14・夏休みの帰郷
14・夏休みの帰郷
「え? ジェヴァ? 夏休みに里帰りするのか?」
セルフィナが、相変わらず高慢な態度だが。打ち砕けたような感じに聞いてきた。
「ああ。父上の前で、半年に一回はね。邪神の教えを教え込まれなきゃならないんだよ」
「……この前の。素行不良の一年生の大量死傷事件。あれはお前の仕業だったと、ヴォイゼから聞いたが……。邪神の教えとは、そのような邪悪なものなのか? 実の所な。私には、貴様がそのように邪悪に染まり切っている人間には見えないんだ。何かどこかに、『やさしさ』のようなものが隠れ見える」
「ああ。俺は優しいぜ。それは、邪教の僧侶としての未熟具合が現れている証拠だ。『交渉に必要なだけの優しいフリ』は、邪教の僧侶にも必要だが、自分の中の感情でもって『本当のやさしさ』を出してしまったら。それは邪教の僧侶としては恥もいいところなんだよ」
「なにか……。哀しいな。邪教の僧侶というモノは……。素直な感情表現を許されていないのか……」
おいおい、セルフィナの奴。その整った顔の激情を現す青い瞳の目から。大粒の涙をこぼしやがった。
「おーい、ジェヴァ。会長泣かせてどうすんだよ?」
横から、ヴォイゼの奴が俺の首に腕を回して。軽く締め上げて笑っている。
「ヴォイゼ! 暑苦しいから止めろ! しょうがねえだろ⁈ 俺は邪教の教えを広める司祭長の男の種で産まれて。あの親父の稼ぎで幼少期を育てられて。この学院に入るまでも多大なる金を使わせてるんだからよ!」
「親なんて無視しちまえよ。会長みたいな美少女。泣かせてもいいのか? お前は?」
ヴォイゼが、ガハハハと笑う。そうはいかねえんだよ、この筋肉バカ!
「ジェヴァさん。じつは、夏休みには。生徒会みんなでパールトール湾に海水浴に行こうという計画があって。予算ももう組めているのですが……。行きたくはないのですか? 風光明媚な観光ビーチが待っていますよ?」
ミオナがリムレス眼鏡をクイっと押し上げながらそんなことを言う。……そりゃ、ずいぶん楽しそうな計画じゃねーかよ。
でも、俺は首を横に振った。
「家業を無視するわけにはいかない。親父の跡の司祭長の任には、兄貴が就くことになっているが……。俺にはその部下として、邪教の信仰を推し進める役割がある」
「……邪教なんか信仰しているから……。そうなるんだよ」
シーズの奴がポツリと言ったが。俺はあえて完全無視を決め込んだ。
そして、夏休みに入って三日後。
「ジェヴァ様。お迎えに参りました。ゾーム様もお待ちでございます」
「ああ、わかったロド」
ドライセン家の御者の一人のロドという男が、馬車に乗って学院にやってきて。
俺の部屋に来て、そう言った。
「荷造りは終わっているようですな、ジェヴァ様」
「そういう事には抜かりがないのが俺だ。荷物を持ってくれ、ロド。父上の所に帰るとしよう」
「承知いたしました。ゾーム様は、楽しみにしておられますよ。ジェヴァ様、あなたの邪性にどの程度の磨きがかかっているかを」
「……まあ、見せてやるさ。父上にも色々とな」
俺は、この学院の授業で覚えた様々な技術と、経験。それに体験。それを心の中で反芻して、腹に力を入れた。
なにせい、邪教司祭長の父上は、胆力も邪性も半端ない。
呑まれてしまったら、逆に失望させてしまう。そんなことを思いつつ、俺はロドの操る馬車に乗った。




