベレニケの結婚を待っていたので喜んで婿にくることになった。

 子爵家が今後も続くと喜んだ両親を見て、ベレニケさえいなくなれば全てうまくいくのだなと一人で泣いた。


「そろそろ落ち着かないと」


 窓の外の景色は、貴族街に入っておりもう少しすれば屋敷についてしまうだろう。結婚して三年が経ち屋敷での生活に慣れてきたが、浮気を許容出来るほど夫に無関心でいられなかった。朝は必ず一緒に食べるようにと初めて一緒に食べた朝食で言われずっと続けている。他にも夜は、待たなくてもいいが朝は見送りをするようになど夫婦らしい生活を多少は望んでいるのだと思っていた。

 馬車が止まり屋敷についたのだとわかり一人馬車を降りる。ベレニケが馬車を降りたところで門兵が慌てて門を開けたので仕事の邪魔をして申し訳ないと謝った。


「邪魔などではありません。奥様に大事があれば旦那様がご立腹になりますのでどうか中にお入りください」


 血筋しか誇れない伯爵夫人のためにルベウスが怒るだろうかと、考えていたがその血筋を継ぐ子どもがまだ生まれていないので怒るかもなと苦笑するしかない。結婚したにも関わらず仕事でほとんど家を空けることが多いのに出来るわけがなかった。


「奥様、外出する際はお呼びくださいといったではありませんか。何かあった後では困ります」

「ごめんなさい、もうしないわ」


 専属侍女が怒った顔で出迎えるのは、他の家ではありえないことを知っているがあけすけなこの侍女の性格を気に入っていた。何より気が利いてベレニケが欲しいと思った時にさりげなく出してくる心遣いが良い。


「もう外出しないから着替えを手伝ってくれないかしら」

「では晩餐でも悪目立ちしないゆるいものにいたしましょう」

「そうして頂戴」


 準備された服は、水色のフリルブラウスに青いリボンを巻いたものと同じ色合いの青いスカートだった。コルセットはしない代わりにスカートは、大ぶりのリボンが巻かれ腰で蝶々結びにされる可愛らしいデザインだ。


「奥様は、明るい茶髪にオリーブ色の瞳なので水色がよくお似合いですね。赤も捨てがたいのですが季節的に今の季節に合いませんから」

「私に赤は、似合わないわ」


 ベレニケの容姿は、とびきり美人ではないが平凡より上程度の地味な容貌だ。妹も同じ色合いなのだが春を思わせる華やかな笑顔で可愛らしく女性らしいので美人に見られることが多かった。美人に見られるぶん大変な目にあうこともあったが、それでも羨ましく思ってしまうことが多い。好きな人とその子どもと暮らせている妹は、益々美しく幸福そうで姉妹なのにと陰鬱な気分になる。


「そんなことございません。旦那様の隣に奥様が並ばれるたびにお似合いだと思うのですから間違いありませんわ」

「そうかしら」

「はい」


 専属侍女になるためには、主人へのおべっかが上手でなければならないらしい。でもお似合いと言われれば悪い気がしない。でも本当に似合いの二人ならルベウスが浮気することなんてないと思う。


「髪も少し楽ですが華やかに見えるように結い上げますね。旦那様が見惚れること間違いなしです」

「見惚れるなんていいすぎよ」


 今日は、もう夕飯を食べないで寝てしまいたいと思ったがしっかり食べられる時に食べなければと思ってしまう。それに伯爵家のご飯はとても美味しいので食べ逃すことをしたくない。


「ルベウスの帰りは遅い予定でしたね」

「それなのですが予定が早く終わったので夕食の時間には間に合うそうです。お伝えするのが遅くなり申し訳ございません」


 一人で食べてゆっくりするならばもっと楽な恰好でよいはずなのに人に会えるくらいには飾り立てていた理由が、ベレニケにはわからず誰か来る予定だったかなと思い出していたくらいだった。だがそれよりも思った以上に早い再開にどんな顔をすればよいのかわからなかった。




 そろそろ到着予定だと言われ食堂で待っていると、勢いよく扉を開けてルベウスが入ってきた。伯爵に相応しい風格のルベウスがした乱暴な動作に目を瞠ると、視線が合い悪いことをしていないのにベレニケの背筋が凍る。


「食事を下げて軽食を準備してくれ。私と彼女の分もだ」


 執事に伝えるや否や力強くベレニケの腕を掴み立たせると、足裏に手を回しお姫様抱っこでどこかに運ぼうする。


「っ離して!」


 羞恥心で叫ぶとルベウスの瞳が傷ついたように灰色の瞳が揺れる。だがすぐに仄暗い色に染まり、ベレニケを抱く腕に力が入った。夫の腕の中にいられるのは、こんな状況でなければやはりうれしく煙草と香水が混ざったスパイシーな香りに胸がいっぱいになる。

 ベレニケは、どこに連れていかれるのだろうかと思ったが丁寧に夫婦のベッドへ降ろされた。


「それで一緒にいた男とはいつからだ? いや俺と結婚した後も怪しかったな。部屋から声が聞こえていた」

「いったいなんのことかしら」


 誰のことを言っているのかわからない。まさか浮気調査官のことなのかと考えているとベッドの軋む音と鼻先に吐息がかかり獲物を前にした獣のようだった。


「わからないとでも思ったのか。茶髪で眼鏡をかけた男と歩いていただろう」

「やっぱりアレスさんのことなのね。それよりも貴方、私に言わなくてはいけないことがあるではなくて」

「離婚はしない」

「あのブロンドの女性と子どもが出来たら周りに説明しにくいから離婚するなら今が一番いいと思うのだけれど」

「ブロンド……レリスか。いったいどこで見たんだ」


 剣呑だった雰囲気が霧散し、呆然とした様子で聞かれればベレニケも毒気が抜かれた。ルベウスは、役者ではないものの若くして伯爵家の当主になったのだから感情を表情に出すことがほとんどない。喜怒哀楽を表情にだすがそれも相手からの信頼を勝ち得るための手段にすぎない。ベレニケとて一定の距離を保ちつつ親し気に話すということをするのだから。


「宿に入るのを見ましたわ。緑の旗にバーベナの花がある宿でしたわね」


 緑にバーベナの旗を掲げる宿は、娼婦か連れ込みを前提とした宿であるのは年頃を過ぎたものならば大抵知っている。そして階級が上の高級宿になるとあからさまな表現をせず緑の旗にバーベナの花を飾りとして置くのだった。


「お見かけしたのが昼前でしたのでだいぶ楽しまれたようですね」


 ベレニケも嫌見たらしい言い方をしているとわかっている。だが妻として淑女として厚く被った仮面が剥がしても、大事に隠していた心をむき出しにしてでも一泡吹かせたい。結婚してから鳴りを潜めていたベレニケの頑固者の性質が顔を覗かせていた。


「何を言っているんだ。彼女には、とある依頼をしていただけだ」

「仕事仲間とは、仰られないのですね。私事であのような場所に行かれるならやることは一つでしょう? 私がなんとも思っていないと思っていたら大間違いです」


 外から帰ってそのままの恰好だったので、無防備なルベウスの首元を彩るクラヴァットを掴み睨みつけた。女性の力でも少し息が苦しくなるようで生理的な涙が灰色の瞳を濡らした。


「けほっ、君こそ俺のことを契約上の相手としか思っていないのだろう」

「私の血筋が欲しいだけの男に心と誇りは渡せない。契約上の関係としたのはあなたでしょう?」


 誇りなんて嫁に行くと決まった時に捨ててしまったし、心は初めて会った時に奪われているが意思表示しなければ伝わらないのが世の常だ。だからベレニケの最期の意地でルベウスを愛しているなんて絶対に教えない。


「氷姫は、結婚しても変わらないようだな。誇り高く美しく不用意に近づくものを容赦ない言葉と笑みで氷らせる。そんな貴女を妻に望んだ男たちが何人もいたが、俺は」


 ルベウスの言葉がまるでベレニケ自身を望んでいるような内容だと聞いていたが、突然黙り込んでしまい最期まで言いなさいと手に力が入る。もう少し言葉を重ねてくれたなら素直になってこの気持ちを伝えられるのにと我儘な想いが顔を覗かせた。


「誰が望もうと私の夫は、ルベウスです。それ以上のことを望むならもっと言うこととやることがあると思いませんか」


 ベレニケの言葉の意味を考えるようにルベウスが目を瞬かせる。火のような赤い髪が、ほつれてルベウスの顔にかかるのではらっておくとその手に頬を寄せられた。


「君は、俺を恨んでいないのか。努力家の君ならば多少時間がかかっても家を立て直すことが出来ただろう。それなのに俺がしゃしゃり出て結婚して恨まれてもしょうがないと思う」

「結婚しても事業をさせていただき実家が立ち直れるくらいの持参金や伝手を準備してくれたのを知っています。ここまでわかっていて嫌いになんてなりませんね。それともだいぶロマンチストだったのですか」

「そうかもな。お互いに思い思われ結婚したいと君を見て思ったんだ。君は、君自身が思っているよりもとても優しいから。泣かせてごめん」


 ルベウスの手が目元にかかり自分が泣いているとベレニケは理解した。思ったよりもがさがさする指先が目元を擦るのをただ見ていた。


「ずっと心の中で泣いていたのを知っていたのに情けないな。どうやって泣き止ませればいいかわからない」


 ベレニケは、何かを話そうと口を開いたが出てきたのは嗚咽ばかりでルベウスのクラヴァットを掴んでいた手を離し顔を覆った。暗くなる視界にやすらぎを求めようとしたが、それ以上に胸の内にある熱の勢いの方が大きい。

 ルベウスが身じろぎする音が耳に届き、指の隙間から覗き込むと灰色の瞳が思ったより近く。おでこに口づけをされ涙が思わず止まった。


「泣き止んだ?」

「どうして」


 ベレニケが問いかけると何も言わず鼻先にも口づけを落とす。先ほどまで感じていたのとは、異なる熱が口づけされたところに広がった。それは先の熱が沸かしたばかりの熱湯ならば今感じている熱はずっと入っていたい心地よい温度だ。


「わかるだろうと言いたいが、君は知らないだろうな。俺は、君を愛しているよ。浮気なんてとんでもない」

「嘘、でも女と」

「彼女は、君の浮気調査のために雇った調査員だ。三カ月前から様子がおかしいと思って調査させていた」

「私も三カ月前から浮気調査をアレスさんにしてもらっていたんです。今日は、浮気の証拠写真と実際の現場確認の日でした」


 お互いの主張と時期の符合に違和感を感じたのは、間違いなく見つめ合った視線には迷いがなく通じ合ったかのように頷いている。明らかにベレニケとルベウスを仲たがいさせようとした何者かに仕掛けられたに違いなかった。


「私は、貴方に浮気相手がいるだろうと思って遠回しに専属侍女に聞いて紹介してもらったのがアレスさんでした」

「俺の場合は、仕事先で君が別の男と歩いていたと聞いて気になったんだ。従弟か義弟かとも思ったけれどどうも違うみたいだったから。しっかり調べて違ったらいいと思っていたんだ」

「いままでの言葉が足りない環境のせいでもありますが、夫以外の男性を受け入れるような女に見られていたなんて心外ですわ。確かに仕事や旧友に男性もおりますが、こんなに近くにいることを許したのは一人だけなのに」


 アレスとの仲を懸念されたようだが、室内にいたときは一定の距離を保ちつつ扉を開けていた。他の商談でも女性の助手をつけて一人でいないようにしている。そして女性の助手は、大抵短くて三カ月もしくは半年で寿退社していくので教育が大変だった。それでも一人でいて不貞を疑われるくらいならと苦労をしてきたのに、今回の犯人は二人まとめて仲違いさせようとしたらしい。どのような報復がよいかとまだ犯人も見つかっていないのに、ベレニケは煮えたぎる怒りで突き進もうとしていた。


「とりあえずどけてくださらない? 私たちを貶めようとした方へお礼をしなくてはなりませんもの。しっかり調べて全て返さなければ」

「そうだね、君が誰の妻なのかを周りに周知しなければ。でもそのまえにもっとお互いを知るべきじゃないかな。こうして一緒のベッドにいるのだからな」


 ぱらぱらとルビーのような深い赤の髪が、垂れ幕のように下がり輝いている。手で触れば宝石のように硬いのだろうかと手を伸ばせば、ベレニケの髪とは違い少し硬いが触り心地が良かった。


「ベレニケ……?」


 ベレニケは、ルベウスの戸惑いを含んだ声音に思わず体を強張らせた。どんな表情をしているのか見るのがこわいなと視線を合わせられずにいると耳に口づけられる。


「それは肯定ってことかな」


 思ったよりもか細い声で答えを言えば満足げな表情を浮かべたルベウスがいた。




 その後、初めて共同作業となった犯人探しは一カ月で片付いてしまった。些細な方向性の違いで仲たがいしていたので開示していなかった秘密を公開したことにより思わぬ効果を発揮し最短とも言える速さでかたが付いた。


「今回はありがとう。報酬のナッツクッキーと紅茶」


 ベレニケは、黒髪のエキゾチックな見た目の少女にお菓子とお茶を差し出した。少女は、人を寄せ付けないような無表情だったのに好物なのか笑みを浮かべた後に大事に抱え込みどこかにしまいこんだ。


「ベレニケ、対価は受け取った」


 少女が発した言葉が合図だったのか一枚の契約書が現れ炭も残さず白い火に包まれ消えた。ベレニケの隣に座ったルベウスは、呆然とした目で白い火を見ていた。


「珍しい魔術ではないはずですが」

「白火の契約は、今では失われた魔術ですよ。メイ」

「悪魔族では、成就した契約を残したくない時が多いからいまだに使っているんだけどね。この大陸の人間が悪魔と懇意だと知られると異端審問にかけられるから気にしているの」


 メイと呼ばれた少女は、出されたお茶を飲み一息つくことにしたようだ。その間にルベウスも落ち着いたようでゆっくり息を吐き出していた。


「本当に人間に友好的な悪魔なんだな。もっと対価を要求されると思っていた」

「君たちの結婚祝いを兼ねているからそんな対価なんです。それに美味しいナッツクッキーが食べれないのは困るんですよ。それに私の資質では守れないのでそこは夫君に頑張ってもらいたい」

「……」


 ベレニケとルベウスは、メイの言葉で互いに顔を見ると真っ赤にさせた。とても初々しい様子をメイは、にやにや興味深そうに見ている。


「今度夫婦喧嘩をするようならぜひとも私も呼んで欲しい。今後も私を必要とするならね」

「ルベウスの仕事の関係もありますからないとはいえませんね」

「諜報機関の一人だから迷惑をかける。今回のこともそうだ」


 ルベウスは、深いため息をついて黙り込んでしまった。ベレニケは、しょうがないと言葉にして背中をさすっている。


 二人の仲たがいを画策したのは、ルベウスが所属する諜報機関の所長の仕業だった。ルベウスは、顔良し地位良しの優良物件だったために近づいてくる女性がありとあらゆる噂や話を持ってきていた。それは馬鹿に出来ない功績であり。結婚し同じような働き方が出来ないとルベウスが言ったため所長は、結婚前の状況に戻そうと画策したらしい。

 アレスとレリスは、国外の別れさせ屋と呼ばれる人物で所長に金で雇われていた。その二人については、ルベウスと副所長がお金を積み証言を引き出していた。その証言を使い、他国の人間に国の内部事情に纏わることを漏洩したと主張し所長は解任させられたという。そのあとのことは、多分命はないだろうなと詳しく聞いていない。


「私は、この王都にいる生き物の声を聞いただけだからね。ベレニケの血筋が途絶えると私の契約者がいなくなってしまうから今回のことくらい協力するさ。それに未来の契約者の声も聞けたし。仲良くするのもほどほどにしてくれと言っているね」


 メイの言葉にルベウスが呆然とまだ薄いベレニケのお腹を見ている。ベレニケ自身は、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「やはり物語は、ハッピーエンドが一番だよ。そろそろ帰るね」


 メイは、飲み終えた紅茶を残して姿を消した。


「しまった、声が聞こえるなら男の子か女の子なのか聞けばよかった」

「跡取りでなければ困りますよね」


 ベレニケの声は、何か思案に思うことがあるらしく少し低い。そしてルベウスは、その様子を見て慌てて言葉を重ねた。


「性別は、どちらでもいいんだ。ただ名前を決めるときにどちらかわかると名前にかける時間を多くとれそうだったから。わからないなら両方ともじっくり考えればいいだけだ」

「名前をつけるために性別が知りたかっただけなのですか」

「君が苦労して辛かったことをこの子に押し付ける気はない。この子にとって祝福になるいい名前にしたいな」


 ルベウスの言葉にベレニケが泣いてしまったが、その涙は苦しみの耐えるためのものでなく胸いっぱいの幸福をかみしめるためのものだった。

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