8・そういう意味での貴族
8・そういう意味での貴族
その学生寮は、妙に陰鬱としていた。
いや、俺たち生徒会役員五名が、ミオナが調達した銀製の武器を装備して。
吸血鬼のジェイン先輩をぶっ飛ばそうと、奴の居室がある寮を訪れたときの感想なんだが……。
「わっ!」
シーズが悲鳴を上げた。なんだ? と思ってそっちを見ると。廊下内を歩いていた俺たちの方に、コウモリの群れが迫ってきていて、シーズの奴は見事に吸血攻撃をくらったらしい。吸血コウモリの毒は怖いぞ、と思っていると。
「げ、解毒っ!!」
シーズは自分に解毒の魔法をかける。コイツは魔導士と僧侶の兼任職という「司祭」の見習いなので、攻撃魔法と治癒魔法の両方が使える。が!
「司祭」という職は成長に極度の経験を必要とする職なのだ。故に、まだ二年生のシーズが何というか、攻撃治癒どっちつかずの半端な初等から中等の呪文しか使えないのは責めるべきではないんだがー……。まあ、頼りないことは確かだ。
「ミオナ。頼むわ」
セルフィナが、職業「魔導士」のミオナにコウモリを焼き払ってくれという。
「わかりましたわ、会長」
ミオナは、結構な速さで、広範囲炎熱呪文の詠唱を終え、それをぶっ放した。
コウモリの群れはほとんどがそれ一発で焼き払われたが。
ひときわ大きいコウモリが生き残っていて。
「フフフ……。生徒会役員の連中か。もうそろそろうるさく言ってくるとは思っていたが……。まあ、いい。どちらにしても叩きのめしてくれる。この、ジェイン・ドラクロワ自らがな!!」
そんなことを言う、大きなコウモリだったが。どうやら、ジェイン先輩がコウモリに擬態していただけのようだ。廊下に降り立つと、皮膜の翼を一旋させる。
するとそこには、学生服の原型は一応とどめているんだが、貴族趣味の装飾過多でゴテゴテしまくった衣装を身に着けた、顔の青白い筋骨隆々な若い吸血鬼が姿を現した。
「シーズ!! 敵戦力鑑定!!」
セルフィナが、指示を飛ばす。するとシーズは、銀ぶち眼鏡をクイクイやって、ジェイン先輩を凝視して。
「魂属性『聖』! 職業『聖騎士』! 行動に矛盾しているようですが、ジェイン先輩の属性は『聖』です! ……聖属性の吸血鬼なんて、初めて見たかも」
シーズは興味深そうな顔をするが……。
「人の心を凝視する眼鏡か。悪趣味な代物だな。おい、貴様ら。出てこい。馬鹿どもが来たぞ」
ジェイン先輩がそう言葉を吐くと、寮の部屋部屋の扉が突然開いた。
そして、数十人の学生たちがこちらに向かって歩んでくる。
「ジェイン先輩……! いや、吸血鬼ジェイン・ドラクロワ! ここまで貴様は僕を増やしていたのかっ!!」
セルフィナが怒声を放つ。だが、ジェイン先輩は首を横に振った。
「こいつらに対して。私は吸血行為はしていない。ただ、わが人格と人徳に惚れ込み、私を戴くようになっただけの者たちだ。まぁ、なんというか」
ジェイン先輩は、そこですっげえ余裕面をかました。
「貴族としての、人の上に立つものとしての。器量というモノが桁外れているという事だろうな、この私は。セルフィナ、貴様のような人格未熟の小娘と違って」
あ。セルフィナの目に殺気が走った。コイツ、誇りに対して異常に敏感だからな。